日本一のお嬢様

九重千代

第1話

花子はトランク1つで電車に乗っている。

隣には還暦越えてそうな女性支援員が座っている。花子は今、かなり心臓がバクバクいっている。こんなに緊張するのはいつ以来だろうか。


「花子ちゃん、あと一駅で着くからね」

支援員に言われて、ますます緊張感が高まる。

「大丈夫よ、私が付いてるから」

花子の不安と緊張を察してくれたようだ。


いよいよ、目的の駅に着いてしまった。

花子達の目的地は役所の保護課である。

花子は住む家もお金もなくなり、おまけに

障害もあるので、生活していくのはかなり厳しいと思い、ネットで調べた支援団体の所に相談に行ったのだった。

生活保護の申請は単独で行くと門前払いされる可能性があり、特に花子のように障害があって上手く説明ができないと、余計に単独では厳しいと支援員に言われた。


そこで、役所に同伴してくれる事になったのだ。その役所は想像していたよりも大きくて立派だった。

エレベーターで保護課に行き、花子は受付に

「あの、生活保護の申請をしたいんですけど」

と、か細い声で言った。

職員は花子の隣にいる支援員をチラッと見てから話しかけてきた。


花子は本当に緊張していたので、所々記憶が曖昧だったが、今現在の状況、家族構成、学歴や職歴、障害者手帳を持っているかどうか、などを聞かれたのは覚えている。


そして、意外と住む場所もあっさりと決まったのだ。

「ケースワーカーの渡辺と申します。お住まいになる寮はここから歩いてすぐなんで、行きましょう」

どうやらこの渡辺という女性が花子の担当のケースワーカーに決まったらしかった。

「よろしくお願いします」

花子は渡辺に頭を下げた。


「花子ちゃん、それじゃあ私はここで」

支援員が帰っちゃう…。花子は急に不安になってきた。

「何か困った事とかあったらいつでも連絡していいからね」

花子は泣きそうになるのを何とか抑え、

「はい」

とだけ答えた。

支援員は役所の職員達に会釈をして帰って行った。


花子が住む寮は、本当に駅から近く、徒歩10分もかからなかった。

外観はいかにも古い一軒家という感じだ。

渡辺がインターホンを押すと、細身の中年女性が出てきた。渡辺が挨拶と花子の事を紹介した。

「よろしくお願いします」

これから一緒に暮らす相手なので、花子は

できる限りの笑顔で挨拶をした。


いよいよ生活保護の人生が始まるんだなぁ。

寮にはどんな人たちがいるんだろう。

そんな事を考えながら、花子は部屋の中を

案内されていった。

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日本一のお嬢様 九重千代 @chiyo8888

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