嘘
【報告】今回の件について《井川#111》
同接:808人
コメント:待機っ!!
コメント:一体何を話すのやら
コメント:久しぶり……といっても数日だけど
コメント:報告?
コメント:初見です
コメント:S・H・A・Z・A・I☆
コメント:時代は変わったなぁ
あと1分で夜の9時。
あと1分で配信の時間。
いつもより人が多い。
始まってもないのに1000人くらいが待機してる。
いくら事前に告知したからって、多すぎる。
だから緊張するし、怖い。
でも、だからといって逃げる訳にはいかない……これ以上は。
「……すぅ…………はぁ」
大きく息を吸って、吐き出す。
緊張はほぐれない──。
でも、もう配信の時間だ。
配信が始まった。
「……ゲーム配信用アンドロイド井川#111。……今日は、みんなに報告があって急遽枠をとった。……いつもより人が多くてうまく話せないかもしれないけど、ちゃんと聞いて欲しい」
挨拶を終えて早速本題に入る。
コメント:はじまた!!
コメント:うんうん
コメント:りょ
コメント:ネット記事の話?
コメント:不登校ってほんと?
流れるコメントは、やっぱり記事について書いてる人が大半。
同接が多い理由も、そういう人が集まったから。
だから、話さないといけない。
自分のことを。
「……いまから話すのは、コメントのみんなも気になってる例のネット記事について。……ボクが学校に行ってないんじゃないかっていう疑惑のこと」
コメント:おっ
コメント:キタキタァ!!
コメント:いままでダンマリだったのになぜ急に?
コメント:昨日のお嬢様とアキラのコラボが地味に効いてそう
コメント:話してくれるんか
ぼくがそう言うと、困惑と期待のコメントが数多く流れてくる。
「……っ」
ここまで視聴者からの反応が良いのも初めてで、流れるコメントの速さに少し気圧される。
コメント:大丈夫?
コメント:なんか声ちょっと高くなった?
コメント:なんかキツそう
コメント:無理すんな
そんなぼくに気付いたのか、気遣ってくれるコメントもあった。
そんな優しいコメントを書いてくれたのは、見覚えのある名前たち。
ミサキとマドカとコラボする前から──昔からぼくの配信を見てくれてた人たちの名前。
こんな騒動になる前から、チャンネル登録をしてくれていた人たちの名前だ。
その名前を見たら不思議と恐怖が抜けていく。
「……ありがとう。……大丈夫、ちゃんと話せるから」
大丈夫。
そうだ。
ここは別に、謝罪会見の場所でもなんでもない。
ここはぼくが立てた、ぼくだけの独壇場。
画面の向こうにいるのは、ぼくのファンと有象無象のじゃがいもたち。
そう考えたら、気持ちがスッと楽になった。
「……すぅ…………はぁ」
大きく息を吸って、吐き出す。
今度は大丈夫。
──もう、緊張はほぐれた。
そうしてぼくはゆっくり時間をかけて視聴者に打ち明けた。
自分が中学2年生であること。
そして、今は学校に行っていないこと。
コメント:─────!!
コメント:─────っ!?
コメント:─────www
コメント:─────
コメント:─────!
それは記事内容が本当であることの裏付けで、コメント欄は大いに盛り上がった。
ここまでは予定通り。
重要なのはここから先。
これから話す内容は、今日のお昼にアキラとしゃべったこと。
アキラが提案してくれた解決策。
この炎上騒ぎを終息させて、それと同時にサッカー部のアイツにぼくと『井川#111』が別人だと誤認させる方法。
それは単純で、簡単で、でも影響が大きい方法。
「……今日、久しぶりに学校に行ってきたよ」
それは、この配信で話す真実の中に嘘をひとつ混ぜ混むこと。
◇◇◇
次の日。
ぼくは本当に学校へと登校していた。
昨日の配信でやったことは『学校に行ってない』のに『行った』と嘘をつくこと。
これには2つ目的がある。
ひとつは炎上をおさめること。
今回のぼくに対する炎上は、学校へ行っていないということが大人たちの社会的な反感が大きくなっていた要因だと思う。
それなら『学校へ行ったと宣言すること』つまり『不登校をやめたこと』を公表することで批判の声は少なくなるはずだってアキラが言っていた。
そして実際、炎上の火は少し小さくなっている。
まぁ、批判の根本的な原因がなくなったんだからそれも当然。
嘘だけど。
中には『ぼくの話を信じていない人』、『また不登校するはずと言う人』、『ただ普通のことをしただけで褒めるようなことではないという意見を落とす人』もいたけど、大多数は安心してくれたというか納得してくれた人の方が多かった。
嘘だけど。
そしてもうひとつの目的、クラスのサッカー部のアイツにぼくと『井川#111』が別人だと誤認させるため。
アイツが井川#111の配信を今でも見ているのなら、昨日、井川が学校に登校したんだと誤認するかもしれない。
でもぼくが昨日、学校には行っていないということはアイツも知ってるはず。
そこで矛盾に気づく。
それが、ぼくと井川が別人だという誤認に繋がってくるはず。
あと、リアルのぼくと井川を別人にするための作戦も昨日の配信でやっておいた。
嘘とその作戦の2つで、誤認させるのが狙い。
「……よし」
そして、今日はそれを確認するために学校に来た。
正直言って、配信で嘘をついた以上に怖いと感じている。
サッカー部のアイツが、ぼくのことを学校中に言いふらしてるかもしれない。
昨日の配信をそもそも見ていないかもしれないし、見ていたとしても嘘を嘘だって見抜いているかもしれない。
かもしれないし、かもしれない。
不安で不安で仕方がない。
だから、ここに来た。
怖くて、恐くて、足がすくむけど、勇気を振り絞ってここに来た。
ちゃんと誤認してくれているのか確認するために。
そして昨日の配信での嘘をただの嘘で終わらせないために。
これからちゃんと登校できるように。
これがダメだったら、きっともう2度とこの学校には通えなくなるかもしれない。
そんな時は、アキラにまた頼ってみようかな。
Vすきアキラ。
友人としては年が離れすぎてるけど、もう他人とは呼べないくらいの人。
ちょっと頼れる大人のひと。
うん、いいかもしれない。
足が少し、軽くなった気がした。
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