普通の女子高生だと思っていたら、魔王の孫娘でした

桜井吏南

始まりの章

第1話 親子の朝

 私 村瀬 星歌はどこにでもいるごく普通の女子高生だと思う。


 赤茶の髪は天パーで瞳の色は赤いから外見は目立つけれど、お母さんが外人だったらしいから仕方がない。

 高校生になり髪を染めパーマをかけている子が増えたため、今ではそこまで目立つ事はなく三つ編みから髪をおろした。

 身長は平均よりは少し高くって、中肉中性。もう少し成長するとは思う。

 周囲からの顔立ちの評価は、八重歯がチャームポイントで笑顔が似合う女子高生。

 成績は平均点より少し良い程度ぐらいだし、運動神経は良い方だとは思うけれどスポーツ万能とは言い難い。

 友達は男女問わずそれなりにいるけれど、スクールカーストでは晩年二軍選手。

 趣味はサイクリングにカラオケ。後は漫画やラノベと言った読書にゲーム。と言う軽いオタク。

 家族はお父さんと二人暮らしで、お母さんのことはまったく覚えていない。

 なんでも私が赤ん坊の時住んでいたアパートが家が火事になり亡くなり、その時写真もすべて燃えてしまったらしい。

 その辺のことをもっと詳しく知りたいけれど、その時お母さんを救えなかったことがトラウマで聞いても悲しそうに謝ってばかりいる。

 お父さんとは高校時代から交流がある友達に聞いても、時が来たら話してくれるだろうと言うだけ。お母さんの名前がスピカである事しか知らない。




「星歌、来週誕生日だよな? その日お父さんとデートしないか?」

「は、十六才の誕生日にお父さんと?」

 

 もうすぐ夏休みになるある晴れた日の朝、セーラー服に着替えいつものように朝食とお弁当を作る。

 すると父さんがやってきて真剣な眼差しで問うけれど、内容が内容なだけに呆気に取られ棒読みで問い返してしまった。


 細身でイケメンではないものの格好いい分類に入りそうなお父さんなのに、猫背に髪はぼさぼさで無精ひげ。

 若いはずなのに下手したら四十過ぎの冴えないおじさんにしか見えない。

 職業は今流行のIT企業のエンジニア。

 性格も争いごとが大嫌いで虫も殺さない。よく言えば温厚、悪く言えばお人好しで頼りない人。

 趣味は散歩でたまにふらりと出掛けているけれど、体力がなさ過ぎてなのか帰ってきたらすぐに寝てしまう。あ、シングルファザーだから料理と掃除は得意かな?

 そんな残念過ぎて駄目駄目のお父さんでも、私はお父さんの事が大好き。

 ただファザコンだと思われたくないから、普通の父と娘の距離を保つように努力をしている。

 だからこの歳になって誕生日にお父さんとデートなんてありえない。

友達に見られたら、死ぬほど恥ずかしい。


「用事でもあるのか?」

「そう。先約があるの」


 本当はまだ何もない。

 しかしあてならある。


「そうだよな」

「……夕食だったら一緒に食べに行っても良いよ」


 何かを察してくれたのか肩を落とし凹みまくりのお父さんはまるで捨てられた子犬に見えてしまい、仕方がないからこの代替案でどうにか手を打ってもらうことに。


 外食なら家族で行っても、おかしくはない……はず。


「ありがとう。その時は恥ずかしくない格好で行くから」

「え、あうん?」


 初めて聞く台詞に戸惑う。


 お父さんは今まで一度もファッションを気にしたことがなくて、必要最低限の身だしなみ(髪はボサボサで無精ひげだが)を整えるぐらい?

 だから別にお父さんが私のお父さんだって知られる事自体は恥ずかしいとは思ったことはない……まさか私が格好悪いお父さんを恥ずかしいとでも思っている?

 だとしたらあまりにも見当違いだ。

 ……しかしまぁせっかくやる気になってくれているのだから、そのやる気を損なるとを言ったらいけないよね。

 格好いいお父さんも見てみたいし。


「期待しているね。お父さんの見た目は悪くないはずなんだから、絶対格好良くなるはずだよ!」

「そうか? じゃぁ龍ノ介にコーディネートしてもらうな」

「うん、それがいいよ」


 私の言葉にますますやる気になるお父さんは、無難な頼り先を出して私の期待は大となった。

 

 龍くんは国語の教師で剣道の達人。その上センスある長身のイケメンで授業は分かりやすいし優しい独身貴族。

 私にとっては物心つく前からよく知る格好いいお兄さん的存在で、高校ではダントツ人気を誇る先生だったりする。

 実は三十路だって、誰も気づいていない。

 大人しく草食系のお父さんとは何もかもが違うのに二人は高校時代からの悪友で、しかも龍くんがお父さんを尊敬しているみたい。

 世の中分からないことだらけであると思いながら、卵を割れば双子だった。





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