第10話
「もうすぐで今度こそ本当のお別れだね」
駅まで後二、三分という所で、鈴香は幸がここまで目を逸らしてきた話題に触れた。
この旅がいつまでも続いて欲しかった。
「鈴香さん!」
幸が鈴鹿の名前を大声で叫ぶと、鈴香は驚いた様子を見せた。
「いきなり大声出したから、びっくりしたよ。……それでどうしたの?」
一瞬、間ができた。
「僕も鈴香さんの旅に連れて行って下さい!」
「だ、駄目だよ、幸君。幸君にはやることがあるでしょ。……それに、このまま幸君といたらお別れする時が寂しくなるから」
「そ、そうですよね」
気の抜けた幸に鈴香は間髪いれずに「ねえ」と話を始める。
「私、もう少ししたら自分で会社を起こそうと思ってるんだ。それが私の夢。やりたいことが見つかったの。私は……幸君にも自分の夢を追いかけて欲しいかな」
「夢……僕は、まず見つけるところからですね」
「それでも良いと思う。夢探し、私は楽しかったよ。私の場合は、それがヒッチハイク、幸君も楽しかったでしょ?」
鈴香はそう言って笑って見せた。
程なくして駅に着き、昨日と同じ場所に横付けする。
「楽しかったです、鈴香さんとの二人旅。本当にありがとうございました!鈴香さんは僕の命の恩人です」
「命の恩人だなんて、何か照れるね。こっちこそ楽しかったよ。ありがとね」
鈴香は「握手」と言って幸の前に右手を差し出した。幸はそれに応じるように自分の右手を鈴香のに重ね、強く握る。
「元気でね、幸君。御飯ちゃんと食べるんだよ」
「分かってますよ。鈴香さんも体に気を付けて下さいね」
「うん。……またね、幸君。バイバイ!」
幸は鈴香の姿が見えなくなるまで大きく手を振った。
「ありがとう、鈴香さん……」
短いようで長い、でもやっぱりちょっと短い、そんな鈴香と過ごした二日間。それは、きっとこれからも幸の心のどこかで咲き続けるのだろう。
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