不登校女子を学校復帰させたらベタ惚れさた件
ふぃるめる
不登校女子と幼馴染と
第1話 幼馴染と不登校女子と
――――入学してから数日、学級組織決めで僕は学級委員長になった。
無論、自分からやりたいなどということは一言も口にしていない。
一言もだ。
担任の教諭、山城葉月先生(24歳で温泉旅館の次女らしい)によって誰も希望者のいなかった学級委員長に中学校時代に生徒会だったからというそれだけの理由で任命されてしまったのだ。
こういうのは大概、男女一人ずつなので相方となる女子生徒の学級委員長がいるわけであるが……その女子生徒というのが――――
「達希く〜ん、お昼一緒にしていいかな?」
「斉川さん、ちょっと声大きいと思うよ……」
小学校からの幼馴染である斉川六花だったりする。
「そうかなっ、ごめんね」
僕からするとまぶしい存在だ。
誰とでもあっというに仲良くなれてそれでいてどんな友達も大事にする。(コミュニケーション能力の怪物……)
六花は、僕の席まで椅子を持ってきて、よいしょっと座った。
「でもさぁ、そろそろ付き合い長いんだし名前で呼んでほしいんだよね…なんか他人行儀な感じがするじゃん?」
その言葉に周りの生徒が振り向く。
男子生徒からの目線が痛い……。
「女子を名前で呼ぶのはちょっとハードル高いかな…あはは……」
僕は目立ちたがりでも陽の者でもない。
「そこは
「ごめんよ」
六花はにこりと微笑んだ――――まぶしい。
「うわぁ……生トマト…嫌ぁっ……」
「トマトから摂取できるリコピンはトマト以外からだと摂取できない貴重な栄養成分だから食べなよ」
生トマトには何も罪はないのに嫌われていて可哀想に……お前は、六花の弁当の中じゃ陽の者じゃないもんな……と、同じ陰の者として同情の念を抱かずにはいられない。
「達希くん、問題です」
つぷっとトマトを刺したフォークを一旦置き、ちょっとだけ上目遣いに六花は僕を見る。
「何?」
「さて、私が今して欲しいことは何でしょうか? 選択問題にするよ。
1 私のトマトを食べてくれる。
2 私のトマトを食べてくれる。
3 私のトマトを食べてくれる。
正解するとご褒美にこのトマトを差し上げますっ」
そう言ってフォークの先をこちらに差し出してくる。
何人かの女子の黄色い悲鳴が聞こえて来たり男子の殺意しかない視線が背中に突き刺さる…痛い。
「俺、答えてもいいか?」
横合いから購買で買ってきたパンをもって長身の男子が混ざってくる。
僕と六花と中学が同じで仲の良かった水野蓮という――背が高いイケメン、溢れ出る陽の者オーラ……眩しいっ!
水野のパンの中にあるトマトの薄切りのようにレタスに隠れたくなってしまいそうだ。
「だーめっ!!蓮には聞いてないっ」
後ろの方から「新しい男子……ダークホースの登場よ!」などという声が聞こえてくる。
「聞かれてなくても答えるわ。達希の言う通り自分で食べろ。てか、このやり取りほぼ毎日してないか?」
昨日はピーマン、一昨日はしめじ。
「しょうがないじゃんっ!! 嫌いなものが多いんだもん」
蓮はゲラゲラ笑っている。
六花は苦いような酸っぱいような顔をしながらトマトを食べる。
「この世の食べ物とは、思えない味だね」
「お前の舌がこの世のものじゃないんじゃねーの?」
蓮はひとしきり笑い続けた。
****
午後も学級組織決めが行われおおよその学級での個人の役割は決まった。
高校生にもなると自分達だけの話し合いで多くのことが決まる。
そして下校になって教室を出ようとしたとき担任の山城葉月先生に呼び止められた。
「鮎川さん、申し訳ないけど頼み事していいかな?」
「なんでしょうか」
温泉旅館の次女って言われるとそう見えるような所作や物言いが見受けられることがある。
歩いているときにたまに、着物を着てないのに着物を着ているように見えたり言葉遣いが突然丁寧になったりする。
「ちょっとこの地図を見て欲しいんだけどね?」
先生はスマホにグーグルマップをだした。
「緊急時連絡先カードみたいなのを提出してもらったと思うんだけどそれによると君の家がここで」
先生が画面上をスクロールしていく。
「芹沢さんの家がこの辺なの。芹沢さんって言ってもわからないか……」
「学校に来てない人ですよね?」
「えぇ、そうなの。学校に来てないからいろいろ、書類が溜まってて…それをあなたに届けて欲しいのよ。ついでに書類について説明もして欲しい。あなたの家から芹沢さんの家までは近いでしょ?」
もう一度先生のスマホに映し出されたグーグルマップを見ると確かに徒歩5分程度の距離だ。
「一応、地図を送るわね。鮎川君のはiPhone?」
「はい」
「じゃぁ、Airdropできるわね?」
スマホを取り出しAirdropを受け入れられるようにする。
送られてきたのは、グーグルマップのスクショだ。
「よろしくお願いね。気を付けて〜」
先生は要件は済んだとばかりに大きな封筒(いろんな書類がまとめて入っているのだろう)を手渡し去っていった。
改めて送られてきたスクショに目を通すと本当に近かった。
「達希くん、また明日ね〜」
手をひらひらと振って六花も女子友達と帰路に就く。
「今のって俺に対して手を振ったんかなっ!?」
「いや、どうみても俺にだろ。聞いたか? 和樹君って言ってたぞ?」
見るからに野球部だろうといった男子二人がそんなことを言いながら昇降口に向かっていく。
「
****
一旦、家に帰って荷物を置いて着替えてから芹沢さんの家に行くことにした。
先生から送られた地図を見ながら(歩きスマホはダメ絶対)行くと芹沢さんの家は閑静な住宅街にあった。
「この家で間違いないかな?」
インターホンを押してから間違いに気づいたのでは恥ずかしいので地図を拡大して確かめる。
間違いはないようだ。
表札にもSerizawaとローマ字で書かれている。
インターホンを押す。
しばらくすると
「要件は何でしょうか?」
と思ってた以上に、幼い声が尋ねてくる。
「芹沢さんと高校で同じクラスで学級委員長をやっている鮎川と申します。担任から書類を届けるよう頼まれたので来ました」
過不足の無い応答だろう。
「わかりました」
という声が聞こえてきて
ガチャっと鍵の開く音が聞こえて少しずつ扉が押し開けられる。
「芹沢さんかな?」
出てきた女の子は首を縦に振った後、横に振った。
「お姉ちゃんなら、自室にいる」
「そうか…じゃあ、この封筒を芹沢さんに……」
渡してほしいと言おうとしたところで担任から説明するよう頼まれていたことを思い出す。
「芹沢さんに説明しなきゃいけないことがあるんだ」
少女は少し考えた後
「上がる?」
と訊いた。
「お邪魔していいのなら」
普通は玄関先に呼んでくるだろうと思ったがもう、芹沢さんの家の中に入ってしまっていた。
階段を上がって二階の最奥の部屋の扉の前に来たところで止まる。
「お姉ちゃん、今いい?」
「…いいよ……」
少し低めの儚げな声が聞こえてくる。
「私はお茶とかもって来るからお話ししてて」
案内してくれた少女は扉を開けると踵を返した。
えっ……誰? みたいな顔をする芹沢さんと目が合う。
「お邪魔しちゃってすみません」
「……あっ……」
僕の顔をしばらく見つめた後、短くか細く芹沢さんは声を上げた。
そして読んでいた本を閉じると体を起こした。
「芹沢さんと同じクラスの学級委員長になりました、鮎川達希と言います」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます