第7話 ゴールかな

 ワンッ ワンワンッ


あ、ごめんなさい。ちょっと人慣れしてなくて―—。

大丈夫ですよ。はい。

すみません、ありがとうございます。って大月くん?

え、あ、はい。りんたろうくん―—だよね。

うん。

今日はごめんね。授業行けなくて。よしから話聞いた?

あー、えっと、原さんのことだよね。

そう。

聞いた。風邪の調子どう?

まあ、よくなったかなって感じ。

それならよかった。それでこんな時間に犬の散歩?

うん。夜中の方がいいんだよ。


 なんとなく流れでりんたろうくんと同じ方向に向かって歩いている。結果的に逆回りになってさっき来た道を戻ってるわけだけど、まあいっか。


お母さんがいつもは散歩してくれるんだけど、たまには僕が、と思ってね。だけどあの人、勝手に連れてくと怒るからさ。

え、あ、うん。そうなんだ。


 原さんの会話ででてきたあのお母さんか。熱が出たりするとスマホを触らしてくれないお母さん。人の家族にとやかく言うのはよくないと思うけど、ちょっと変わった人なんだろうか。でもスマホは触らせないのに夜中の外出は許すんだなとか思いながら歩く。いつの間にか犬も吠えてこなくなった。


そういえばごめんね。さっきはディジェが吠えちゃって。

あ、全然。

会ったことある人にはもう吠えないはずだから、これからはもし会っても大丈夫だと思う。

そうなんだ。

じゃあこの辺でね。ばいばい。

あ、うん。おやすみー。

おやすみー。


 りんたろうくんがリードを持っていない左手で手を振ってきた。僕も振り返す。愛嬌のある背中が遠ざかっていく。この辺でっていうのは家がこの近くってことだろうか。それともこういうお散歩コースなのかな。もしくは一人っていうか一人と一匹になりたかったみたいな? まあ何でもいっか。分からないことは考えても仕方ないや。


 あ、いつの間にかスタート地点まで戻って来ちゃった。そっか逆回りになったそのまま歩いて来たのか。もう一回あっち側に行くのも馬鹿らしいしこのまま家に帰っちゃおうか。時間もだいぶ遅いし。万が一にでも外に出てることがバレたらまずいし。よし、ペース上げよっ。


 自分の静かな足音があたりに響くのを聞きながら上ってきた坂道を下る。二限から授業に出てりんたろうくんの事情を知ってた原さんに話しかけられて、それで家に帰ってからもラインで話してて――


ブゥン


 こんな時間に、というかこんな時間だからなのか右車線にはみ出し気味に白い車が勢いよく坂を上っていった。運転荒いなあ。で、そうラインで話してたらジョギング忘れてて、でも寝付けないなと思って思い出して、そこでりんたろうくんに会ったのか。不思議な日だったなあ。そう思いながら家の鍵を静かに開けた。

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