第28話 守護者たち
そこには覚醒を遂げた岩寺が立っていた。やはり日本に古代から伝わる言霊というやつは役に立つな。雷伝は生唾をしこたま食道に流し込みながら、亀甲縛りに眼差しを向けるのだった。
「雷伝さん、こっちだ」
プロレス男の奥から一風の体を抱えた望月がそう叫んでいる。
「部長ここは任せて早く行ってください」
「しかしお前……」
両手を広げて、雷伝の体を守り抜く岩寺は額から流血していた。プロレス男の攻撃は一層強くなり、岩寺をタコ殴りにしている。それでも尚、よろけることさえなく、弁慶のごとく雷伝の前に立ちはだかっていた。
「安心してください……」
岩寺は眼鏡を光らせながら、振り返った。
「ドMと銘打ったからには痛いと言ってはダメなんです」
岩寺はそう言うと、一歩踏み込んで、プロレス男の腹部に向かったタックルした。
「今のうちに急いで!」
岩寺が死ぬ思いで築き上げた一筋の道。力が抜けた足を奮い立たせ、走り抜けた。
「雷伝さん、こっちだ」
望月に腕を引っ張られて、その場から逃げ去る雷伝は振り返らずに叫んだ。
「すまない岩寺、お前の為にも絶対に手に入れて見せる!」
木魂した声が延々と続く暗い廊下に響き渡るのだった。
三人は階段の踊り場まで逃げ去り、なんとか息を整える。壁に手を突き、縛道した肺を落ち着かせた。
「なんなんだよ、あれは……」
「ガーディアンだ」
「何でありますかそれは?」
望月が二人の目を見て説明を始める。
「
「なんだその惨めな誓いは……」
「あいつらはカップル狩りを行っている。そして今日は年に一度の祭りの日、つまり花火を二人で見たカップルが夜の学校に侵入し、誰もいない教室で……なんていうことを阻止するために徘徊していたのだろう」
「確かにカップルは許せぬが、なんという迷惑な集団でありますな……」
一風が呆れたような声を出した。
「俺たちもあいつらに間違えられたというわけさ」
「我らのどこがカップルというのだ」
「男女二人組だからな」
「なっ!」
確かによくよく数えてみれば、そうとも言い切れない。だがこの四人を見てどこがカップルに見えるのだ。
「もしくはゲイとレズのカップルかと思われた説も……」
「だとしたら望月と岩寺のせいだろ。二人で女子トイレなんか入るんだから」
「いいやガーディアンは男女の交際にしか興味がない。それにあいつらにとっては男女で仲良く深夜の学校に侵入する行為自体が許せないのだ。交際経験のない童貞のひがみからすればどの男女が友達か恋人なのかも分からないんだよ」
だからあんなうつろな目で彷徨っていて、弾丸も効かなかったのか。とんでもない憎悪は時に正気や痛覚を麻痺させるらしい。
「まだあんなのがこの学校に潜んでいるのか」
「それは分からない。
「だが取り敢えず先を急ぎましょう。それこそ祭りから流れてきた乳繰り合いカップルが来訪してはそここそ作業に支障をきたします」
「確かに灯の言う通りだな」
三人は防犯カメラのデータが管理されている職員室に向かった。ここの管理サーバーに例の映像が残っているはずだ。
職員室の扉を手をかけるが、やはり開いていない。
「ここも俺がやる。あんたらは誰か来ないか見張っていてくれ」
そう言うともまたもや望月がピッキングセットを持ち出して、開錠を試みた。そして数十秒足らずにピッキングに成功する。
周りを見渡し、音が立たないように扉を開けると身をかがめながら、管理サーバーへ近づいた。
まずはスイッチを押し、起動させなければならない。パソコンを立ち上げると、パスコード画面が表示された。
「パスコードなんて知らないぞ」
「大丈夫だ。教頭ほどの年齢の先生は必ず、ここら辺に」
望月が懐中電灯を口に咥えて、机の下にもぐった。
「あった」
望月が顔を出し、親指を立てる。
「5398だ」
懐中電灯を手に持ちかえるとはっきりとした言葉でそう言った。
「このくらいの年齢の教員は万が一忘れてしまった時のために机の下に紙で張り付けている可能性が高いんだ」
望月に言われた番号を入力すると、ログインができた。
「本当に入れたな」
「よし、あとは……」
望月がパソコンを操作し、ファイルを開くと、録画映像の膨大なデータがあふれ出てきた。
「これが先週の水曜日で、ここをクリックすると」
すぐにUSBメモリーを差し込み、手速く作業を始める。
「後はデータのダウンロードを待つだけだ」
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