転生殺人事件~転生先はやりこんだゲームの世界2050~
ホークピーク
第1話 密室殺人を装った犯行
真新しいマンションの2階の一室。真下にはゴミ集積所があってあまりよいレイアウトではなさそうだ。その分だけこの部屋は安かったかもしれない。
一通りの家具が揃った、まさにとりあえず揃ったばかりといった様子の部屋だった。その中に一人の男性がいた。
背は180cmぐらいだろうか。痩せ型で服装はやや神経質なぐらい整えられている。よく見れば髪もきれいに整え、顔もうっすらと化粧をしているようだ。この時代、男性の化粧も決して珍しいものではないのだが、それでも一般的に見れば手をかけすぎていると思うだろう。
表札の表記からすると彼の名前はジョンと言うらしい。最近では諸外国から日本へ移り住む人も増えているのだ。
彼は玄関へ向かった。チェーンはかけず、鍵がきちんとかかっていることを確認する。
次に窓に近い場所に置かれたソファの前のローテーブルへ向かった。その上に先端のとがった包丁をおいた。
彼はまじまじと包丁を見つめ、神経質そうにその向きを何度か整える。柄を窓の方へ向けているようだ。
「これでいい」
ジョンはにこりともせずに鼻で笑うと次にすぐそばの窓を開けた。
窓から少し身を乗り出して下を見る。ゴミ集積所がある。
それを見てジョンは凶器に満ちた笑顔を浮かべた。
「いいね。とてもいい」
窓は開けたままで部屋に戻る。
「これで準備万端だ」
おもむろにジョンは包丁を自分の胸に突き刺す。
驚異的な意志の力で声を上げず、そのまま包丁を窓の外へ落とした。
そして窓を閉ざす。
落ちたナイフはゴミ集積所の袋の中へ消えていた。
ジョンは窓やカーテンに血がついていないのを確認して満足そうにうなずいた。
そこでジョンは力尽きてソファに倒れ込んだ。
だがその表情は歓喜していた。
「あはははは。これで俺は『殺された』ぞ」
それから2日後。
「ここです、はやく!」
女性が警官と管理人らしき人物をせかすようにジョンの部屋の前へやってきた。
その女性はジョンと同年代、20代後半にみえる。身長は170cmはないだろう。標準体型で本来は整った顔立ちをしていると思われるが、今は平静を失って化粧もいささか乱れてしまっている。
警官は扉に手をかけようとする女性を制止した。
「もしもの場合には指紋の採取を行うこともあります。手を触れないでください」
「でも」
「念のためですよ、メアリーさん。管理人さんはこの手袋をして鍵をあけてください」
警官はポケットからビニール手袋を取り出して渡した。
年老いた管理人はあたふたと手袋をはめると、もってきた鍵で解錠した。
すぐにメアリーと呼ばれた女性が飛び込もうとするが、再度、警官が制止した。
「なにがあるかわかりません。私が先に入って確認します。私が呼ぶまではここで待機してください」
メアリーは絶望的な表情で警官を見たが、警官は首を振った。
「これも念のためです。ご了解ください」
警官は自分の手袋をはめ、扉を開けて中に入ると一旦扉を閉ざした。
警官はゆっくりと手前の部屋から確認を進めた。浴室、トイレ、寝室、キッチン。
最後にリビングに入る。
そこでソファに倒れたジョンの姿を見つけた。
「うっ」
腐敗臭が少しして警官は鼻を押さえた。
「これはいかんな」
念のため死体を携帯端末でスキャンし死亡していることを確認する。
それからそのまま携帯端末を操作し、データを転送しつつ担当部署に依頼した。
それから溜息をついて、玄関へと戻る。リビングへとつながる扉は念のために再度閉めた。
「ど、どうだったんですか」警官が姿を見せるとメアリーが問い詰めた。
警官は首を振った。「残念ですが、ジョンさんと思われる人物の死亡を確認しました」
メアリーはよろめいた。「本当に」
「これから現場を検証するためのチームが来ます。彼らが確認を終えるまで部屋は立ち入り禁止となります。メアリーさんには後ほど担当の者が来ますので、事情をお聞かせいただけますか?」
警官は申し訳なさそうに言った。
「一目確認だけでも?」
「申し訳ありませんが規則で立ち入りを禁止されているのです。私ももう入りません」
しばらくして殺人の担当部署が到着した。
現場の記録をとり、事件の事実を解明するためのチームは部屋まるごとをスキャンしはじめる。
記録は短時間で完了した。
次に一緒に到着した刑事が現場を視認する。
「うーむ」
死体はソファに倒れ込むように転がっていた。
刺し傷がある。携帯端末でのスキャン結果でも刺殺。刺されたことによる失血死であると判定されていた。特にそれを疑う余地もない。
だがスキャンでも目視でも凶器が見つからない。キッチンには包丁があったが血液反応は出ていない。
警官の報告では窓も扉も閉まっていた。
「現場では何にも手をつけていないんだね? いや、疑っているのではないけれど確認は必要だからね」第一発見者となった警官に改めて問う。
「はい。管理人が鍵を開け、自分だけが最初に部屋に入りすぐに死体を発見しました。その後、誰にも入室させませんでした。自分もすぐに部屋を出ています。開けた扉は閉めました」
「ありがとう。よい現場保全だった」
刑事は改めて現場を検分する。
現場に凶器がないのだから犯人が凶器を持ち去ったとみるのが当然だ。しかしジョンの上着のポケットには部屋の鍵が入ったままだった。
「これは当然、そういうことにならざるをえんよね」
合鍵を持っていた恋人のメアリーが犯行を疑われるのは当然だった。
死体を目にはしていないもののジョンが死んでいたことを聞いたメアリーはその場でしゃがみこんでしまっていた。
検証チームと共に来た女性のメンタリストが車へメアリーを連れて行った休ませた。自動運転のその車の車内は小さなリビングのようになっていて、被害者などを落ち着かせて事情聴取するための専用車両であった。
刑事はそこへ現れた。
「あなたが通報してくれたメアリーさん?」
「はい」メアリーは憔悴した様子でうなずいた。「ジョンは」
「本当にその話をしても?」
刑事はメアリーに目を向け、次にメンタリストにも目を向けた。
メンタリストは小さくうなずいた。
「お話しください。知りたいです」メアリーも言った。
「また検死はされていませんが、胸を刺されていました。これが死因でしょう」
メアリーは目を見開いた。「殺されたってことですか?!」
「現状ではそのように考えています。ですが凶器は見つかっていません」
「なんでジョンが……」
「殺害の原因などについてはまったく手がかりがありません」
手がかりがない、そういう割には刑事の口調にはさほどの心配事はなさそうだった。
それにそのことにメアリーも同席したメンタリストも疑問を持たなかった。
「扉も閉まっていたし、窓も閉まっていました」
メアリーは話を聞いているうちに更に表情を青ざめさせた。
「メアリーさんはジョンさんとどのような関係で?」
「恋人でした」
メアリーは小さな声で言った。それからバッグから鍵を取り出した。
「これを」
「これはジョンの部屋の鍵ですね?」
「はい。いつでも来れるようにと合鍵をもらっていたんです」
刑事は手袋をはめてから鍵を受け取って袋にしまった。「念のため、証拠品としてお預かりしますがよろしいですね?」
「どうぞ」
「後で引き渡し証をお渡しします。あまりこういったお話はしたくはありませんが……」
「私が殺したのではないかということでしょう?」
「単刀直入にいえばそのような疑いも生じ得ることは事実です」
「でも私じゃありません。殺すはずないじゃないですか!」
刑事はなだめるように両手を挙げた。「落ち着いてください。詳しいお話は警察署の方で改めてお伺いさせていただきます。ご同行くださいますね?」
そういいながら既に自動運転で車は警察署へ向けて動き出していた。
♡ ♡ ♡ ♡ ♡ ♡ ♡ ♡ ♡ ♡
いかがでしたでしょうか?
導入で犯行を明らかにする、刑事コ○ンボ風に始めて見ました。
ですがこの刑事が主人公というのではありません。
主人公は2名います。一人は他殺と見せかけて自殺したジョンです。もう一人は第3話をお楽しみに。
これまで書き急いでしまい、描写が疎かになってしまった気がしています。過去作はその意味で書き直そうと考えています。本作はゆっくりと週に一話ずつぐらいのペースで公開していくつもりです。
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