転生したいとは言ったけど魔王の顧問役になるとは聞いてない〜転生してもブラック職場ってマジですか?〜
ふぃるめる
第1話 異世界にもブラック職場があるらしいんだが……。
「はーい、ご新規さんいらっしゃい〜」
川の畔の花畑を抜けると小さな店があった。
俺の前を歩く人達は見向きもしないけれど俺は、『転生承ります』と書かれた登り旗が気になってふらっとその店に足を踏み入れた。
「まぁこれでも飲んで元気だしなって」
店の店員なのかオーナーなのかは分からないけど、可愛らしい服を着た女の子がカップに入った七色のドリンクを差し出してきた。
「これ……飲めなさそうな色してるんだけど?」
飲んだら劇薬でしたとか言われたら冗談じゃない。
いや、でも待て……俺もう死んでるから関係ないのか?
「お客さ〜ん、それ飲まないと転生できませんよ?」
え、転生出来るって客引きのための文句とかじゃないの?
これ、マジなやつだったんか。
「お客さんは、転生に興味があってこの店に入ったんじゃないの?」
「まぁ……それはそうなんだが……」
「なら、それ飲みなって」
言われるがままに飲むと甘いような酸っぱいような不思議な味だ。
「どう美味しい?」
味なんて聞かれてもわからないの一言。
「なんとも言えん……」
素直な感想を言うと
「ん〜そっかぁ……そのジュースで何に転生するのか大方、決まっちゃうんだよね?」
ニコッと笑うと少女はとんでもないことを言った。
大事なことなら、先に言えよっ!というのが本音。
まだ転生するかしないかも決めてないうちから、変なドリンク飲ませれてそれ飲んだから転生先が決まりましたって言われても……ねぇ?
「飲む前に言って欲しかったなぁ……」
「ごめん、ついウッカリしちゃった……てへっ」
ウッカリで済む話じゃねーだろ、業務に支障きたしてるからクビ案件だ。
舌ベロを出して笑うと少女は、写真を撮りました。
「過去にあった転生先の事例なんで、まぁ茶請けのお菓子の代わりに見といてくださいよ」
写真に映っているのは、醜悪な顔をしたゴブリンとエルフの美少女となんかよくわからない狼みたいな獣と半馬半身のケンタウロスだっけ?の写真だ。
とてもじゃないがゴブリンで茶は飲めない。
「絶対なりたくない奴も混じってるんだけど……これは?」
「うーん、前世での行いも反映されるっぽいですよ?」
ぽいです程度の知識で人を転生させてんのかあんたは!と思わずツッコミを入れたくなるがグッと我慢する。
「まぁ……俺は、会社のために時間外労働で奉仕する社畜だったし、転生したらちっとはマシな待遇になるだろ……」
「うんうん、そう思いますねぇっ!」
あかん、この女の子にそう言われると、まともな転生先じゃない気がするッ!
「あの、今だったらまだ止められるとかってことはあったり?」
「なーに言ってるんですかぁ?今更、止められるわけないでしょう?こっちだって明日のおまんまが懸かってるんですから!」
え、どういう契約なん?
「それはどういう?」
「しょーがないですねぇ、教えてあげますよ。耳の穴かっぽじってよく聞いてくださいね?」
そう言うと少女は、大きな欠伸をした。
よく見たら化粧で誤魔化してるけど目の下にクマができてるな。
「私は
あー、聞き慣れた言葉がいっぱいだぁ……。
てか、ネルソネーラ?とかいう異世界にもブラックな職場があるのか……。
この転生業務をやってる契約社員も大変なんだろうなぁ。
二十四時間勤務とかどうなってんだ労働形態……。
労基とか無さそうな気がする。
三年間の使い潰し契約ってことか?
いくら責任を負うことが少ないとは言え、福利厚生を受けられない上に、ボーナスも退職金もなければローンも組めない。
なんだかこの少女が他人を見る目で見れなくなってくる。
「な、なんですかその仲間を見つめるような暖かい視線は!?」
「いや、だって同族だろ?」
「違いますぅー!貴方みたいに風呂で死んだ人と一緒にされたくありませーん!」
少女は、俺にとって驚きの事実を告げた。
え、俺……風呂で死んだの?
自宅で死ぬと不審死扱いで警察来ちゃうからなぁ……大家さん、すみません……。
そんでもって俺のこの太ってないけど対して筋肉もなく痩せてる貧相な体が湯船で発見されるのかと思うともう……今から戻って死に直してきたい。
昔、手相占い師に枕の上では死なないとか言われたけど、それってそういう意味だったんか……。
「むふふ〜なっさけないんだぁ〜」
ひとしきり俺で笑った後、少女はため息混じりに言った。
「正社員なりたいな……」
同じブラックな職場で働く社畜ではあったけど正社員な分だけ俺の方がマシか……。
「まぁとにかく今から
少女が差し出した紙は、枠だけがあって何も書かれていない。
「それでは、行ってらっしゃ〜い!」
ディ〇ズニーランドのキャストよろしく少女がそう言うと、俺は眩い光に包まれると共に、膨大な量の知識が流れて来るのを感じた――――。
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