第2章 ささやかな森の憩い
第5話 クラッチ兄弟01
空は爽やかに晴れ渡り、太陽が
アリオとセーレはホテルの10階にあるカフェテラスで遅い朝食を取っていた。席の周りには
アリオは鮮やかな赤のドレス、セーレは少年執事を思わせる黒の燕尾服を着ている。テーブルを挟んで向かい合う二人は気品に満ちあふれ、カフェテラスを貴族の社交場に変えていた。食事の最後にケーキが運ばれてくるとセーレは目を輝かせながらフォークを握った。
「シフォンケーキ!! まずはケーキだけで楽しんで、そのあと添えられたクリームをいっぱいつけるのが美味しい食べ方だよね!! ボク、人間は好きになれないけれど、人間の作るお菓子は大好きなんだ♪」
「セーレ、
「え!? 本当!? ご、ごめんね!!」
嬉しくて油断したのか、セーレの燕尾服からは鍵状の尻尾が出ている。慌てて尻尾を消すセーレを見てアリオはクスリと微笑んだ。
──悪魔といっても、無邪気な子供ね。
アリオも白い陶器のティーカップに口をつける。甘いリンゴの香りが鼻腔をくすぐった。
──アリアお姉さまも、アップルティーが好きだった……。
アリオは目を閉じて双子の姉を想った。すると、セーレが口の端にクリームをつけたまま語りかけてくる。
「ねえ、アリオ。またアリアと会話しているの?」
「……」
「人間て不思議だよね。人が死んだとたん、その死者について知りたがるんだから。何が好きだったか? どんな未来を思い描いていたか? そして、最期に何を見たか? それまで無関心でも、『死』っていう
饒舌な悪魔は面白そうに続けた。
「謎の死を遂げた美しい
「……もういいわ」
アリオはティーカップを静かに置いた。アリオにはセーレが挑発しているのがわかっている。悪魔はただ、食後の運動にアリオと
「セーレ、わたしと遊びたいなら、もっと気の
「アリオは手厳しいなぁ……でも、たいていの悪魔は好奇心が旺盛だよ。だから、人間の欲望を叶えて、破滅するまでを観察して喜んでるの♪」
セーレが微笑むと頬に赤みが差して
アリオは身体をジットリと舐め回す嫌な視線を感じた。戦場で
「ねえ、セーレ……」
「あれ? アリオも気づいた? まあ、あんなに殺気を放ってたら当たり前だよね……」
セーレは背後を確認しようともしない。片手でフォークを器用に回転させながら微笑んだ。
「遊び相手ができてよかった。これで退屈しないですみそうだよ♪」
セーレの赤い口がニヤリと開き、八重歯がきらりと輝いていた。
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