第21話 魂の叫び

 あれから一週間経った。


 朝。起きると暗い顔をした姉さんと互いに無視しあい、身支度をして学校に登校。そしてひとりぼっちで学校生活を送る。まあ最近は花音としゃべるようになったけど……。

 兎も角、俺はそんな代わり映えのしない日々を送っていた。


「悠馬君、最近変わったよね」


「……そうか?」


 授業終わりの休み時間。花音と雑談していると、花音はそんな事を言い出した。


「前は話しかけても無視されたし、なんなら一回突き飛ばされたし……」


 ジト目でそう言う花音に、俺は汗をダラダラ掻きながら言う。


「えッ!? うっそ! 俺そんなことした!?」


 ――は!? え? 全然記憶にないぞ!?


「覚えてないの? 隣の席の人だから、入学初日に話しかけようとしたんだけど……悠馬君よっぽど不機嫌だったのか、舌打ちしながら私のこと突き飛ばしたんですよ?」


 ――なんだそのクソ野郎は……って俺かい!


「わ、え? えぇ……マジでか。ほんっとゴメン!」


「全くもう。しょうがないな……」


 俺が土下座すると、花音は苦笑しながらも許してくれた。





 昼休み。俺はなんとなく食堂へ向かっていた。


「うーん……なんか、誰かと一緒に食べてた気がするんだけどな」


 カツ丼を持って悩みながらうろうろしていると、同じように彷徨うソフィアを見つけたので声を掛ける。


「おーいソフィア、一緒に食べないか?」


「あー、ごめんね? あなたとはちょっと……」


 ソフィアはそう言うと、足早に去っていく。


 ――一体何やってるんだろうな、俺。たいして仲良くない奴にばっかり声かけてるぞ……? いや、そもそも俺に仲のいい奴なんていなかったな。


「痛ッ……」


 ――ここ最近、頭痛が多いな……。


 またもや襲い掛かる頭痛を耐えながら、俺は一人寂しくカツ丼を食べる。


「次の時間はEクラスとSクラス合同魔法訓練か……」


 ――Sクラス……龍斗と上田の二人と顔合わせねぇといけないのか。アイツら苦手なんだよな……あれ、なんでアイツらのこと苦手なんだっけ。


「……なんだ!?」


 そんな事を考え、俺が時間割を確認した瞬間。強烈な違和感と、誰かの声が頭の中に響く。


『また、三人で一緒に来ようね。いつか』


「こりゃ本格的に早退した方が良さそうだな……」


 しかし俺のそんな思いとは裏腹に、気がつくと俺は校庭へと向かっていた。





 校庭で合同演習中にひどい頭痛に襲われ、俺は頭を抑える。


「悠馬君、大丈夫?」


「ッ……大丈夫……」


『……そうだよ。ここで死んだら、学院のみんなとちゃんと向き合えないままだ。それに、僕が死んだらお母さんを一人にしてしまう! 僕はお母さんを自分の実力で支えれるようになるために強くなるんだ!!』


 ――クソ……。


『だから我は邪神ではないと! ……全く、貴様が死んだら我も死ぬのだ。絶対に死ぬことは許さんぞ』


 ――なんなんだ!


『ったく。しょうがないな、お前。俺はもうお前を他人だなんて思ってねえよ。もう既にお前も冬香と同じく俺の弟子だと思ってる』


 ――なんだってんだよ!!


『悠馬! 悠馬! しっかりして!』


「頭が……割れそうだ……やめろ! やめてくれ! 誰なんだお前らは! さっきから俺の頭の中で変な事を言いやがって!」


 俺は頭を抑えてうずくまりながら叫ぶ。


「ゆ、悠馬君。保健室に行った方が良いんじゃない?」


「そうする……悪い。先生に伝えておいてくれるか?」


「うん」


 そして俺が保健室に向かおうとしたその時、突如として暗雲が立ち込めた。


「あれ? 暗くなったな」


「うーん、雨でも降るんじゃないか?」


 そんな生徒達の会話は、何か落下してきた衝撃と轟音によって遮られる。


 ――なんだこの既視感は……。


「ハハハ! 恐れるがいい哀れな虫けらども! 偉大なる我らが神は復活なされる! さあその頭を垂れよ! さすれば我が下僕として貴様らを生かすこともやぶさかではない!」


 降ってきたのは、青白い顔をした男だった。


 ――アイツは確かにあの時殺したハズ! いや、あんな奴見るのも初めてのはず……クソ! どうなってんだ! 頭の中がぐちゃぐちゃでもうわかんねぇよ!


 どうやら、皆が逃げるまでの時間を稼ぐらしい。姉さんと冬香、ソフィアの三人が下級眷属へと向っていく。


「に、逃げよう悠馬君!」


「あ、あぁ」


 ――あんなの、入学したてでレベル1の俺にかなう相手じゃない。


 そして苦戦する姉さん達を尻目に、花音に肩を貸してもらいながら逃げようとしたその時。過去最大級の頭痛が俺を襲った。


『これから、ほぼ家族同然になるんだ。無論四六時中居られるわけではないがな。だから敬語、やめてくれないか?』


『二人揃えば一人前、だね。行こう悠馬! 僕たち二人なら必ず勝てる!』


『私はとっても素敵だと思いますよ? 自分の為だけじゃなくて、大切な人の為って素敵じゃないですか!』


『んじゃ俺はお前に今持ってる全財産賭ける。だから、負けんじゃねえぞ! ダチ公』


『心配かけさせんな馬鹿ぁ……!』


『心配した! どうしてお前はそう自分を大切にしてくれないんだ! 家族だろ!? お願いだ……こんなに私を心配させないでくれ! もしお前が死んだら私は……私は!』


『うん。本当にありがとう、悠馬』


『すまない……それに悠馬は弱くなんてない。何度負けても立ち上がって、私を助けに来てくれた悠馬は私にとってヒーローだよ』


『だから、私はアンタの……悠馬の隣に立って一緒に戦えるように強くなりたい! あれ? だから……だから……その、えっと。今日から私と悠馬はライバル同士よ!』


 ――知らない! こんな記憶俺には!?


 するとどこかから俺を呼ぶ声が聞こえ、見たことのない光景が脳裏に浮かんだ。


『悠馬』

 

 振り向きながら、笑顔で俺を呼ぶ姉さんの姿。


『悠馬!』


 腰に手を当てて、俺の方を見る冬香の姿。


『悠馬?』


 手を後ろに組みながら、心配そうに俺の顔を覗き込むソフィアの姿。


『『『悠馬』』』

 

 そして、沢山の人が俺の事を呼ぶ声が聞こえてくる。


「悠馬君!?」


 気がつくと、俺は下級眷属と戦う三人の元へと駆け出してきた。





 俺は姉さんの首を、その長い爪で斬り飛ばそうとした下級眷属へとがむしゃらに襲い掛かった。


「ハァァァ!」


 しかし訓練用の木刀で下級眷属に斬りかかるものの、弾き飛ばされてしまう。


「邪魔だ! お前じゃどうにもならない!」


「姉さんは下がっていてくれ! ここは俺が!」


 俺がそう叫んだ瞬間、目の前の下級眷属の方から声がした。


『どうして俺が戦う必要があるんだ?』


 ――俺の……声?


「……俺がこの人達を助けたいからだ」


 俺はそう言いながら目を向ける。すると、目の前のソイツは俺の姿になっていた。


『何故?』


「それは……」


『コイツらとはなんの関わり合いもないだろう』


「あぁ、そうだな。確かに、友達でもなんでもない」


『なら……』

 

「そんな事は関係ない、俺が助けたいから助けるんだ」


『そんなことのために、お前は死ぬつもりか? 今立ち止まって逃げたって、誰も責めないんじゃないか?』


「あぁ。だけど俺は逃げない」


『理解不能だ、何を馬鹿な事を……」


 俺はニセモノ野郎の声を遮ると叫ぶ。


「うるせぇ! 馬鹿で結構だ! 魂が叫んでるんだよ! コイツらを死なせたくないってな! ……それに!」


 俺は一度深呼吸をして、目の前のコイツに宣言する。


「てめえをぶっ飛ばしてコイツらも守った上で生き残る! それでハッピーエンドだ! 誰一人死なせねぇし、俺も死なねぇ! 俺は強欲なんだ! てめえみたいな理不尽は俺が打ち砕く!」


 ――その強欲気に入った! 俺は強欲の龍、アウァリティア! お前に俺の力を貸してやる!


 どこからともなくそんな声が聞こえると、俺の手に光で出来た剣が現れた。


「うぇ? え?」


 ――そいつを振りながら叫べ!


 俺はその剣を振りながら、アウァリティア共に叫ぶ。


「「アウァリティア・バースト!!」」


 巨大な金色の光に飲み込まれたニセモノの俺がボロボロと崩れ、中から黄色い衣を纏ったナニカが現る。

 そして空間にひびが入り砕け散ると、俺は地面に出来た穴に落ちて行った。




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 中途半端に投稿したのが気になって、結局一日二話投稿してしまった……。

 やっぱりここまで書き切りたかったのだよ……。長さ的に2分割するしかないから明日にしようと思ってたけど。

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