Nothing But Requiem(ナッシングバットレクイエム)N.B.R.

綾野智仁

第1部 忘却の葬列

プロローグ

始まりの世界時計

 世界の果てで鎮魂の鐘が鳴り、葬列は地平線の彼方まで伸びている。誰も彼もが生気を失い、陰鬱な顔をしていた。先頭には黒いゴシック様式の服装に身を包んだ少女が立っている。これもまた黒い日傘をさし、背筋をぴんと伸ばして佇んでいた。


 少女の瞳は翳りゆく夕日と同じはしばみいろをしている。しかし、今は他の人間と同様に本来の輝きを失っていた。視線の先には巨大な機械時計と小さなひつぎがあった。


 神々の遺物とされる機械時計は『世界時計エディン』と呼ばれ、世のことわりつかさどっている。そして、棺の中では最愛の人が永遠の眠りについていた。少女は日傘のをギュッと強く握りしめた。



「アリアお姉さま……」



 少女は棺へ向かって呟くと葬列に逆らって歩き始めた。後ろからは時を刻む『世界時計エディン』の調速機の音が聞こえてくる。少女が振り返ることはなかった。


 しかし、どれだけ過去と決別しようとしても、愛しい思い出がそれを許さない。自然と足取りは重くなり、やがて少女は立ち止まった。



──アリアお姉さま、どうして……。



 耐え難い喪失感と怒りが少女の心をむしばんでゆく。心はついに悲鳴を上げ、あふれ出る感情が両頬を伝った。 



──もう一度だけでいい……アリアお姉さまに会いたい!!



 心の中で叫んだ瞬間、目の前の空間がゆらゆらと歪んだ。気づくとひたいに角を生やした少年が、漆黒の翼を広げてふわりと宙に浮いている。少年は唖然とする少女を見下ろしながら面白そうに微笑んだ。



「そんなに驚かないでよ♪ アリオ・トーマ・クルス」



 少年は深紅色しんこうしょくの両目を妖しくきらめかせながら少女の名前を呼んだ。 



「望むなら、叶えなきゃ♪」



 少年はストンとアリオの前に降り立った。小さな手には回転式拳銃リボルバーが握られている。



「ほら、これを受け取って。だって、アリアお姉さまに会いたいのでしょう?」



 魔性の瞳を持つ少年は銃をさし出しながら甘くささやきかける。アリオは魅入られたかのように銃へ手をのばした。

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