第14話 閉店まで

カランカラン


「予約した嶋本です。六人です」

 大学生の典型みたいなグレーのパーカーを着た男性がドアを開けるなり店員にこう言った。

「えーと、はい、嶋本様ですね。はい、ご案内いたします」

 名簿と照らし合わせた店員は店の中の方の掘りごたつの席に男女六人を連れて行く。

「ご注文の方、お決まりになりましたらこちらのボタンで――」

「あ、もう決まってるんでいいですか」

「はい、お伺いします」

「この飲み・食べ放題コースを六人分で」

「かしこまりました。それではただいまから120分、ラストオーダーは8時40分となります。まず、ドリンクお決まりでしたらお伺いいたしますが」

「えっと、はい。お前らビールでいいか」

「私、カシオレ~」

「俺とこいつは生中でいいわ」

「うちもカシオレにする」

「俺、麦」

「えっと、じゃあ、カシオレ二つ、生中三つ、麦焼酎一つでお願いします」

「はい、かしこまりました」

 しゃがみ込んで注文票にメモを取っていた店員が立ち上がり厨房に戻って行く。


 戻って来た梶がそのまま準備している。サーバーでジョッキの生を三つ用意し、カシオレもサーバーから、焼酎は瓶から注いでいる。それをお盆に乗せて、空いた方の手でお通しの塩キャベツを持っていく。やっぱり手際がいい。


「ジューシー唐揚げ12、揚げ出し豆腐1、枝豆1、焼き鳥モモたれと塩3ずつです」

 どうやら注文もされたみたいだ。

「えっと、唐揚げはこのあとに揚げとくわ。あと枝豆は又野に言っといて。揚げ出しは持っていくだけだろ。焼き鳥はよろしく」

「了解です」

 油の中の唐揚げを見ながらそろそろ頃合いかなと8個全て油から上げる。で、12個だっけ。すぐ揚げないとな。仕込んでおいた肉をバッドから取り出す。えっと、今が七時過ぎであとこれくらいか。こりゃ、もしかしたら足りないかもな。

「誰か、手の空いてるやつ、唐揚げの仕込み、あと50頼めるか」

 とりあえず、みんなに聞こえる声で言っておく。あんだけ仕込みしたのにな。土曜舐めちゃいけないな。っていうかもしかして。壁に掛けてあるカレンダーを見る。あ、やっぱり。大学の新歓が軒並み雨で一週間遅れになったんだ。とくにあの大学は運動系が多いから雨だと振るわないってことで。っていうことは食べに来るのも体育会系ってことか。今日も帰りは遅くなりそうだ。

「やっぱり、仕込みあと50追加で頼む」


プルルルルル プルルルルル

プルルルルル プルルルルル


 電話か。この忙しいときに。でも、4コール目でも誰も取らないってことは多分ホールの子も手が空いてないんだろう。しかたねえ、今ならまだ油に入れたばっかだし。又野にこれ揚がったら上げといてくれと言っておく。


『あのねえ、通りでうるさいのがたむろってるのよ。多分、そちらのお客さんだと思うから、ちゃんと言ってくださいね。うるさいったらありゃしない』


 あー、そういうことか。こちらが喋るタイミングもなく電話を切られてしまったが、とりあえず店の外に出てみるか。

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