第13話 開幕宣言
雷伝は目を見開いて、言葉を待った。
ここは余計なことを言わないほうがいい。じっと相手の顔を見つめて、絞り出る答えを待つべきだ。
そして赤頭は目を瞑り、歯ぎしりの末、ついに首を縦に振った。
「サインしよう」
「分かった」
雷伝はバインダーに挟んだ申請書とボールペンを渡す。
生徒会の許可を証明する氏名欄に震えた文字で書いた。
――赤頭大輝
「書いたぞ、これでいいだろ」
申請書を確認すると、深く頷いた。
「確かに受けとった」
「その代わりそいつはあくまでも仮だ。お前たちが以前のアニメ部のように何の実績も残さなければ俺はお前たちをすぐに打ちのめす。一週間だ。この間に何も功績を残さ気れば即廃部。それだけは肝に銘じておけ」
「ああ、いいだろう。貴様たちの土器もを抜いてやる」
雷伝は受理された申請書をブレザーのポケットに押し込むと、大木から垂れていたロープをナイフで切る。赤頭の巨大な図体は地面に打ち付けられ、網から解放された。
落ち葉を掴みながら、顔を上げる赤頭。そこにはもう雷伝の姿はなっかった。
その代わり目線の先にあるのは盗撮映像が収録されたSDカードと写真が数枚。
それをポケットに押し込むと、歯を食い縛り、咆哮を上げるのだった。
葛藤の末、苦渋の決断をした。その恩恵をポケットに深くに押し込んだ赤頭には一抹の罪悪感と虚しさが染みついた。
裏山から、とぼとぼと歩いて下山すると部室棟の前で青橋が待っている。
「会長、もう終わったのですか」
「ええ、少し打ち合わせをするだけだったので」
合わせる顔がない。うまく目を見て喋れなかった。
「そんなことより、どうしたの? 血が付いているわ、それに落ち葉まで」
「いえ、これは大したことでは……」
目を逸らす赤頭。すると柔軟剤の香りが鼻腔をくすぐった。
「会長、そんな――汚れてしまいます」
血を見た青橋は自身が持っていたハンカチで赤頭の血を拭いたのだ。
「ハンカチは汚すものですわ。何があったのかは聞きません、でも一つ忘れないで欲しいことがあります。この生徒会は一つであるということ。レギュラー争いがあるわけでもないし、皆が平等な立場なのです。だから何かあったら一人で抱えずに相談しない。それも副会長の役目ですことよ」
「――会長」
赤頭はポケットの中身を握り締め、このまま潰してしまおうかと思った。
俺は……
歯ぐきから血が出るほどに奥歯を噛み締め、この後悔に耐えるのだった。
※ちなみにその夜、擦り切れるほど映像を再生させた赤頭であった。
生徒会副会長のサインを手に入れた一行は、実質部室の奪還に成功した。だがこれで終わりではない。まだあの生徒会長を納得させていない。
雷伝は二人の前で高らかに宣言した。
「我らは大義名分を手に入れた。これにて全面戦争を開始する!」
屋上の晴天の下で、拳に点につきあげて叫んだ。
「明日の生徒総会にて、バンキシャ部の発足を全校生徒に向けて宣言するのだ」
「ついにやるのですね」
岩寺がそう言った。
「腹は決まっております」
一風も頷く。
「これからは我らの時代の築くのだ。いままでのような教室の隅で身を細くしていた我らは明日を持って、学校の英雄となる。全校生徒に知れ渡れば、もう生徒会も手出しはできん。後はやってやるだけだ」
雷伝の笑い声は屋上から響き渡った。
翌日の生徒総会。雷伝は誰よりも緊張していた。会が始まり、野球部の壮行会などが執り行われた。だがそんなことは耳に入ってこない。
緊張で手が震えて、頭の中が真っ白になっていた。
雷伝のあまりの動揺具合に見かねて声をかける
「大丈夫であります。部長殿は英雄であるのでしょ、英雄に演説は付き物ですぞ」
なぜかクラスの違う一風が隣にいた。もはや影が薄いとかいうレベルではない、ほとんどの認知されていないのか。
ある意味、不良生徒以上に自由である。
「やっぱり、やめないか。そんなことしなくてももう部室は取り返せたんだし……」
雷伝は自分で言ったことなのに弱気になっていた。体育館に入り、全校生徒を目にするまではやる気満々だったがいざ会が始まるとその生徒数に圧倒されてしまった。
「何を言っているでありますか……」
「うう、吐きそうだ」
そしてついに生徒総会が終わる。
「ではこれにて……」
青橋が壇上に上がり、閉式の言葉を述べ始めた。
一風が雷伝の尻を叩く。
「いまであります」
「よし……」
大きな息を吐く雷伝。いざ復活の時、震える拳を握り締め、ただ目線は壇上に立つ青橋星美へ。
そしてはっきりとした声で言った。
「ちょぉぉと待った!!」
以下略
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