第36話「受け継ぎし技と思い」

 その後、ケイトス様が社の前に立ち、

「ブツブツ……」

 手をかざして何かの呪文を唱えると


 ゴゴゴ……


「うおっ!?」

 社の地面が盛り上がり、そこに大きな穴が開いた。

 これが隧道の入口のようだな。


「この先に魔物がですが、よく考えたら生きてないかもですね」

 千年以上前だといくらなんでも……。

「並の魔物なら。異界から来た魔物は分からない」

 ウイルが頭を振って言う。

「なあ、おびき寄せて外で倒そうぜ」

「それ危なくない? 封印してたんだから、トンネルの中の方がいいかもよ」

 ジニーとリュミが隧道を指して言うと、

「たしかにな。一族に伝わる話では、その魔物は全長百メートルの大蛇らしいからな」

 ケイトス様がそんな事を言われた。

「あなた、それはいくらなんでも大きすぎよ。大袈裟に伝わってるだけでしょ」

「儂もそう思うのだが、油断は禁物だ」



「あの、この先は行き止まりでしたぞ?」

 先に探りに入っていたベルテックスが言う。

「なんだと? そんなはずはないのだが?」

 ケイトス様が首を傾げられる。

「わたしも一緒に行きましたけど、真っ暗で百メートル程で壁に当たりましたわ」

 ナホも出てきて言うと

「それもおかしいわね。あなた、このトンネルって光苔が生えているのでしょ?」

「言い伝えではそうだ。我が祖先が火を使わずに済むように植えたそうだ」


「……もしかすると」

 ウイルが何か言い淀む。

「どうしたんだよ? 何がもしかするとなんだ?」

 ジニーが尋ねると、

「魔物が光苔を食べて更に大きくなっていて、トンネルを塞いでいるかも」


 ……


「あの、この隧道はどれ程あるのですか?」

 ケイトス様に尋ねる。

「向こう側までおよそ10kmと聞いた。もし全体を塞いでいるのなら……いやそこまでではないにしてもかなり大きくなっていて、どこかで引っかかって藻掻いたから地震がおきたのかもな」


「じゃ、じゃあ封印解けたのに気づいたら……もっかい封印してよ!」

 ジニーがそう言ったと同時に、地鳴りが響き渡った。


「遅かったようだ。皆、転移術で避難する」

 ウイルが言い、

「儂は仲間達を退避させる。バラリアは皆と共に行ってくれ」

 ケイトス様は海に走っていった。



 

 そして半里程離れた高台まで飛び、社の方を見ると、


 そこには山のように大きく白い大蛇が奇声をあげてとぐろを巻いていた。


「な、なんて大きさよ、百メートルじゃきかないわよ!」

「あんなのどうやって倒せってんだよ!」

 リュミとジニーが声を上げ、

「……駄目だ、あいつ話し通じない。全てを飲み込もうと怒り狂っている」

 ウイルが心で話そうとしたが、駄目だったようだ。

「やむを得ません。攻撃しましょう」

 皆が一斉に身構えた。




「鳳凰一文字斬!」

「雷神大打突!」

「猛虎烈光波!」

 藤次郎が、ベルテックスが、リュミが技を放ち、

「ではわたしも……大爆発呪文!」

 ナホが大魔法を撃つ。

「うえええ!? な、ナホって攻撃呪文使えたの!?」

 ジニーが何故か驚きの声をあげた。

「ジニー、驚いてないで俺達も」

「あ、うん!」

 ジニーが魔法と闘気の弾を、ウイルが光の矢を放つが、


 大蛇には傷一つつけられなかった。




「くっ、どうすれば」

 藤次郎が拳を握りしめて言うと、

「皆さん、蛇が港町の方へ行こうとしていますわ!」

 ナホが動き出した大蛇を指して言った。


「くそ、転移術が間に合わな……あれ?」

 ウイルが言った時、皆は畳三畳分畳程の白い雲に乗っていた。


「それは筋斗雲のようなものと思って。念じれば自分の思うように動けるわよ」

 バラリアがそれを指して言う。


「これはバラリア様が?」

 藤次郎が言うと、

「ええ。でもアタシの力じゃ長くは持たないわ、だから早く」

「はい。皆、行きましょう」

「うん!」


 藤次郎達はあっという間に大蛇の前まで飛び、それぞれ攻撃を仕掛けたが、


「ぐっ、硬くて斬れん!」

「気功弾も魔法もたいして効いてないわ!」

 ベルテックスとリュミが声を上げ、

「くそ、どうすれば……うわあっ!」

 

 大蛇がその大きな体で皆を薙ぎ払い、地面に叩きつけた。



「大丈夫!?」

 バラリアが血相を変えて皆の元に飛ぶと、

「ど、どうやら雲のおかげで骨は折れていませんが、ぐっ」

 衝撃が強かったようで、誰も起き上がれずにいた。


 それを見た大蛇は興味を失ったのか、再び町の方へ進もうとする。


「くっそ……せっかくこの腕輪貰ったのに」

 ジニーが体を起こして言った時だった。


” 聞こえるかい? ”


「え? 誰?」

 辺りには自分達以外誰もいない。


” 僕はかつて優者と共にいた、魔闘士のダンという者だよ。今はその腕輪を通じて話しているんだ ”


「初代優者一行の……」

” うん、何の因果かそうなっちゃったんだ ”


「な、なあ。ダンさんでもあいつを封印するのがやっとだったんだよな?」

” そうだよ。けど僕もその後、何も考えてなかった訳じゃないよ。

 その腕輪を継ぎし者なら使えるだろう技を編み出したんだ。

 これなら奴を倒せる、いや鎮められるはずだ ”


「え、そんな技が?」

” うん。ジニーちゃん、立てる? ”


「え? ああ、なんとか」

 ジニーがふらつきながら立ち上がると、


” 目を閉じて、正拳突きの構えを取って ”


「ああ。こう?」

” そうだよ、そして今は僕の気配も感じられるよね? ”

「うん。隣にいるよな」


” そうだよ。そして僕に合わせて技を放って ”


「ああ……」

” 光魔法に気を合わせ、拳にそれを集め…… ”


「敵を、いや相手の悪しきもの目掛けて放つ」


” そう、それは……”


『星光魔闘弾!』


 ジニーが正拳突きを繰り出すと、大きな光の弾が轟音を立てて大蛇に向かっていき、


 シャアアアーーー!


 大蛇を飲み込み、消し去った。


「や、やった……」

 ジニーがそのまま倒れそうになったが、

「危ない」

 それをウイルがすかさず抱きとめた。


「大丈夫、気を失っただけ。慣れない技を使ったせい」

 ウイルが笑みを浮かべて言う。 

「ほうよかった。しかしあんたどさくさ紛れにやるわね」

 立ち上がったリュミがややニヤけ顔になって言うと、

「俺は軍師、勝つ為ならなんでもする。ついでにリュミも勝たせる」

「あのね、あたしは……ん?」

 リュミが振り返ると、


 大蛇は消えておらず二メートル程の大きさにまで縮んでいて、かなり弱っているようだ。


「あれではもう戦えぬだろう。ここは」

「ええ。藤次郎さん、お願いしますね」

 ベルテックスとナホに促され、藤次郎が前に出た。


「蛇殿、長い間封印されていてお怒りでしょうが、どうか静まっていだたけませんか?」

 藤次郎が話しかけると、

「……帰りたいだけだった」

 大蛇が言葉を発した。


「え?」

「皆のとこへ帰りたい。それだけだったんだ」

 そう言って涙を浮かべる大蛇。

「いや、それならあなたが通ったであろう扉を」

「塞がってたんだ。でも他のところにもあるんじゃないかと思って、それで……今更だけど、怖がらせた事は謝るよ」

 大蛇は頭を下げて言った。


「いや、儂らこそ事情を知らなかったとはいえ、罪なきお主を攻撃したのだ。祖先達の分も合わせてお詫びする」

 ちょうどやって来たケイトスが膝をついて頭を下げ、皆も後に続いた。


「もっと早く謝ればよかった。けどなんか変な声が聞こえてから、頭の中が真っ黒になってたよ」


「まさか、妖魔大帝が?」

「かもしれないわね」



「あのさ、言い難いけどもう千年以上経ってるから」

 気がついたジニーが言うと、

「誰もいないかもだけど、それでも帰りたいよ」

 大蛇はまた涙目で言う。

「そっか……なあ、アタイ達がタカマハラへ行ってその扉を開けてくるから、あんたはその間どっかでじっとしててよ」

「うんわかった。でもどこにいればいい?」


「アタシ達の宮殿はどうかしら? 歓迎するわよ」

 バラリアが言うとケイトスも黙って頷き

「わかった。お世話になります」

 大蛇は頭を下げた。


「なあダンさん、たぶんあいつを助けたかったんだろ? これでいいよな?」

 ジニーが呟いた。




 うんそうだよ、ありがとう。

 僕ができればよかったんだけど、あの技ができるようになった時にはもうこの世界に来れなかったんだよ。


 しかしさ、がこの世界にいたとはね。

 その子が腕輪を継いでくれて、僕の無念を晴らしてくれただなんて。

 そして今の優者の守護者となっているなんて。 

 ほんとわからないものだね。


 さてと、せっかく来たんだし……と久しぶりに話そうかな。

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