第6話 藤堂結愛
深夜、俺はいつも通り配信をしていた。
今日のシチュエーションは、初デートからのお家デートだ。
コメントを見る限り、バーチャル彼女達の反応も良く、行き詰まっていた最近よりは、手応えを感じることができた。
――ブルブルッ
Rineが来たようで、開いてみると、柚月さんからだった。
『配信お疲れ様でした。今日もキュンキュンしちゃいました。今日のシチュエーション、私とのお出かけが元だったりしますか? だとしたら、とても嬉しいです』
――そういえば、柚月さんに見られているんだった。
誤魔化しようがないので、正直に答えることにした。
『見てくれてありがとう。ごめん、今日柚月さんと出かけたことが頭に残ってて、ネタにしちゃった』
『いいえ、私なんかで良ければ、どんどんネタに使ってください。えっと、明日なんですけど、もし戸塚くんに予定がなかったら、私の家でエロゲの続きやりませんか? エロシーンはスキップで……』
柚月さんの一人暮らしの家に誘われたことで、色々と妄想してしまい、ドキドキとしてくる。
でも、俺に断る理由なんてない。
『わかった。じゃあ明日お邪魔するね』
こうして、三日連続で柚月さんとデートすることになった。
◇
次の日、俺は朝からお手伝いさんが来るということで、少し早めに起きていた。
顔を洗って、服を着替えて、リビングへと向かう。
「さくら、もう起きてたのか」
「お手伝いさんが来てくれる初日に寝たままなんて失礼でしょ?」
「まあ、そうだな」
本人的には気合を入れていないんだろうが、髪を整えて、さらっと白のワンピースを着ているだけでも様になっている。
――ピンポーン
「来たみたいだな」
「おにぃ、さくらが出るよ」
さくらが玄関先に向かうと、わいわいと盛り上がっているようだ。
間も無くして、お手伝いさんがリビングに現れる。
「……悠、何だか久し振りだね」
「
お手伝いさんとしてやってきたのは、
俺の家の隣に住む、幼馴染だ。
中学までは家族ぐるみの付き合いで、よく俺の家に遊びに来ていたのだが、その時と今の見た目の印象はかなり違う。
中学時代の結愛は、黒髪を三つ編みにして、赤縁の眼鏡をかけていたのだが、高校に入ると同時に、眼鏡を外し、茶髪のポニーテールにした。
いわゆる高校デビューというやつだろう。
元々大きかった胸は、更に大きくなっていて、柚月さんよりも大きいのではないだろうか。
そんな結愛とは高校に入ってからは疎遠になっていた。
「昨日、悠のお母さんからあたしのお母さんに悠達の面倒を見て欲しいって連絡があったんだけど、最近私のお母さん、パート始めちゃったから、代わりに私が来ることになったの。お小遣いも欲しかったしね」
「さくらは結愛ちゃんが来てくれて嬉しいよ! また昔みたいに遊べるじゃん!」
さくらは昔から結愛のことを実の姉のように慕っていたので、嬉しいのだろう。
「悪いな、結愛も忙しいだろうに。さくらは仕事があるから、俺が出来るところは何とかするよ」
「うん、わかった。それじゃ、朝ごはん作っていくね」
結愛は慣れた手つきで持ってきた食材を使って朝食を作っていく。
ダイニングテーブルに三枚のランチョンマットが敷かれ、目玉焼きとソーセージ、サラダ、ご飯、味噌汁が並べられた。
「「「いただきます」」」
――しかし、この状況は落ち着かない。
さくらと一緒に朝食を摂るのは何ヶ月か振りだし、結愛とは一年以上も顔を合わせていなかったのだ。
俺は何とも言えない気持ちを抱えながら食事を終えた。
「ごちそうさま。結愛、美味かったよ」
「そっか、良かった……」
「さくらは今日仕事なのか?」
「うん、もう時間だから出るよ」
そう言うと、さくらは食器を流し台に持っていき「結愛ちゃん、ごちそうさま! いってきまーす」と言って、出かけてしまった。
結愛と俺との間に少し気まずい空気が流れる。
程なくして、結愛は洗い物を始めた。
俺は二階に逃げることもできず、リビングのソファーで洗い物が終わるのを待っていた。
「……悠、私の見た目変じゃない? 三つ編みに眼鏡のオタクみたいだったあたしが、茶髪なんて」
「三つ編みに眼鏡の結愛も可愛かったけど、今の結愛も可愛いと思うよ」
「ほんとに? 元々のあたしを知ってる悠にどう思われてるか、ずっと怖かった……」
台所に立つ結愛の肩は震えていた。
「ごめんな、俺の方から話しかければ良かった。結愛は高校デビューに成功して、俺はぼっちだったから、俺が話しかけると迷惑になるかなと思ってて……」
「わたしがこれからもう悠のことをひとりぼっちになんてさせない!」
「ありがとう。またこれからよろしくな、結愛」
「うん!」
それから結愛と久し振りに笑って話をした。
結愛もアニメやライトノベルが好きで、さくらのファンでもある。
話しは尽きなかったが、また夜に晩御飯を作りに来ると言って帰っていった。
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