第38話 奇襲
アトランティスが静かに動き出すと、海賊たちがざわめき立った。
「おお、アトランティスが動いた!」
「へへっ、この戦い、勝ったな!」
アトランティス始動に沸き立つ海賊たちに、砲門が向けられる。
「待て、様子がおかしいぞ」
次の瞬間、海賊船が一撃でシールドを貫かれた。
大きくひしゃげた船体が味方の群れに突っ込んでいく。
アトランティスの砲撃は、どういうわけか本来味方であるはずの海賊船を撃ち抜いていた。
「おいおい……なんで俺達に攻撃するんだよぉ!」
脱出するエクリやライとは別に、俺はアトランティスに残っていた。
「エクリの言ったとおりだな。宇宙船を一人で動かすのは、たしかに骨が折れる」
『いや、宇宙空母クラスは一人じゃ動かさないでしょ、普通』
通信越しにツッコミを入れるエクリ。
『この空間には人体に有害なガスが充満しています。すみやかに退去してください』
「わかってるさ、そんなことは」
シシーの忠告をスルーして操縦桿を握りしめる。
元より、スキル【解毒】を持っていなければ、こんな危険なことをするつもりはない。
「だが、リスクを払ったからには、それに見合ったリターンがある」
既に船内の海賊は軒並み無力化が完了している。
事実上船の制圧は完了しており、毒ガスさえ気にしなければ戦力として運用することができる以上、使わない手はない。
そして、もっとも大きいのが──
本拠地であるアトランティスから砲撃を受け、海賊たちに動揺が広がっていた。
「おいおい、なんでアトランティスが俺たちを攻撃するんだよ……」
「まさか、敵に乗っ取られたのか!?」
「いや、留守番してたやつらが寝返ったのかも……」
「チクショウ……なんでボスは何も教えてくれないんだよ……」
「燃料や弾薬は、どこで補充すればいいんだよ……」
本拠地を落とされた精神的動揺は大きい。
おまけに、この船は最初から敵の通信網に入っているため、敵の作戦や指揮がすべてこちらに筒抜けとなっている。
絶え間なく海賊船の砲撃をしていると、シシーからの忠告が続く。
『ですが、長期間の滞在はカイルの人体に深刻な影響を及ぼすおそれがあります』
「あと、どれくらいもつ?」
『60分ほどかと』
「オーケー、それだけあれば十分だ」
画面の向こうでは、混乱した海賊たちが敗走や仲間割れをしている。
本拠地を奪われた上、正面を宇宙要塞に。後方を宇宙空母が陣取っている。
継戦能力を失い、帰る場所を失った軍など、烏合の衆に過ぎない。
「……リスクを払った甲斐があった。デカすぎるだろ、リターンが」
完全に戦意喪失した海賊たちをよそに、海賊団のボスであるデストラーデに狙いをつける。
あとはメインディッシュにデストラーデを狩るだけだ。
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