鯛の小噺
其の壱 あやかり鯛
鯛と一口に申しましても実は様々な種類がございまして、よく知られたところだけでも真鯛、石鯛、金目鯛、黒鯛、甘鯛などいくつかの種類がございます。単に鯛と言った場合には、一般的には真鯛を指す言葉となります。本作においても、それに倣って真鯛のことを鯛と記しております。
上にいくつか挙げましたが、鯛と名のつく魚は実に二百種類を越えるとも言われておりまして、中には見た目が鯛に似ているだけで系統上は鯛と全くの別種のものもあるのだとか。確かに、真鯛と金目鯛を例に比べてみますと、真鯛は浅海に棲み、金目鯛は言わずと知れた深海魚。両者とも赤い見た目をしておりますが、目の大きさなど似ても似つかない姿をしております。このように、見た目が鯛に似ているから鯛と呼ばれる魚のことを、俗に「あやかり鯛」とも申します。
さて、鯛にあやかりたいのは何も魚ばかりではございません。古来より我が国では鯛は高貴な魚ともてはやされ、縁起物として慶事や神事に欠かせぬ魚でございました。やはりその姿形の綺麗さもさることながら、邪気を払うとされた赤の体色が何よりもの理由でございましょう。古くは遠く『古事記』や『日本書紀』にも、鯛に関する記述が登場するようでございます。
また、「鯛」が「めでたい」という言葉に通じることも、語呂や験を担ぐ日本人に縁起物として広まった要因だとか。他にも、調理法を選ばぬ味のよさ、傷みが遅いことなど他の理由も手伝ってか、ついには鯛は「魚の王様」「百魚の王」と称されるまでになったのでございます。
もっとも、その影響で何でもかんでも魚の名に鯛という文字を入れるようになったのかもしれませんが……。
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