九膳目 「空豆の甘煮」
「さ、後はごはんとおやつ作ろっか」
「おやつ?」
和樹が首を傾げる。
「そう、おやつ。まぁ、おやつっていうより箸休め?みたいなもん」
「空豆で作るの?」
「そりゃもちろん。これで十品そろうでしょ?」
「そうだね」
「お米炊くのに少し時間かかるから、先にもう一つの方作っちゃおう」
そう言って、陽平が小鍋をコンロに置く。
「ま、作るのは陽平さんだからどっちでもいーよ。俺は味見担当だから」
「お前なぁ……」
陽平が和樹の両頬をぷにーっと引っ張る。身長差があるから、少し和樹が背伸びする格好になる。
「やめへよ」
「まぁ、いいよ。とりあえず砂糖だけ取って」
「うん」
和樹から砂糖を受け取り、陽平は小鍋に砂糖水を作りそれを煮立たせていく。砂糖が完全に溶けきったところで、塩茹でにした空豆をその中に入れる。最後の一品に使う分だけを残して、それ以外の空豆を全て小鍋に入れた。
「これなら少し持つから、今日食べきれなくても大丈夫だしね。しばらくは食卓に出すよ」
「で、結局、それは何なの? 砂糖と空豆あわせて」
「空豆の甘煮だよ。エンドウ豆で作る『富貴豆』ってのを真似てみた」
「聞いたことないや」
「確か山形かどっかの名物じゃなかったっけ?」
ポケットからスマホを取り出し、陽平がスマホで検索をかける。
「ほら、これ」
スマホの画面を和樹の方に向ける。
「あー、何か食べたいことあるわ」
「でしょ?」
「空豆でもできるんだね。どんな味になるか想像つかないけど」
「たぶん美味しいと思うよ」
「たぶんって……、また陽平さんテキトーに作ってるでしょ?」
「まぁ、作ったことない料理なのは事実。大丈夫、何とかなるよ」
陽平が満面の笑みでピースサインを作る。
「さ、後は焦げないようにゆっくり煮詰めていくだけだから、少しほったらかしにしても大丈夫」
それから十五分───。
砂糖水は蜜状になり、ねっとりとした泡がふつふつと出てきている。
「そろそろ大丈夫かな」
小鍋の様子を見て、陽平は塩を少し加えた。木ベラで豆を潰さないように、そのまま鍋全体を混ぜていく
「よし、これで完成!」
「ね、食べていい?」
何も言わず、陽平が小皿に二粒載せて差し出す。
「マジで歯溶けるから、冷まして食べろよ」
「はーい」
和樹が素直に息を吹きかけて豆を冷ましている。それをゆっくりと口に含む。和樹の様子を、陽平が笑いながら見ている。
「どうよ?」
「美味い! ちゃんと甘いけど空豆の味をする!」
「そりゃよかった」
「おかわり!」
「はいはい」
陽平が呆れつつも小皿に甘煮を盛る。
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