三十九膳目 「とうもろこし茶のゼリー」※9/1修正
陽平は先ほど切ったとうもろこしの皮をフライパンで乾煎りにしていた。
「陽平さん、それ何に使うの?」
和樹ができたての擬製豆腐を食べながら、不思議そうにのぞきこむ。
「何って…、食べるんだよ」
「それ皮だよ? 動物じゃないんだからさ」
「もちろんこのままは食べないって。これでお茶作るの」
「お茶?」
「ヒゲとか皮を煎って、それを煮出すの」
「ふーん」
「あのー、和樹さん」
「な、何でしょうか?」
和樹さん、と呼ばれて、和樹が少し身構える。
「それ召し上がってからでいーんで、お米だけ研いでいただけます?」
「ハイハイ」
和樹が空になった味見用の小皿と箸を置き、ゆっくりと米を研ぐ支度を始める。
陽平がゆするフライパンの中の皮はほの少し焦げ目がつきはじめている。黒焦げにならないよう火加減に注意しながら、ほどよい色がついた頃合いで適当な皿に取る。皮と入れ替わりに、今度はヒゲを同じフライパンできつね色になるまで煎っていく。
「陽平さん、お米はいつも通り三合でいいの?」
「うん、それでお願い」
「はーい」
和樹が慣れた手つきで米を測り、陽平に教えられた通りにザルを使って米を研いでいく。料理は専ら陽平がしているが、米研ぎは普段から和樹に任せることが多いのだ。
黄緑色だったヒゲが段々とチリチリになり、カラカラと乾いた音が鳴るようになってくると一気に焦げ目がつきやすくなる。陽平はギリギリを見極めながらフライパンをゆすり、焦げる寸前で火を止めた。
「研ぎ終わったよー」
「ありがとー。こっちも終わったトコ」
「そんなんでお茶作れるの?」
「これを鍋で煮出したら、ちゃんとお茶になる…はず」
「またテキトー?」
「大丈夫だってば」
「いやだから、陽平さんのその言葉は信用ならないんだってば」
陽平は笑ってごまかしながら、鍋をコンロに置く。その中に今しがた煎った皮とヒゲ、生のままの芯も数本入れ、それらがかぶるぐらいの水を注ぎ入れた。
「かき揚げ作った時に芯捨てなかったのは、そういうことだったんだね」
「そうそう。さっきの味噌汁みたいに、芯も料理に使えるからね」
「ところでさ、このお茶、そのまま飲むの?」
「いや、これはデザートにする」
「デザート?」
「ゼラチンで冷やし固めて、生クリームと一緒に食べたら美味しいだろうなぁ、って思って」
その言葉通り、陽平は鍋を火にかける傍らで粉ゼラチンを取り出し、水に溶かし入れた。それをレンジで加熱し、ダマのないように溶かしていく。
「あのさぁ、生クリーム泡立てるの面倒だからやんなくてもいい?」
「えー、ホイップの方がよくない?」
「ハンドミキサー出したくないんだけど…」
「陽平さん、手抜きはよくないって」
「お前なぁ、誰が全部メシ作ってると思ってるんだよ」
陽平が和樹の両頬をつまむ。
「和樹、火力そのままで鍋見といて」
「ちょっと、どこ行くの?」
「休憩ー」
陽平はぷらぷらと台所から出ていってしまった。
それから十分ほど経った頃。
陽平はまたふらりと台所に戻ってきた。
「陽平さん、大分色出てきてるよー」
「おぉー上出来上出来」
何度か頷きながら陽平は鍋の中をのぞきこんだ。
「じゃぁ、これザルでこして固めれば完成だな」
陽平はボールの上にザルを乗せ、その上から更にキッチンペーパーを置いた物を準備し、鍋にできあがったとうもろこし茶をこしていく。こし取ったお茶に少量の砂糖と用意してあったゼラチンを混ぜ合わせ、型に流しこむ。
「さ、これで固まるの待つだけだね」
そう言って陽平は型の上からふんわりとラップをかけ、粗熱を取るために次の調理の邪魔にならない所に置いた。
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