魔法少女好きのドジっ子幼馴染をバカにしていたら本当に魔法が使えたんだが……!?

久世れいな

第1話 いつかいつかのプロローグ


 「ユウト、今まで隠しててゴメンね」



 …………こいつは何を言い出すんだ? 今は無駄話してる場合じゃないだろう。俺は瓦礫がれきを踏みしめながら手をのばす。砕けて骨組みがき出しになったコンクリートが、音を立てて崩れた。


 空を覆い尽くすどす黒い雲が、低い音をとどろかせながらゆっくりと流れてゆく。遠くから聞こえるサイレンに嫌な非現実感を覚え、言い知れぬ恐怖が体の底からい上がってくる。


 俺たちは、瓦礫の山の上。

 正確に言うならば『教室だった場所』に立っていた。



 「何ボヤッとしてんだ!? 早く逃げるぞ、ヒナ!」



 泥だらけの制服を着た少女は、差し伸べられた手にチラリと視線を向けたあと、そのツーサイドアップの髪を揺らしながら静かに首を横に振る。――どうしてだ!? こんなとこにいたら俺たちは……。



 「わたし、実は魔法少女なんだよ。えへへ」


 「何を……言って…………?」



 ――魔法少女だって!? そんなのはアニメとか漫画の世界の話だろ。馬鹿な!


 突飛とっぴな事を言われ苛立いらだちを隠せずにいると、「見ててね」と言って片手を握り胸の前に構えるヒナ。今まで1度も見たこともない真剣な表情に、これは冗談などではないということを悟った。



 「NemRINネムりン、いくよッ!」


 <――承知。戦闘プログラムを起動>



 どこからか低い機械音声のアナウンスが響く。と同時に、ヒナの足元に魔法陣のような青白い光の輪が現れた。



 <変身シークエンスへ移行。進捗、23、49…………100、達成>



 光の輪が、足元から胴、胸、あたまと上がってゆくのに合わせて、ヒナの衣服が次々と書き換えられてゆく。


 リボンの付いた黒いパンプスに白のストッキング。そして、白と黒を基調にしたハイウエストのワンピース。一見するといわゆるゴスロリのようであったが、後ろにベールのあるヘッドドレスが最後に出現したことで、それらは聖職者シスターを意識したものであると理解する。



 <召喚。武器、天使の慟哭どうこく


 「うっ……ぐ…………ッ」



 ヒナは胸に添えていた手で何かをしっかりと掴み、ひと思いに体から"ソレ"を引きり出した。まるで悪魔でも顕現けんげんしたかのような禍々しい気配に軽く目眩めまいがする。


 呼吸を整えるとヒナは俺に笑顔を見せた。心配させまいという気持ちが伝わってくるが、正直それどころじゃなかった。



 「ね? ホントのホントに魔法少女でしょ?」


 「ま……魔法っていうか、何なんだよ、意味わかんねぇよ……!」


 「実はヒナちゃんもよく分かってなかったり、する! ――でもね、わたしは戦わなきゃいけないの」


 「戦うって……ここらをめちゃくちゃにした奴とか!? 絶ッ対に駄目だ! そんなこと許さない! それに、それにもしものことがあったら…………俺……」


 「だいじょーぶい! ヒナちゃんは、とてとて強いのです。だから、安心して待ってて欲しいな〜」



 指でVサインを作って、にへら〜と表情を緩めるヒナ。混乱した頭で、どうすれば引き止められるかを必死に考えるもいい案は出ない。くそっ……何もかも理解できねぇよ…………!



 <――警告。目標、西方向に移動を開始。速やかな追跡を推奨>


 「おっけい、NemRIN。……そいじゃユウト、行ってくるね」



 機械音声に従い、くるりと向きを変えこの場を去ろうとする背中にありのままの気持ちをぶつける。



 「ヒナを、失いたくない。俺も戦わせてくれ」


 「………………」



 白と黒の衣装を纏った彼女は小声で何かを呟くと、目にも止まらぬ速さで彼方へ飛び去ってゆく。


 いつの間にか降り始めていた大粒の雨の中、置き去りにされた俺はひとり、空を眺めていた。



【続く】

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