第二部 秘密兵器の目覚め

二の一 袋小路からの脱出 〜未了〜

 〜第一部のあらすじ〜


 台所シンクからの排水を受け取る最初の汚水枡(第一汚水枡と呼称)から排水が溢れた。

 ウェブ検索と道具の準備を経て、第一汚水枡からの汚泥引き上げと構造の把握に成功した——




 ここまでか。


 汚水枡から腕を引き抜く。

 傾き掛けた陽は弱々しく、けれど寒さは感じなかった。

 代わりに、道具類、身に纏うモノ、周辺の雰囲気、すべてが鼻を刺激した。


 道具類を新聞で包んでゴミ箱に突っ込んだ。

 意識してしまえば我慢できない不快感のある長手袋を引っ剥がす。

 前腕から指先までじっとりと濡れている。

 同じくゴミ箱に突っ込むと、裏庭の洗い場へ急いだ。


 手を洗う。


 水だけで取れるほど柔な臭いではない。

 早く屋内に戻り、身を清めたいところだが、確かめなくてはならない。


 リールからホースを伸ばし、汚水枡まで持ってくる。

 ノズルをストレートにして、台所シンク側、第一汚水枡の上流に当たる排水管に向けて噴射。


 こぉおおおお。


 排水管に反響して独特の音が鳴る。

 出てくる水は、茶色。それから、黄土色と白の混じった脂の小さな固まりもころころ出てくる。


 固まりは汚水枡の底に溜まっていくが、

 水は下流へと流れて行っているようだ。


 戻ってくる水色が透明になるまで水を流し、止める。


 良さそうだが。もうひとつ。


 台所に上がり、洗い桶いっぱい水を溜める。

 一気に返して、汚水枡を覗き見る。


 ちょろちょろちょろちょろ。


 透明な水が、横穴から流れ落ちる。

 水位は、やはり上がってこない。


 袋小路は破られた。

 汚水枡の洗浄が、完了したのだ。


 完璧とは言い難い。

 底は満足に浚えておらず、上流側もホースの水で洗浄できたのは多く見積もって二十センチほどだろう。


 それでも、当初の目的は果たした。

 台所シンクからの排水は、溢れずに公共下水道まで流れている。


『おすい』フタを閉めた。

 ゴミ箱を上に乗せる。他意はない。定位置だ。


 レインコートやバケツ、汚泥の詰まったビニール袋五つをゴミ箱に捨て、屋内に戻った。

 石鹸で手を洗い、衣服を脱いで洗濯機に入れて回し、風呂に入って身を清めた。

 洗面所で洗っただけでは取れなかった臭いから、ようやく解放された。


 適度な疲労感、風呂上がりの爽やかな心地。

 懸念を払拭した満足に浸り、夕飯に舌鼓を打つ。

 スーパーの揚げ物が普段よりも美味しく感じられる。


 そして。

 食事の片付けの最後、洗い桶に溜まった水を流した。


 



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