第17話「妖魔すらも……」

 密猟者はあっさり見つかった。

 借家の役人殿に聞いたら、最近住み始めた男の家に夜な夜な怪しげな男達が訪ねているとの通報があったので近々御用改をしようとしていたそうだ。

 

 私達の話を聞いて合点がいったようで、町の警備兵を援軍にいただき、あっという間に家にいた者達を取り押さえた。




「ぐ、おのれえ! 狼に兵を割かれていると思ったのに!」

 首謀者らしき男が憎々しげに言う。

「その狼達が味方になりましたからね。もう襲われる心配はない」


「そうか……貴様が優者だな、では死ねえ!」

 男の体から黒い霧が吹き出し、それが黒い魔物、妖魔の姿となった。


「うわあああっ!?」

 兵達が声を上げて引くが、

「ひ、怯むな、かかれえ!」

 隊長が先陣を切り、妖魔に向かっていった。


「はあっ! ……なっ!?」

 隊長が斬りかかったが、それは妖魔の体をすり抜けた。

「貴様如きに俺が斬れるか!」


「では魔法で!」

 魔法兵が魔法を放つが、

「そんなもの!」

 妖魔はそれを弾き返した。


「皆様、ここは我らにお任せください!」 

 藤次郎達が前に出て言う。

「ぐっ、すみません……皆、下がれ!」

 隊長が悔しそうに号令を出した。



「はっ!」

「でりゃああ!」

 藤次郎とリュミが打ち掛かるが、妖魔はそれを尽くかわしていった。


「くっそ、こいつ素早いわね!」

「当たれば斬れるのですが」


「俺をただの妖魔と思うなよ。その男の欲望を糧にして強くなったからな」

 妖魔が倒れている密猟者を指して言うと、


「欲望なんて、要らない」

「何?」


 いつの間にかウイルが弓を構えていて、矢が光り輝いて

 

「やっ!」

 勢いよく放たれた矢が妖魔の肩に刺さり、

 

「なっ!? う、動けん!」

 妖魔が驚き狼狽えていると、


「藤次郎」

「ええ。はああっ!」

 藤次郎が刀を振りかざしながら向かっていき、一刀両断。


「ギャアアアーー!」

 妖魔は断末魔の叫びをあげ、消えた。




「凄いじゃない、あんな事できるなんて」

「あれはもしや伝説にある」

 リュミとベルテックスが尋ね,

「自然界の力。エルフとダークエルフが使える」

 ウイル殿が頷く。


「ふう、ウイル殿のおかげで勝てました」

「藤次郎、俺も呼び捨てしてくれ」

 今度は頭を振って言う。

「え?」

「そうしてほしい、ダメか?」

「いえ。ではウイル、改めてありがとうございました」

「ん」

 ウイルは口元を少し緩めていた。

 喜んでくれているようで、よかった。




「俺の従妹だけいたが、他はいなかった」

「仲間達、前に売られた。わたしはなぜか残された」

 ウイルが連れてきた従妹はまだ幼い少女だった。


「あ、もしかしてこいつ、ロリコン?」

「そうかもしれぬな。ここで首を刎ねておくか?」

 二人がまだ気を失ったままの密猟者を見ながら言う。


「あの、こっちで裁きますので今殺さないでください」

 役人殿が止めてきた。


「いいけど、こいつらどうなるの?」

「どこへ売ったか拷問して吐かせた後で、市中引き回しの上磔獄門です」

「うわあ、なんで異世界なのにそれ江戸時代なのよ?」


「さあ? ところでロリコンってなんですか?」

「童女趣味だ」

 ベルテックスが顔を顰めて教えてくれた。


「磔は生温いですよ。鋸挽きにしてやってください」

 なんて奴だ。もし初がそんな奴らに捕まったら……この手で。


「藤次郎、黒いもの出てる。ダメ」

 ウイルが私の肩を掴み、頭を振って言ってくれた。

「え? ……ええ」




「動物達の何匹かは残念だったけど、ダークエルフさん達は皆無事みたいよ」

 あちこちに売られていたが、珍しいから愛玩動物みたく扱われていたらしく、抵抗できぬよう妖魔が力を封じていたらしい。


「ありがとう。皆が来てくれなかったら俺、両親や仲間に会えなかった」

 ウイルが頭を下げて言う。

「いえいえ。ところでウイルや皆さんは、村に帰るのですね」

「そうだ。藤次郎達の武運を祈ってる」


「ねえ、もしかしてウイルも守護者なんじゃないの?」

 リュミがそう言うが、

「残念ながら違います。ほら」

 地図にあるあと二つの光は、元の位置のまま。

「ちぇっ。ウイルってめちゃ戦力になりそうなのになあ……」


「俺達、皆の目の届かないところを守る」

 ウイルも地図を見て言った。

「ええ、お願いします」




「優者達よ。私達の一族に伝わる伝説、教える」

 ウイルの父上が話しかけてきた。

 どうやら一族の長殿らしい。

「え、どのような伝説ですか?」

「優者と全ての守護者が集まりし時、導きの光が魔の居場所を示すであろうとある」

「なるほど。ありがとうございます」

 敵の総大将の居場所という事だろうな。


「妖魔を滅ぼすのは、強者が集まればできる」

「え?」

「だが、妖魔をも救えるのは優者だけ。わかるか?」

「……ええ」


「妖魔すらも……それこそ真の救世主かもな」

「うん、そうよ」




 その後、密猟者達は裁きを受けた。

 首謀者は既に毒牙にかけた娘がいたらしく、磔獄門のところをあらゆる拷問をした後で釜茹でとなるらしい。

 私も一緒にと思ったが、ウイルや長殿の言葉を思い出して踏みとどまれた。


 妖魔すらも……か。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る