第5話 柚月葵の秘密
「……間違ってたらごめんなさい。戸塚くんってもしかして、バーチャル彼氏のるかくんですか?」
今まで誰にもバーチャル彼氏であることを言ったことがないのに、突然言い当てられたことに、俺はひどく動揺した。
「……えっと、何でそう思ったの?」
「一つはパソコンのデスクに置いている、本格的なマイクとウェブカメラです。それに、戸塚くんの声。似てるなあとは思ってましたけど、やっぱりるかくんそっくりの声だと思います」
声質は配信をしている時もそうでない時も、本質的な部分は変えようがない。
適当な嘘をついて、否定することもできるが、柚月さんにそんな嘘はつきたくなかったので、素直に認めることにした。
「うん、そうだよ。俺が『バーチャル彼氏 るか』をやってる」
「やっぱりそうなんですね! 私、配信が始まった当初から見いていて、大ファンなんですよ!」
「ええ!? そんな前から見てくれてるの? 人気が出てきたのはここ半年くらいだし、どこで知ったの?」
「………………」
柚月さんは少し言いずらそうにしている。
「私、小説を『ライトノベル作家になろう』に投稿していて、そのコメントで知ったんです。るかっていうハンドルネームの人が『あなたの小説の登場人物達から勇気を貰いました。VTuberを始めてみようと思います』って……」
そんなコメントをしたのは、あの小説しか思い当たらない。
「柚月さんって、もしかして『未来の貴方に、さよなら』を書いてるAoiさん!?」
「はい……」
俺の人生を変えたと言っても過言でもない小説家が、柚月さんだったなんて信じられない。
「ちょうど一年程前、小説の執筆に少し行き詰まってて、でもそんな時にあのコメントを貰ってすごく嬉しかったんです。誰かの役に立ってるんだなって……」
「そうなんだ。俺のコメントでそういう風に思っててくれたなんて嬉しいよ。それに『バーチャル彼氏 るか』のことも見つけて、見てくれてありがとう」
「今日は驚くことばかりで、頭がパンクしそうです。そろそろエロゲやりましょ?」
「うん」
俺と柚月さんは、パソコンデスクの前に椅子を二つ並べてプレイする。
俺は一回体験版をやっているので、クリックするのは柚木さんだ。
美少女と一緒にエロゲをプレイするだけでも緊張するのに、それがあのAoiさんだなんて……
暫くエロゲをプレイしていると、体験版の終盤部分に差し掛かる。
間もなくエロシーンだったはずだ。
「……柚木さん、言いにくいんだけど、この後エロシーンだよ?」
「戸塚くんもエロゲーマーなんだから、エロシーンぐらい見慣れてますよね? 私も平気です」
エロゲの主人公とヒロインが、裸でまぐわっているシーンが流れる。
すると、どんどんと階段を登ってくる音が聞こえた。
さくらが帰ってきたんだろう。
ガチャッ!……
「おにぃ、いきなりさくらの握手会に現れないでよね! ……えっ、何してるの!?」
最悪な状況をさくらに見られてしまった。
◇
場所は移って一階のリビング。
「大体事情は理解した。でも、高校生の男女があんな……エッチなの一緒に見るなんて不健全だと思う……」
「そうだな、さくら」
「さくらちゃん、ごめんなさい。私から戸塚くんを誘ってしまったので」
完全プライベートモードのさくらに、柚月さんは驚いていないだろうか。
「……ちなみに二人は付き合ってたりするの?」
「そんな、俺なんかが恐れ多いよ。昨日初めて話したばかりなんだ」
「昨日初めて話して、秋葉原デートして、お家デートね……」
「じゃ、じゃあ……さくらちゃんもお仕事で疲れていると思いますし、お邪魔になりそうなので、私はこれで失礼しますね?」
柚月さんはそう言って、俺の家を後にすることになった。
玄関まで送っていくと、「月曜日一緒に登校しましょう。またRineします」と声をかけてくれた。
俺は一気に幸福感に包まれる。
リビングに戻ると、さくらと二人きりになる。
こうしてさくらと話すのは、本当に何ヶ月か振りだ。
いい機会だから、もう少し話しかけてみようと思った。
「さくら、今日の握手会の時の衣装可愛かったよ」
「ええ!? いきなり何なの!? ……ありがと」
「今度のアルバムのツアー、俺も見に行こうかな?」
「……好きにすれば?」
すると、俺とさくらのスマホがブルブルっと震える。
Rineが来ているようで、差出人は母さんからだった。
『突然なんだけど、私とお父さん、仕事で急遽今夜の便でアメリカの支局に行かないといけなくなったの。いつ帰れるかわからないから、明日の朝からお手伝いさんをお願いしたわ。くれぐれも兄妹仲良くやってね』
「「ええ!?」」
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