第42話 再就職

 海賊たちの捕縛や人質の引き渡し、及び人質の身元に連絡など、後始末は少なくない。


 戦いが終わってなお忙しく動き回るカイルを見て、呆然とゴリがつぶやいた。


「タダ者じゃねェと思っていたが、まさか本当にデストラーデを倒しちまうとは……」


「あいつ、実はスゴイやつだったんだなあ……」


 所在なさげに佇ずむサルがポツリとこぼした。


「…………親方ァ、俺達これからどうすればいいと思いますかい?」


「知らねェよ、そんなこと。……元々俺たちはその日暮らしで生きてきたんだ。家族もいねェ。いまさら帰る場所なんて……」


「……………………」


「……………………」


 親方と同じ境遇なのか、ゴリとサルが押し黙る。


「親方にゴリ、サル。こんなところにいたのか」


 俺が三人の元に駆け寄ると、ゴリがため息をついた。


「先輩をつけろ、新入り」


 ゴリが小突こうとすると、親方がそれを制した。


「……デストラーデ海賊団はもう終わった。……なら、俺たちも親方だとか新入りだとかで縛られる必要もねェだろ」


「それもそうか……」


「……なあ、あんたらこれから行くあてはあるのか?」


「あ?」


「あったらこんなところでダラダラしてねェよ」


 サルの軽口に親方が微かに笑みを浮かべる。


「だったら、うちに来ないか?」


「冒険者になれって言ってるのか? あいにくだが、俺ァ機械弄りしか能がねェ。宇宙船に乗って海賊やら怪獣と戦うなんざ、まっぴらゴメンだね」


「ゴリの言うとおりだ。俺たちは機械弄ることしかできねェんだ。……悪いが、他をあたりな」


「むしろ適任だ。俺の工場で働かないか? 腕のいい機関士は、いくらいても困らない」


「は!?」


「工場!?」


 ゴリとサルが目を見開き、親方が納得といった様子で笑みを浮かべた。


「ンだよ……。お前ェ、元々工場持っていたのか……。どうりで動きが素人離れしてると思ったぜ」


「……正真正銘、素人だ。俺は。ただ、趣味で始めた機械弄りが、たまたま金になっただけさ」


「なっ……」


「趣味であの腕前かよ……」


 驚愕するゴリとサル。


 少し考えて、親方が口を開いた。


「……いいぜ。考えてやる」


「親方……」


「いいんすか? カイルの下で働くなんて……」


「いいも悪いも、こいつが持ってる工場ってんなら、そういうことだろうが」


「……ただし、決めるのはお前の工場を見てからだ」


 親方が値踏みするように俺を見る。


 なるほど、実際に働く場所を見てから決めるのはもっともな話だ。


「オーケー、案内しよう」






 三人をアナザーヘブンに案内すると、造船所のある区画に連れてきた。


 辺りを見回し、ゴリとサルが感嘆の声を上げる。


「なっ……」


「宇宙要塞の中に工場造ったのかよ……」 


「元々、デブリを集めて解体する工場だったんだがな……。それが今じゃ、造船所になっている」


「いやいや、そうはならんだろ……」


「相変わらずブッ飛んだ男だな……」


 現在は損傷したイカロスの修理とドローンの改造を行なっており、職員たちが忙しそうに働いている。


 ……もちろん、その片隅では捕縛した海賊や財宝を運び込んでおり、工場らしいことはしていないのだが。


「……で、どうするんだ? ここで働くのか、他をあたるのか……」


 親方がその場に膝をつくと、じっと床を見つめる。


「……船を造ってるってのに、油ひとつ落ちてねェ。……大事にしてんだな、この工場を……」


「自分が働く場所なんだ。キレイに保つのは当たり前だろ」


「……そりゃそうだ」


 親方の顔がふっと緩む。


「……いいぜ。お前のところで働いてやるよ」


「親方……」


「いいんすか? カイルの下で働くなんて……」


「言っただろ。もう上も下もねェって。誰の下とか上とか、関係ねェよ」


 親方の言葉にゴリとサルが押し黙る。


「お前ェらこそ、どうすんだ? 他に行くあてはあるのか?」


「それは……」


「ないスけど……」


 口ごもるゴリとサルに、俺は最後のひと押しをした。


「だったら、ゴリとサルもうちに来るといい。給料も月50万出すぞ」


「ごっ……」


「まじかよ……」


 突如として提示された50万という数字に、ゴリとサルが目を丸くした。


 一般的な機関士の相場が25万程度だということを考えれば、破格の待遇である。


 これだけ遇しても来ないというのなら、そこまでの話だが……。


 案の定、親方は驚いた様子で俺を見つめた。


「小僧、お前ェ……」


「当然だ。近くであんたらの腕前を見せて貰ったが、それくらいの価値はある」


「カイル……」


「い、いいのかよ……本当に……。こんな馬の骨とも知れねェやつに、こんなに良くしてくれるなんて……」


 感極まったのか、ゴリ目尻に涙が浮かんだ。


「……同じ釜の飯を食った仲なんだ。よそよそしいマネはよせ。……俺にはあんたらが必要だ。いいから黙ってうちに来い」


「ああ……ああ……!」


「ありがとよ……カイル……」


 目頭を抑える二人の肩を抱き、俺はしばしその場にたたずむのだった。

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