21.やっぱ締めは必殺技だよね。

「と、いう訳で俺が相手だイケメンモーターマシン」


 前回とは一転、カウボーイスタイルに身を包んだトレスが、ヴァルディーガに向かって言った。


「正々堂々、勝負だ!」


 そう言った割には、四体ものマッターンを引き連れている。


「良いだろう! かかってこい!」


 すぐに乗っかるアリス。トレスはコックピットで不敵に笑った。


「ブラックヘヴラーが隊長格テン・サークルナイツの実力とくと味わえ! 俺の愛機ナイツハウンドよ! 切り刻め!」


 ナイツハウンドと呼ばれた銀色のモーターマシンが細身の剣を縦に構える。この空間で普通に動ける以上、魔道機関を搭載していないタイプであろうことはアリスにも分かった。


「テン・サークルだか何だか知らないが、さっきのモーターマシンに比べたら大したことはなさそうだ! 返り討ちにしてやる!」

「甘く見ないでアリス! あいつの実力は本物よ!」


 ドロシーの声とほぼ同時に、ナイツハウンドの攻撃が始まった。鋭い剣先が、それこそ雨あられとヴァルディーガを襲う。


「うわあっ!」


 アリスの想像を超える鋭い攻撃に、思わず声が上がる。攻撃自体は両腕がガードの形で展開した魔法障壁で防いだが、かなりの衝撃がコックピットにまで伝わった。


 甘く見た! こいつ強いぞ!


 アリスは昨日のことを思い出す。


 俺と話しながらこいつと戦っていたブレーメンは、実は相当な実力者なのか!?

 それはそれでありなことなんだけれど、何だろう。認めたくない。


 そんなアリスの思考はお構いなしに、ナイツハウンドはいわゆるフェンシングの構えから、連撃を押し込んでくる。


 そうだ!


 アリスはひらめいた。


 この攻撃にぶつけるように、インパクト・ドライブ・ブレイクをぶち込んだらどうだ!?


 アリスは昨日放ったロケットパンチを思い浮かべる。


 いけるぞ!


 三度繰り出されたナイツハウンドの攻撃に、アリスは拳を合わせた。


「インパクト・ドライブ!」


 ヴァルディーガの体を流れる魔力が、右腕に集中する。


「ブレイク!」


 切り離され、猛烈な勢いで飛び出す右腕。


 しかし!


 細剣を叩き折るかと思われた右腕はスカッとナイツハウンドの巨体をすり抜けた。


 えっ?


「こっちだ!」


 声と共に予想外の方向から繰り出されるナイツハウンドの攻撃が、ヴァルディーガを直撃する。


 何だ!?


 混乱するアリス。ヴァルディーガの前から、二体いるナイツハウンドの姿が一つ消えていく。


 ホログラム!


 アリスはそれが立体映像だと見抜いた。そこへ、ドロシーが告げる。


「アリス、ヴァルディーガの損傷は軽微だけれど、あれを何度も食らったら危険よ」


 アリスたちの動揺を見透かしたように、トレスは言った。


「どうだ! ナイツハウンドの分身攻撃! これは、まだまだ増えるぞ!」


 ナイツハウンドの姿が、一体、二体と増えていく。さらにそれは、細剣を構えたマッターンと重なった。

 全部で十体ものナイツハウンド。しかもそれは、半分が実体、半分が立体映像である。


 危機的状況に、アリスの頬を汗が流れた。


「アリスちゃん」口を開いたのはブレーメンだった。「アリスちゃんの好きなロボットアニメに、こんな場面を打開する術は無かったかい?」


 ブレーメンのその言葉に、アリスはハッと思い当たった。


 ある! あったぞそんな展開が!


「出でよ! 『獅子吼ししこう』!」


 ヴァルディーガの前にある空間に、魔法文字が現れ、絡み合い、日本刀の鍔と柄の形を作り上げた。

 ヴァルディーガがその柄を掴み、大きく引き抜くと、空間からぬらりと美しい日本刀の刃が現れた。ヴァルディーガはそれを、正眼に構える。アリスは笑みを浮かべて言った。


「俺の好きなロボットものでは、こう戦っていた。相手が十の体で挑むならば、俺は十の体で迎え撃つ!と!」


 アリスの魔力が上昇する。それにこたえるように、ヴァルディーガの出力は上昇し、ダクトから洩れる水蒸気はまるで機関車の汽笛のように声高らかに吼えた。


 フゥオオオオ!


「エンチャント・アジリティ!」


 アリスの魔法がヴァルディーガの敏捷性を上げる。ヴァルディーガのフェイスガードが、金属音を立てて閉じた。

 ゆっくりと、ヴァルディーガの姿が左右にぶれる。

 左右のぶれは次第に、大きく横に広がり、ヴァルディーガの分身を作り出す。


 一つ、二つ、——十と!


「でっ! でたらめか! おい!」


 困惑した顔でトレスは叫ぶと、十体のナイツハウンドで突進した。だがその攻撃は全て、ヴァルディーガの分身と本体によって撃破される。五本の細剣が、バラバラになりながら宙を舞った。


 俺の心に火をつけろ。


 アリスの心の炎が、ヴァルディーガに火を灯す。火は、全身を駆け巡りながら、日本刀へと収束していく。収束した炎の魔力が、一気に噴き出した。

 炎纏う日本刀を、横一文字に構えるヴァルディーガ。


臨界りんかい! 獅子吼桜炎華ししこうおうえんか!」


 まるで桜の花のような炎の花で構成された巨大な獅子が、真横に薙いだ日本刀から解き放たれる。獅子は灼熱の炎で四体のマッターンを溶かしつくし、ナイツハウンドの右腕をさらった。


「何だ、そのチート! 次はこうは行かねえぞ! チキショー!」


 捨て台詞を吐いてトレスは逃げ出す。


 空間を斬るかの如く刀を振り、炎を消すヴァルディーガ。ガラスが割れるように魔導減滅空間は砕け散り、アリスたちは現実空間への帰還を果たすのであった。


          ○


「一時はどうなることかと思ったぞい」


 鼻息を漏らしながら、モグラザカ博士は言う。


「炎神ヴァルディーガが発動したときは、この一帯が焼き尽くされるかと思った」


「まあまあ、結果収まったし、最後はアリスも灼熱の魔力コントロール出来たし」


 ドロシーがフォローに入る。もじもじしてプリーツスカートの裾を握っていたアリスが、「以後気を付けるよ」と呟いた。

 そんな三人から少し離れて、買い物の紙袋をあさるブレーメン。


「うひょお、何これ! お土産!?」


 黙っていれば、何もしていなければ美しい青年が、女物の下着を頭にかぶり首に巻いている。


 そんなわけねーだろ。


 額に青筋を立てながらアリスは、小声で言った。


「エンチャント・ストレングス」


 アリスの筋力が高まる。


「えっ? 何? ワシ!?」


 アリスはモグラザカ博士を持ち上げると、ブレーメンに叩きつける。

 食らったブレーメンは、不愉快そうな顔をして言った。


「男は嫌だなあ」


 アリスは一つ、ブレーメンの対処法を見つけた。

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