二十二膳目 「じゃがバター」

 「じゃぁ、次は無難なもので」

 「何作んの?」

 「じゃがバター」

 「おおっ、間違いないヤツだ」

 「まるで俺が作る料理に間違いがあるみたいじゃん」

 「えー、言葉のアヤだよー」

 「罰として、残りのじゃがいも、全部泥落として」

 「そんなぁー」

 和樹が思わず声をあげる。

 「たった一キロじゃん。じゃがバタ出来上がったら味見させてあげるから」

 「わかったよー」

 和樹が渋々流しでじゃがいもを洗い始めた。洗い上がったじゃがいもを陽平がいくつか手に取り、芽などを取り除いてから一個ずつ蒸し器の中に並べていく。

 「さ、ここから十五分ぐらいかな」

 「もうこれでいい?」

 和樹がヘトヘトに疲れ果てた顔で陽平に訴えかける。

 「あ、洗い終わった?」

 「終わりましたよ、先生」

 「先生はやめろって言ってるだろ」

 「えへへー、俺のことこき使った仕返しー」

 少し顔を赤らめた陽平を見ながら、和樹がいたずらっ子のような笑みを浮かべる。

 「大人をからかうんじゃありません!」

 「俺も大人だけど?」

 「お前は見た目は大人、中身は子供って感じじゃん」

 「えー、それを言うなら陽平さんも結構子供っぽいトコあるよ」

 痛い所を突かれて、陽平は答えに窮する。陽平は無言で蒸し器の中のいもの上下をひっくり返していく。

 「答えてよー、陽平さん」

 「もういいじゃん! この話はおしまい!」

 「あ、逃げた」

 「ハイハイそうですよ、俺は逃げました。和樹君の勝ちですよ」

 投げやりに陽平が言う。

 「怒んないでよ…」

 「怒ってないって!」

 「その言い方がもう怒ってるじゃん!」

 「だーかーら、」

 言いかけて、ふと陽平が笑う。

 「どしたの?」

 「いや、このやり取り自体が子供だなぁ、って」

 「確かに」

 和樹もつられて笑う。

 「さ、そろそろいも蒸し上がった頃かな」

 陽平が蒸し器のフタを開け、中のいもに竹串を刺す。竹串はすんなりといもに刺さった。

 「よし、中まで火通ってる。約束したから、一個出来たて食べていーよ」

 「やったー!」

 「バター、冷蔵庫から出しておいで」

 嬉々として和樹が冷蔵庫を開け、中からバターの入った保存容器を出してくる。

 「新じゃがは皮が美味しいから、このまま食べな」

 陽平が小皿に一玉置き、天面に十文字に切れ目を入れた。

 「はぁーい」

 「さ、バター好きなように乗せて召し上がれ」

 和樹がバターをいもの上に乗せる。そのバターが熱ですぐに黄金色の液体になっていく。

 「いただきまーす」

 和樹が熱いのを我慢して、一口じゃがバターを頬張った。

 「どう?」

 「美味い!」

 「それはよかった」

 「多分ねぇ、こうしたらもっと美味いと思うんだよねぇ」

 和樹はどこからかイカの塩辛の瓶を取り出し、塩辛をじゃがバターに乗せた。幸せそうな顔でそれを頬張る和樹を、陽平が呆れ顔で見ている。

 「それ、居酒屋のメニューじゃん…」

 「うん! やっぱめっちゃ美味くなった!」

 「お前なぁ、酒は夕飯まで飲ませないからな」

 「分かってるって…」

 コイツは酒のことしか頭にないヤツだな、と思いながら、陽平は満足気な様子で食べる和樹の姿を見ていた。

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