■読書案内――舞台の時代・地域について

この時代をより詳しく知るための本を紹介します。


●川本芳昭『中国の歴史5 中華の崩壊と拡大 魏晋南北朝』(講談社、2021)


講談社から出版され文庫本になった、中国の通史つうしシリーズのうちの一冊です。


通史つうしとは戦国時代せんごくじだいしん王朝時代などのひとつの時代だけでなく、すべての時代を通した歴史を指します。


この中国の歴史シリーズでも一巻でひとつの時代を担当し、黄河文明こうがぶんめいなどの古代文明から20世紀の毛沢東もうたくとうまでを11巻かけてたどります。最終12巻はタイトル通り『日本にとって中国とは何か』という問題をさまざまな時代の研究者が論じる番外編です。


話をもとに戻すと、冒頭でご紹介した第5巻で述べられているのが西晋せいしんをふくんだ時代、魏晋南北朝ぎしんなんぼくちょう時代です。


魏晋南北朝ぎしんなんぼくちょう時代は3世紀はじめからから6世紀の末まで、およそ400年続いた「乱世」です。


はじめて中華を統一したしんしんを倒した前漢ぜんかんと、しん王莽おうもうによる混乱をはさみつつ再興された後漢ごかん秦漢しんかん時代、紀元前2世紀から紀元2世紀)。


中華を再統一し、外交では高句麗こうくり遠征を行い、内政では大運河を建設したずいずいを受け継ぎ広大な領土とさまざまな文化を内包し「世界帝国」となったとう隋唐ずいとう時代、6世紀末から10世紀初頭)。


秦漢しんかん時代、隋唐ずいとう時代という統一され安定した時代のはざまに位置する暗黒の「乱世」、それが魏晋南北朝ぎしんなんぼくちょう時代だとされています。


また魏晋南北朝ぎしんなんぼくちょう時代という「乱世」ではかんをはじめ統一王朝をたてた漢民族かんみんぞくと、それ以外の遊牧である非漢民族ひかんみんぞくが争っていた、という理解がされがちです。


しかし実際はそれほど単純な時代ではありませんでした。


争いは必ずしも漢民族かんみんぞく非漢民族ひかんみんぞくの間で起こったわけではありません。


漢民族かんみんぞく同士、非漢民族ひかんみんぞく同士、さらに親兄弟やおじおいといったごく近い関係の間でも激しく起こりました。


また漢民族かんみんぞくの側に立つ非漢民族ひかんみんぞくもいれば、非漢民族ひかんみんぞくに仕え支えた漢民族かんみんぞくもいました。


くりかえしになりますが、魏晋南北朝ぎしんなんぼくちょう時代は約400年にもおよぶ長い時代です。


その間、目を覆いたくなるような暴力の絶え間ない応酬おうしゅうが続いたのは事実です。


一方で、華麗かつ壮大な新しい文化が花開いた時代でもありました。


なぜこの時代は血なまぐさい暴力の応酬と華麗な文化の隆盛りゅうせいという、両極端な、一見矛盾する特徴をもつのか。


それはこの時代に激しく起こった民族間の対立、そして融和ゆうわという相反する現象のためでした。


血で血を洗う衝突をくり返しながら人々はお互いの文化を吸収し、新たな文化と秩序、新たな中華を作り出します。


400年におよび膨大な人命をすり潰しながら続いたスクラップアンドリビルドの結果、現代中国よりもずっと狭かった中華の範囲は魏晋南北朝ぎしんなんぼくちょう時代をへて劇的に拡大し、文化文明は飛躍的に豊かになります。


そのダイナミックな歴史のうねりはタイトル通り『中華の崩壊と拡大』と呼ぶにふさわしいものでした。

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