第8話 帰還と報告、束の間の幸せ

 報告書が全て完成し、帰還の時を迎えた。少ない期間滞在していたということもあり名残惜しいが、必要以上に留まるべきではない。この時代の生活を壊さないよう、最後まで配慮しなければならない。

 忘れ物がないよう荷物をまとめて、チームの点呼を取った。総員がそろっていることを確認して、時空トンネルへと入っていった。徐々に速度を上げて、現代へと進んでいった。


 トンネルの出口が見えてきた。スピードを落としながら進む。光に包まれながら出口を通過していった。トンネルを抜けると、本部の時空ポートに到着した。そのままゆっくりと着地した。

 周囲や船内の安全を確認した後、船外へと降り立った。みんな揃って無事に帰ってくることができた。リーダーである私はすごくホッとして、肩の荷が降りた気持ちだった。



 しばらくすると、何人か出迎えにきてくれた。すでに終業の時間は過ぎているが、残ってくれていたようだ。みんな激励の言葉をかけてくれた。懐かしい顔ぶれだ。なんと首席総督も出迎えに駆けつけてくれた。すごく嬉しくて、誇らしい気持ちで満たされた。

 いったん支部の中に入り、荷物整理や休憩をとることにした。明日以降は挨拶回りなどでバタバタするだろう。早く休もうと思っていた。しかし、次席総督がやってきて、思いがけないことを口にした。



 なんと畏れ多いことにも、皇帝陛下への謁見があるというのだ。陛下がみずから団員を労いたいとのことだ。急きょ晩餐会を催してくださるそうだ。この上なくありがたいことだが、同時に申し訳ない気持ちもあった。

 それだけ職員が駆り出されることになるだろう。だけど誰一人も文句を言わず、それどころか喜んで給仕すると申し出たそうだ。実際に宮殿に行ってみると、調査団のためなら当然のことだと言ってくれた。

 調査団の設立当初から私が動いてきた、他部署との連携が実ったことを実感した瞬間だった。調査団は必要とされている組織だということの証明だ。今まで地道に頑張ってきたことが無駄じゃないと分かったことで、ますます調査を頑張ることができるだろう。


 宮殿での晩餐会はとても厳かな雰囲気で、だけど誰もがくつろげるように工夫されていた。陛下から労いとお褒めの言葉をいただいた。さらには調査団のために新たな勲章を制定することが決まった。

 私のチームはメンバー全員が何かしらの叙勲を受けることとなった。また、調査団内でも功労章が定められた。また、これまでにも調査団の制服はあったものの、それに階級章が加わることとなった。

 階級の成立とともに、国防時空調査軍への格上げが決まった。他国においても同様の動きがあり、万が一の際に団員個人に責任が重くのしかからないようにとの配慮からだった。なお、時空調査を目的とするものであり、他国との争いのための兵力は一切保持しないことが国際政府において確認された。

 我が聖清帝国においては、空軍やサイバー軍と合わせて国防三軍と称されることとなる。同時に、空軍は宇宙軍、国防宇宙軍と改められた。三軍の各トップは参謀と呼ばれている。また、統括指揮のために統合参謀が置かれることとなった。統合参謀がいわゆる制服組トップということになる。



 話がだいぶ逸れてしまったが、話を戻そう。宮殿での晩餐会はとても有意義なものだった。無事に終わった後はみんなを見送ってから、私も帰路に着いた。

 家に帰ると、私の彼女である国枝楓が出迎えてくれた。晩餐会で食事をしたけれども、彼女の手料理が食べたかったので量を抑えていた。それにお腹を空かせるために走って帰ってきた。汗だくだし、お腹ペコペコだ。

 まずはお風呂に入ってさっぱりすることにした。やっぱり自分の家が一番落ち着く。ゆっくりお風呂に入れるのも久しぶりだ。これまでの疲れを洗い流すような感覚だった。汗を流した後は、湯船に浸かった。



 お風呂から出ると、楓がご飯を用意してテーブルで待っていた。任務中にも時間があれば連絡していた。だけどやっぱり直接顔を見ると思わず顔が綻んでしまう。至福のひとときだ。

 今日のメニューは楓が一番得意なトンカツ煮込みだ。オリジナルの味付けだがすごく美味しい。お肉の味や硬さに合わせて味付けを変えているそうだ。私も何度かやってみたことがあるが、とても真似できそうにない。そのくらいに楓は料理が得意だ。

 学生の頃は調理学科で学んでいたそうで、認定調理師の免許を持っている。また空軍入隊後も学びを続けていて、今では料理学、栄養学、料理工学など複数の博士号を取得しているほどだ。



 二人で食事をするのも久しぶりだ。楓とは中学からの付き合いだが、今なおこうして一緒にいることができてとても幸せだ。お互いに特別職の公務員ということもあり、任務に出るとなかなか一緒にいることができない。

 だからこそできる限り連絡を取るし、一緒にいられる時を存分に楽しみたいのだ。しばらくは一緒にいられる。可能な限り都合を合わせて遊びに行けたらと思っている。



 翌日からしばらくは調査の報告会議が続いた。時間を見つけて挨拶回りにも行った。これまで支部組織を支えてくれた人は数多くいる。その支え無くして任務遂行はできなかっただろう。みんな任務成功を笑顔で祝福してくれた。

 報告会議ではさまざまな質問が飛び出した。ある程度の受け答えを事前に想定していたものの、予想以上に質問が多かった。初めてのことなので、みんな興味津々なのだ。そのおかげで調査団の意義がより一層伝わってくれた。さらなる支持を得て次の調査へ向かうことができそうだ。



 休日を迎えた。束の間の休息だ。もちろん楓とのデートで予定は埋まっている。今日は一緒に映画を見たり、カラオケに行こうと思っている。観る映画はもう決めてある。『明日と昨日の君と僕』というタイトルだ。すごく有名な作家の集大成ともいうべき原作を、これまたすごく有名な脚本家と監督が集大成として世に送り出す傑作だというキャッチコピーに惹かれた。

 ラブストーリーであることは分かっているが、ラストがハッピーエンドなのかバッドエンドなのか、それは実際に観てみるまで分からない。ジュースとポップコーンを買ってシアター内へ入った。

 二人で隣同士に座った。楓の横顔は今日も可愛くて、思わず顔がニヤけてしまった。楓もそれに気づいたようで、ニコッと微笑み返してくれた。二人だけの世界が広がり、大切な時間を噛み締めていた。



 映画が終わって、楓とストーリーを振り返りながら外に出た。ネタバレを避けるため、ここでは詳しく語らないでおこう。ただ、素晴らしい作品だったことだけを記しておくことにする。

 映画館を出た後は、そのままカラオケ店に向かった。最新の機械では、仮想空間上でライブしている状況を体験することができる。あくまで仮想だが著名なアーティストと共演している雰囲気を楽しむこともできる。それが現在の流行になっている。もちろん採点機能もある。かなりの精度で得点が表示される。

 私も楓も歌うことが好きだ。歌には人を元気にする力がある。歌っている側も元気になるし、ストレス解消にもなる。楓の歌声は天使そのものだと思う。心に直接響いてくるような感覚を覚えるのだ。



 楓との時間を思う存分に楽しむことができた。次の調査も引き続き頑張ることができそうだ。リーダーとしての職務を全うし、メンバーの安全をしっかりと確保しなければならない。次もまたみんな揃って無事に帰還することが大切だ。

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