第10話 脱不登校計画
「……智菜…? 何を鮎川君と話してるの?」
妹は、鮎川君と電話をしている。
妹のスマホから彼の声が聞こえてきていた。
多分、妹はスピーカーの音をわざと大きくしてる。
「はい、そういうことです。よろしくお願いします。それでは失礼します」
そう言って、妹は電話を切った。
「姉さん、明日から姉さんのために鮎川君が下校時に立ち寄ってくれますよ?」
よかったですねぇと妹は笑みを浮かべる。
「えっ……?」
鮎川君が……私のために……?
心臓の鼓動がにわかに速くなるのがわかる。
そしてボンっと音をたてそうなくらい真っ赤になることも。
「姉さん、反応がオーバーすぎ」
「だって……えぇ……」
私は、今までそんなに目立つわけじゃなくてむしろ陰キャで地味だったし、この髪型にする前はおさげだった。
高校に入学することになってから、自分を変えたいと思って髪型も変えた。
そんな、私にそこまで優しく接してくれる人はいなかったのだ。
「あちゃ〜ここまで優しくされることに免疫なかったかぁ〜」
妹の言う通りではあるのだが認めてしまうと自分が情けなくなってしまう。
ちょっと優しくされたからって……あれが本当に鮎川君のちょっとした優しさなのかはわからないけど、ここまで意識しちゃうのは自分でも恥ずかしい。
「でも、学校行ったらいつでも会えるよ?」
早く学校に行きなよ、と妹は言う。
「……でも…恥ずかしい」
仮にも鮎川君と話す機会があって、そのときにこんなに顔を赤らめていたら……鮎川君にだけでなく同じクラスの人たちにも変な勘繰りをされてしまうだろう。
「姉さんの脱不登校は、前途多難だね……」
呆れた、とばかりにそう言うと妹は退室していった。
◆◇◆◇
担任の山城先生が話し終わるとSHRは、終わり生徒たちが下校の支度をしたり清掃をしたりする。
「今日は、芹沢さんの家に寄ってくの?」
荷物をまとめていると斉川さんに放課後の予定を尋ねられた。
「うん」
肯定すると、斉川さんは少しばかりむすっとした表情をした。
「だったら一声かけてくれたっていいじゃん」
「斉川さんには、ほかのクラスメイト余の予定もあるから迷惑かけちゃうなって思ってね」
彼女は、交友関係が広くそれだけ友人も多いのだ。
「そう言うの、要らない気遣いっていうんだよ?」
ニコッと微笑んでいるが目が笑ってないので怒っていることが分かる。
「ごめん、今度からは誘うよ」
こういう時は、素直に非を認め打開策を即立てるに限る。
「うむ、それでよしっ」
ふんすっとばかりに彼女は返事をした。
「でも、今日はお届け物もないんだよね?」
そう、今日は山城先生には何も頼まれることはなかった。
「じゃあ、どうして?」
う〜ん、と目線を彷徨わせた後彼女は、ことりと首をかしげる。
「実を言うと、これから芹沢さんの家にお邪魔する回数が増えると思う」
そう、璃奈さんの妹の智菜ちゃんにあるお願いをされたのだ。
それを知らない六花は、眉間に指先を宛がって俯きがちに真剣に考え始めた。
そして―――顔を上げたとき、さっきまでの微笑みが消えた真顔で
「ねぇ」
と前置きを一つ。
「付き合い始めたの?」
どこか寒気すらも感じさせる声で訊いてくる。
「……真剣に考えて行きついた先がそれ……」
どういう思考をすれば、その考えに至るか理解に苦しい。
「違うの?」
上目遣いで尋ねてくる六花―――昔よりもだいぶ背丈の差があるんだな。
「違うよ、璃奈さんと智菜ちゃんに頼まれたんだよ。脱不登校に協力してほしいって」
それを聞いた六花は、
「なぁんだ、そうならそうと早く言ってよ、要らない心配しちゃった」
といつものように微笑をうかべた。
ちなみにその心配ってどんなことなんだろうか、そう思っていると
「てっきり、男性に不慣れな璃奈さんに優しさの雨でも降らせて誑かしたのかと思ったじゃない」
すごい解釈をしていた。
「そんなこと、しないよ」
そもそも僕は、そんなに優しいわけではないと思う。
自分から、人のためになることをすればそれは優しさというかもしれないが、他人に頼まれてやっていることだ。
「どうかなぁ、そんなことにならないために私が監視しなくちゃ」
大仰な……とは、思いつつ一人で女子の家にお邪魔するよりは知ってる人とと行く方が気が楽だからと心の中で感謝する。
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