二十八膳目 「とろろ昆布とじゃがいものスープ」

 「何かガッツリした物が多くなっちゃったから、次はスープにしよっか」

 「やっぱりポタージュスープ?」

 「さすがにこれはバレたか」

 陽平が少し不服そうな顔をする。

 「逆にそれしか知らないかも、」

 「何かムカつくから、メニュー変えるわ」

 「え? 何でよー」

 「何かお前をアッと言わせるような料理作りたいじゃん?」

 「ポタージュ作らないの?」

 「うん。気が変わったから、今から違うの考える」

 「何もそこまでしなくても…」

 呆れる和樹には気にも留めず、陽平がその場で考えこむ。難しい顔をしながら冷蔵庫の中身や乾物を入れている棚を覗き、あれこれと物色していく。数分程それを繰り返し、陽平がふと何かを閃いた顔をした。

 「決まったの?」

 「うん。作ったことないけど、この組み合わせなら美味しくなるはず」

 「陽平さんさ、作ったことある料理の方が少なくない?」

 「まぁ、俺レシピとか書き残さないしね。スマホでそーゆーの見てもメモしないし」

 「それでよく料理作れるよね」

 「んなもんセンスと長年の勘よ」

 陽平が何でもないといった風に言ってのける。

 「で、何使うの?」

 「じゃがいもとねぇ、コレ」

 陽平がじゃがいもと一緒に取り出したのはとろろ昆布の袋だった。

 「え? この材料でスープ作るの?」

 「そう。これで吸い物仕立ての汁作る」

 「ポタージュとは全く違うじゃん」

 「そうだね。和樹、少し手伝ってくれる?」

 「何すればいいの?」

 和樹が不機嫌そうな声で答える。

 「フライパンでとろろ昆布を炒って欲しいの」

 「まぁ、それぐらいなら…」

 「弱火にかけて、段々とパラパラになってくるから、いい匂いした頃合いで止めて」

 「またえらくざっくりとした指示だね」

 「真っ黒に焦がさなければ何でもいいから」

 陽平は和樹に指示を飛ばすと、じゃがいもを皮のまま一センチ程のさいの目に切り始めた。それを衣もつけず、油で素揚げにしていく。その横のコンロを使って、和樹がフライパンでとろろを炒っている。段々ととろろの端がチリチリと茶色になり、香ばしい昆布の香りが漂ってくる。

 「どう? これぐらいでいい?」

 和樹が陽平の方にフライパンを傾ける。

 「うん。それぐらいでいいよ」

 「わかった」

 答えながら、陽平がカリカリに揚がったじゃがいもをキッチンペーパーをしいた皿に取っていく。全て揚げ終わると、今度は三つ葉を細かく刻み始めた。それも済むと、陽平は小さめの椀を食器棚から出してきた。

 「じゃ、試しに作ってみよっか」

 陽平が和樹にお椀を渡す。

 「え?」

 「スープ」

 「どうやって作るの?」

 「まず、お椀にとろろを入れて」

 「うん」

 「そこに醤油を少し入れて、刻み三つ葉も少し入れて」

 「うん」

 「で、そこにお湯入れたら完成」

 「……は?」

 陽平の指示が理解ができず、和樹がその場で固まっている。

 「あ、最後に揚げたじゃがいも入れてね」

 「いやいやいやいや、陽平さんマジで言ってる?」

 「うん。とりあえず飲んでみ?」

 和樹の椀に陽平が湯を注ぐ。箸を手渡し、おどおどする和樹のスープを勧める。

 「…どう?」

 「フツーに美味い! けど、」

 「けど?」

 「少し味にパンチがないかも」

 和樹の言葉に、陽平が無言で椀を取り上げて一口すする。旨味のあるいい味だが、昆布のさっぱりした味と、油気の多いじゃがいもが少しかち合っていない。それを想定して陽平は吸い口に三つ葉を入れたのだが、それだけでは不十分だったようだ。

 陽平は冷蔵庫を開け、中からおろし生姜を出してきて和樹の椀に少し入れた。

 「これで飲んでみ?」

 和樹がもう一度汁をすする。

 「あ、もっと美味しくなった!」

 「どう? こういうじゃがいもの食べ方は知らなかったでしょ?」

 「いや、さっすが陽平さん!」

 見え透いた和樹のお世辞でも、褒められてついつい陽平の頬が緩む。

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