第23話 人材集め

 宇宙要塞が使えるようになると、デブリ回収業は大きく加速した。


 ドローンで回収したデブリを作業場で解体し、種類ごとに分別して清掃、販売を行なう。


 一連の工程がすべて宇宙要塞で完結するようになったことで、事業の規模が拡大すると共に、作業そのものも大いに効率化された。


 さらには、有り余る資材と俺のスキルを駆使して、宇宙船の修理も積極的に請け負うようになった。


 冒険者の男が自船の操縦席を見やり、俺に尋ねてくる。


「なあ、操縦桿をゲーミングコントローラーに変えられるって聞いたんだけど、本当か?」


「ああ。工事自体はすぐに終わるぞ。試しにつけてやろうか?」


「おお、助かる!」


 冒険者ギルドのあるコロニーからほど近く、価格の安さも相まって、修理工場は瞬く間に評判となった。


「今月の売り上げが2100万ゼニーか……。悪くないな」


 人件費や借金の利息等の諸経費を差し引いても、500万以上の儲けである。


「この調子で事業を拡大していけば、どんどん儲けが増えていくな……」


 アナザーヘブン内の自室から出ようとするも、扉のロックが解除されない。


 カメラ越しにアナザーヘブンのシステム管理を担う彼女を睨みつけた。


「……どういうつもりだ、シシー」


『カイル、しばらく休養をとることを推奨します』


「……何を始めるにも、初動が一番大事なんだ。お前だってわかるだろう? この忙しい時期に、俺だけ休めるわけがないだろ」


『ですが、昨日はほとんど食事を摂っていない上、睡眠時間は4時間もありません。このままでは、カイルの寿命を縮めることになるでしょう』


「あまり脅かすなよ。これくらいじゃ死にはしない」


 とはいえ、シシーの言うことも一理ある。


 ここ最近はエナジードリンクで己の体力にブーストをかけて、昼夜を問わず仕事することが多くなっていた。


 また、作業そのものは趣味の延長線にあるため苦ではないが、俺という個人ありきで運営しているというのも、組織として正常とは言えない。


 現に、昔務めていた会社も、俺がクビになって以降、業績が悪化して多くの社員がクビを切られたという。


「……休むのは検討する。だが、いま俺が抜けたら、宇宙船の修理も、ドローンの作成も、いろいろなところが立ち行かなくなる」


『では、新たに専門技能を持つ人材を雇用するのはいかがでしょう』


「専門技能を持つ人材、か……」


『現在考えられる問題は、カイルの代わりを務められる人材がいないことです』


 シシーの言うことはもっともであった。


「だが、あてがない。部下たちは素人に毛が生えた程度だし、最初から経験者を使えるならまだしも……」


 いや、待てよ……


「そうか、その手があったか……」





 数日後。冒険者ギルドの掲示板に人だかりができていた。


「工作系スキルの所持者や、機関士の資格を持っているやつを募集しているって?」


「募集をしているのは……Cランク冒険者のカイル・バトラー……? 聞いたことないな」


「だが、給料はメチャクチャいいみたいだぜ! 月収50万ゼニーも出してくれるとさ」


「資格さえありゃ、ノーリスクで稼げるようになるのか……。デカいな……!」




 掲載から数日後。当初の計画通り、それなりに腕に覚えのある人材が集まった。


『応募者13名のうち、カイルの求める水準に達しているのは4名でした。彼らを雇用すれば、業務の大幅な効率化が見込めることでしょう』


 シシーの言うことはもっともだが、俺の中ではまだ満足できない部分があった。


「それはそうなんだが、多少の修理はできても、船体を丸々弄るような改修まで意味がないだろ」


 もともと、俺が船の修理までできるのは趣味の延長線で技術が身についたにすぎない。


 結果的に船の修理まで請け負っている以上、同じように修理や改修まで出来なければ意味がない。


『では、応募してきた者は雇用しないのですか?』


「いや、資格持ちは貴重だから、あれはあれで欲しいな」


『既存の修理工場では我々の台頭により、注文数に減少が見られます。競合相手がいなくなる日も近いと言えるでしょう』


 なるほど。たしかに修理工場であれば、豊富な経験を備えた機関士が多く在籍していることだろう。


「……シシー、この辺りの主な修理工場で働くやつらの個人情報が知りたい」


『了解しました。帝国データベースの閲覧、並びに、当該工場のメインシステムにハッキングを開始します』




 アーノルド修理工場。ここでは商人や冒険者を相手に宇宙船の修理を請け負っているが、近頃冒険者の経営する修理工場が幅を効かせており、経営は右肩下がりであった。


「酷いよなぁ、社長も。経営が厳しいからって給料カットなんて……」


「仕方ねぇよ。新しく出来た工場に仕事持ってかれてんだ。金がないなりに、どこかを削るしかないってことだろ」


 仕方がない。理屈ではわかっていても、やはり給料カットというのは受け入れがたい。


 いっそのこと、新しく出来た工場というのに、転職してしまおうか。


「……無理だよなぁ、普通に考えて」


 自分から転職しに行っては産業スパイと疑われかねない上、第一、そんなことをしていてはうちの工場に目をつけられてしまう。


 まっとうな経営者であれば、そのような敵対的行動はまず取らないだろう。


 そんな中、男の元に一通のメールが届いた。


「これは……!」


 そこには、現在の倍近い給料と工場長という役職を条件に、カイル・バトラーの経営する工場に転職しないかという誘い文句が記されていた。


 男は思った。


 今の工場で安くこき使われるくらいなら、新進気鋭の工場に移籍するのも悪くないかもしれない、と。




 こうして、俺の元には船体の整備や修理の技能を持つ人材が多く集まるのだった。

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