二膳目 「焼き空豆」

 「で、残りの空豆はどうするの?」

 「生のまま料理使うのと、一度茹でてから料理するので分けるよ」

 「えー、これ全部サヤから出すの?」

 確実に自分も巻きこまれると分かってるのだろう、和樹があからさまに顔をしかめる。

 「そうだよ。和樹、サヤから豆出すの手伝って」

 「あーはいはい。そう言われると思ったよ」

 「あ、何本かはサヤから出さなくて大丈夫だよ」

 「え、まさかそのまま丸かじりすんの?」

 「バカ言うなよ。そのまま火にかけて焼き空豆にすんの」

 「焼き空豆?」

 聞いたことない料理名に、和樹が首を傾げる。

 「そう、そこで真っ黒焦げになるまで焼くの」

 そう言って、陽平がガス台の下の魚焼きグリルを指差す。

 「美味しいの?」

 「うん。ホクホクして茹で空豆とはまた違った味になるよ」

 「へぇーそうなんだ」

 和樹はまだ半信半疑といった顔だ。

 「じゃぁ、むきながら先に作ってみよっか。和樹味見していいよ」

 「え、いいの?」

 途端に和樹がご機嫌になる。和樹は食べ物に釣られる単純な性格なのだ。

 「じゃぁ、とりあえず三本、和樹が好きな空豆選んでいいよ」

 「やったー」

 小学生みたいに意気揚々と和樹が空豆を選び、それを陽平がグリルの中に入れる。

 「両面焼きだから、だいたい七分ぐらい、かな?」

 「オッケー」

 和樹は興味ありげにグリルの窓を覗きこんでいる。

 「ほーら、そこ立ってないでむくの手伝って」

 「はーい」

 二人で並んで豆むきをしていると、しばらくしてグリルから空豆が焦げる匂いが立ち上ってきた。

 「陽平さん、グリル大丈夫?」

 「そろそろかな? 和樹中見てみて」

 陽平が手を動かしながら和樹に指示を出す。

 和樹がグリルを引出すと、中から黒焦げの空豆が出てきた。

 「うわぁー、真っ黒じゃん」

 それを見た和樹が歓声を上げる。

 「中は丁度いい感じだと思うよ」

 「食べていい?」

 「いいよ。火傷しないようにね」

 陽平の言葉に、和樹がいそいそと皿に焼き空豆を乗せていく。

 「そのまま食べてみて、好みで塩とか醤油つけて」

 「はーい」

 目の前の焼き空豆に夢中なのだろう、和樹は陽平の言葉に適当に返事をする。

 息を吹きかけて冷ました空豆を、和樹は一粒丸ごと頬張った。

 「どう? 味は」

 「ホクホクしてて、俺が知ってる空豆の味より濃い気がする」

 「あー、焼くと味が凝縮されるのかもね。気に入った?」

 「うん。美味しい。イケる」

 おもむろに和樹は箸を置き、陽平の背後にある冷蔵庫を開けた。ガサゴソと音がしたが、醬油でも探しているのだろうと陽平は気に留めなかった。

 が、しかし、次の瞬間、陽平の聞き覚えのある音が───。

 プシュッ。

 「あ、おい和樹!」

 陽平が振り返ると、缶ビール片手に口元に白いヒゲを作った和樹が立っていた。

 「ぷはぁぁー、やっぱ合うと思ったんだよね」

 「お前、まだ夕飯前なのに飲んでんじゃねぇよ」

 「まぁまぁ、そう怒らずに……。ほら、陽平さんも食べてみなよ」

 陽平をなだめるように、和樹が焼き空豆を一粒陽平の口に放りこんだ。

 不機嫌そうにモグモグと口を動かす陽平の顔を、和樹が覗きこむ。

 「ね、美味いでしょ?」

 「…まぁ、美味いけども」

 「一口食べて絶対ビールに合うと思ったんだよね」

 「それ食べたらさっさと買い物行ってこい!」

 陽平は買い物のメモを乱暴に和樹の前に突き出す。

 「そんなに怒らなくても…。焼き空豆美味しかったんだし」

 「それとこれとは話が別」

 「ゴメンって。ちゃんとこれ食べ終わったら買い物行くからさ」

 何とか陽平の機嫌を取ろうと、和樹が陽平に甘える。

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