勇気
うーん。
まず誰に連絡するべきか。
井川君か、ミサキさんか、円さんか。
この3人にゲームを楽しめるようになって欲しいし、あわよくば年末コラボのチームメイトとして誘いたいというのがいまの気持ち。
他の人を誘ってる時間もなさそうだし。
であれば、この炎上騒ぎは早めに沈静化させる必要がある。
俺がどれだけ力になれるかわからないけど、助けになれるなら手を差し伸べたいと思う。
でも、そもそもの話、大会に参加してもらうにも主催の許可が必要だ。
炎上を上手くおさめられたところで、年末コラボに誘えないってなったら自分としても悲しい。
だからまず俺が話をつけるべきは──。
ーーーバビ&アキラのチャット画面ーーー
『バビ君、いま時間ある? ちょっと聞きたいことがあって』
『大丈夫。どしたんアキラ氏?』
唐突のチャットにも、バビ君はすぐ返事をくれた。
トップとは思えない気軽さで話を聞いてくれるのは、本当にありがたいことだ。
『俺がこの前コラボした3人を年末大会のチームメイトとして誘いたいんだけど、ダメかな?』
『いんや、問題ない。むしろ大歓迎だな!!』
単刀直入に3人を大会に誘いたい旨を伝えると、問題ないと即答してくれた。
『本当に? もしかしたら、バビ君に迷惑かかるかもしれないよ?』
『あー、炎上のこと?』
『そう』
もしかしたら、3人の炎上について知らないんじゃないかとも思ったが、どうやら知ってる様子。
知っていてなお、OKを出してくれる。
それが善意なのか、何らかの意図があるのか、俺にはわからない。
『我からしてみればあんなもの炎上でもなんでもないがな』
『バビ君からしたらそうかも知れないけど……特にG行為が疑われてるミサキさんを参加させるのって、大会を主催するバビ君にも批判の声が行きそうでさ』
G行為──ゴースティング行為はバトル・ロワイアル系のゲームにおいてもタブーとされる行為。
そして、年末コラボでやるのはバトル・ロワイアル系ゲームの元祖とも言われるガブGだ。
もし、ミサキさんが参加表明するなら、批判の声がより大きくなる恐れがある。
そして、その批判は彼女だけではなく、参加を許可したバビ君に向く可能性だってあるわけだ。
『まぁ、ガブGもG行為に対する目は厳しいが、仮に我に批判の目が向いたとしてもかすり傷程度だろうな。全くもって問題ない。むしろ注目度が上がって同接も増えそうだしな!!』
だと言うのに、バビ君は問題ないと言い切る。むしろ好材料と言わんばかりだ。
『アキラ氏はどう思ってるんだ? 彼女がやってると思うのか?』
逆に、バビ君が質問してくる。
彼女が──ミサキさんがG行為をしてると思うか?か。
『思ってないよ』
即答する。
彼女がG行為をしたなんて、全くもって思っていない。
ただ……。
『でも、視聴者がどう思うか……』
結局はそこだ。
視聴者が彼女を許さなければ、批判の矛先は多方面に向く可能性だってある。
俺に批判の声が向くなら問題ないが、他の人に批判が向くのは申し訳なく思ってしまう。
でも、そんな不安をバビ君は一刀両断する。
『視聴者がどう思うかは関係ない。何を言っても響かない人はいるし、ただ騒ぎたいだけのやつもいる。気にしていたらキリがない。いわゆるアンチってやつだな』
これまでにそういった相手とバトルしてきた経験があるのか、バビ君ははっきりと意見を述べる。
『アンチの好物は批判対象からの反応だ。下手に反応すれば、そこからさらに粗探しをしてまた批判する、そういう悪循環に陥る。そういう相手への対処は無視が一番だ』
『無視?』
『そうだ。安易に批判に向き合えば、かえって声を大きくするのがアンチだ。こういう時は無視が一番。なんなら逆に煽ってみせてもいいかもしれないな!!』
ふむ。
まぁ確かに、アンチと呼ばれる人たちが反応をエサに行動するのであれば、無視が一番の対処法なのは理解できる。
うーん……。
少し考えていると、バビ君が追加でチャットを打ってくれた。
『もし気になるんなら、アキラ氏が3人をフォローしてあげればいいんじゃないかな?』
『フォロー?』
『そう。こういう時に下手に活動休止なんてすれば、より悪い方向に進むのはアキラ氏なら分かるだろう』
『まぁ、経験あるからね』
活動休止中にいつの間にか不倫疑惑が飛び出してきた俺からすれば、疑惑の目は早めに潰した方がいいと考える。
『こういう時に大切なのは、批判を無視してでも活動を続ける勇気だと我は思う』
『勇気?』
『そうだ。活動を休止すればアンチはつけあがってより事態は悪化する。でも批判を無視して活動を続ければ、事態はいずれ沈静化するだろう。でも、批判を無視しし続けるのも簡単な話ではない。だからこそ、そこはアキラ氏がフォローしてあげればいい』
勇気……か。
VTuberになってから約2ヶ月の間、俺は批判にさらされ続けてきた。
その間、逃げ出したいと思う気持ちもあった。
なんでこんなに批判されるんだという恐怖もあった。
不特定多数の知らない人から悪意を向けられることが、こんなに恐いことなのかと驚いた。
でも、そんな中VTuberとしての活動を投げ出さなかったのは家族の支えがあったから。
それがきっと、俺の勇気に繋がったんだろう。
勇気がなければ、俺はすぐ投げ出していたかもしれない。
なら次は、俺が3人に勇気を与えてあげたい。
お節介かもしれないけど、助けになりたいという気持ちは本物だ。
『俺にできるかな』
『逆だぞ。アキラ氏にしかできないことだ』
俺にしかできないこと……。
『ミサキ氏だけじゃない。井川氏も円氏も、助けられるのはアキラ氏だけだ。直近でコラボしたアキラ氏なら話も振りやすいだろう』
『……うん。そうだね』
『FPSセンスの光る井川氏に前世は猫又イスナと目される円氏、ミサキ氏の力量は不明だがここにアキラ氏が加わるとなると、いやはやとんでもないチームになりそうだな!!』
バビ君が興奮気味にチャットを返してくる。
『我は待っているぞ。必ず3人を仲間にして、4人揃って大会に参加してくることをな!!』
覚悟は決まった。
3人の炎上を沈静化させるための手助けをしよう。
そのために、できることは何でもやろうと。
それにしても……。
『なんかバビ君、魔王様みたいだね』
『おうとも。何せ我こそは、地獄の門番『バビ・ルーサ』だからな!!』
ーーーーーー
バビ君に背中を押された。
押してくれた。
3人の大会参加に主催から許可が出た。それならもう何も考える必要はない。
この騒ぎを早く解決して、みんなでゲームを楽しもう。
それが俺にとってのメリットにもつながるはずだ。
さて。
3人の中なら最初に話し掛けるなら、ミサキさんかな。
彼女とは前回のコラボであまり話せてなかったという理由で、次のコラボに誘うことは不自然ではないからね。
となると、コラボ内容をどうするかだが……。
『アンチは無視が一番。逆にアンチを煽るというのも手』
バビ君の教えに従うなら、ここを念頭に置いてコラボ内容を決めるのがいいだろう。
ミサキさんはG行為が疑われている状況だ。
であれば、むしろそこを利用した方がいい。
叩いている側から見て、煽られてると感じる内容。
G疑惑なんて気にしていないというポーズを取ること。
それに、年末コラボへの布石を打つなら──。
あのゲームがいいかな?
ーーーミサキ&アキラのチャット画面ーーー
『相手の画面を見ながらやるシューティングゲームしない?』
『は?』
ーーーーーー
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