第7話 虎穴に入る!

「岩寺、青橋が使っているロッカーも分かるのか」


 雷伝は神妙な面持ちで問いかけた。


「無論です。奥から二番目の八番ロッカー、七番ロッカーこの辺りを多く使用しているはずです」


「なんでそこまで、お前まさか……」


「いいえ安心してください。やってません」


 怪しむ目で見つめる雷伝。


「パンツはスカートというベールに包まれているからこそ見る価値があるのです」


「じゃあ火曜日の朝、我が仕掛けてくる」


 雷伝は無視して続けた。


「どうかご無事で」


「任せろ。大銀河帝国の英雄と呼ばれこの我を信じて待つのだ」


 火曜日の朝、雷伝の覚悟は目が覚めた時から違った。

 いつも以上に早く起き、土日で購入した盗撮セットをカバンに詰める。いつもは簡単に済ませてしまう朝食も今日ばかりはしっかりと食べ、英気を養った。

 今日は少し遅れて登校する。学校に到着するのは一時限目が始まって数分経ってからだ。

 家を出た雷伝は近くの公園で時間を潰し、時が来るのを待った。

 始業のチャイムが鳴り、雷伝の遅刻が確定する。しかしそれ以上に大事なものがある。学生カバンは盗撮セットでごつごつとしていた。

 裏口から登校する雷伝。自分の教室には向かわず、真っ先に体育館に向かう。

 案の定、鍵は開いていない。そのため金曜日の体育の時間にわざと女子更衣室の窓の鍵を一か所だけ開けておいたのだ。

 用務員の点検があったとしても、ここまで細かい場所までは点検しない。

 地面にへばりつき、窓に手をかける雷伝。


(よし、開いている)


 体をよじらせながら更衣室に侵入した。

 誰もいないが緊張する。震える手でカバンのファスナーを開け、中からカメラを取り出した。

 昨日、念入りに確認したカメラ。撮影中、作動音が本当に鳴らないのだろうか。自動でフラッシュで焚かれないだろうか。三時間くらいカメラを作動させて、異変がないか検証した。

 検査の結果は異常なし、手のひらに収まるほどのサイズでその存在感の無さは雷伝を凌ぐものがある。

 購入後、一度も素手でカメラを触っていない。指紋が付ないように危機に触れるときは必ずゴム手袋をはめていた。

 さらに要人深い雷伝は金曜日の教室掃除で集めた。男子生徒の髪の毛を二、三本ばら撒いた。

 このカメラが万が一見つかった時には名も知らない男子に犠牲になってもらう。可哀想ではあるが、これも部室奪還のために仕方のないことだ

 無事にカメラの設置を完了する雷伝。ほっと息をついた。

 だがまだ油断ならない。今日は設置作業の他に回収作業が残っている。辺りを見渡し、痕跡が無いことを確かめると、再び窓から外に出た。


 遅刻したことを担任に叱られたが、それどころではなかった。カメラが見つかってないか気が気ではない。そして本当に撮影できているのかも気になる。

 回収するのは三時限目が終わってからだ。その時間なら誰もいないだろう。

 二時限目、三時限目の授業中は終始貧乏ゆすりが続き、全く集中できなかった。


 そして迎えた三時限目の終わり、素早く教室を出る雷伝。

 今回に限っては友達の無さが功を奏す。四時限目は移動教室だが、友達がいない雷伝は皆から離れても誰も気に留めない。

 小走りで女子更衣室に向かうと体育館の鍵は予想通り閉まっている。

 先ほどと同様に窓から侵入した雷伝はカメラの回収作業に移った。ロッカーを開け、中を確認する。そこにはロングタオルが一枚かかっているだけで他には何もなかった。

 カメラに手をかけ、ドライバーでネジを回す。

 だがこれがなかなか外れない。


(あれ、おかしいな。念入りにネジを締め過ぎか)


 カメラが落下すれば大惨事だ。雷伝は設置時にかなり入念にネジを締めていた。それが仇となり、ドライバーが動かない。さらにロッカー上部の隙間に設置したため、手を捻じりながら作業しなければならなかった。

 力が入りづらく、締める作業よりも外す作業のほうがずっと難しい。


 雷伝が苦戦していると、遠くのほうで物音が聞こえた。


 ――ガチャンッ


(ん……?)


 目を細める雷伝。今の音はなんだ? 

 次に足音が聞こえる。

 ちょっと待て、その足音がこちらに近づいて来ている……

 まずい。こんな姿が見つかれば現行犯だ。言い訳は出来ない。焦りながら手を早める。だが焦れば焦るほど、おぼつかなくなっていく。

 冷や汗がダラダラと流れた。

 足音が更衣室の前で止まる。手を動かしながらじっと扉を見つめる雷伝。

 横になっていた鍵が縦に向く……

 ……ガガガガガッ


 ついに更衣室の重たい扉が開いた。


(青橋星美!!)


 逆行を背に目を丸くした青橋が体育館の鍵と更衣室の鍵を持って立っていた。


「あなた確か……そう、雷伝さんですわね」


 目を細める青橋、雷伝は手を後ろで組み、目を泳がせた。


「生徒会長……」


「というかあなたどうやってここに入ったの? 鍵は私が持っているはずよ」


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