第7話 決着

「それでは、先に降参を宣言した方が負けということでよろしいですね?」


 鹿見先生とやらはニヤニヤと笑いながら言った。


「はい」


「了解です」


「それでは初めッ!」


 勝負が始まり俺が木刀を構えながら様子を見ていると、兵藤は嫌な顔で俺を嘲笑った。


「来ないのか? フフフ、Eクラス野郎でも流石に僕との実力差くらいは分かるようだね? ならさっさと……いや、やっぱり降参なんかしなくていいよ? 君はこれから僕のサンドバッグになるんだから」


「アホか、聞いてもないのにベラベラと浸りやがって。気持ち悪いぞ、そういうの」


「お前ェ!」


 ――良し、釣れた!


 兵藤は顔を真っ赤にすると、俺に向かって突進して木刀を大きく振りかぶった。


「バーカ!」


 俺は兵藤の木刀をいなすと、木刀の柄で兵藤の腹を突いた。


「グッ!」


「それじゃあ次は俺から行かせてもらうぞ?」


 木刀を地面に着きよろけながら呻く兵藤に俺はそう言うと、木刀を繰り出した。


「ハァ!」


「ガッ!」


 兵藤は横なぎに繰り出された俺の木刀を咄嗟に防いだが、壁に叩きつけられた。


「何をやっているのですか兵藤君! Eクラスの不良品相手に!」


 鹿見先生は唾をまき散らしながら怒鳴るが、兵藤は答えない。


「お前……なんでお前みたいなのがEクラスにいるんだ!?」


「さてね。で? 俺をサンドバッグにするんだろ? さっさと来いよ」


 兵藤が立ち上がりなが問いかけてくるが答える義理はない。俺は木刀を肩に担ぎながら兵藤を挑発した。


「言わせておけばァ!」


 ――レイスラッシュか。


 俺は木刀の纏った光の色と稲妻でスキルが何か判断すると、こちらもレイスラッシュを発動させて正面から迎え撃つ。


「ッ!?」


 俺と兵藤の木刀が打ち合った瞬間、兵藤は吹き飛ばされた。


「な、ななな?」


 その光景を見た鹿見先生がわなわなと体を震わせているのを尻目に、俺は兵藤へと声を掛ける。


「おいおい、これで終わりか? Cクラスの首席さん」


 俺はそう言いながら心の中で苦笑した。


 ――俺も真司の事笑えないな。我ながら意外と花音が突き飛ばされた事に、随分腹が立ってたみたいだ。


「図に乗るなよEクラス野郎!」


 兵藤はそう叫ぶと、今度はスキルも交えながら攻撃を繰り出してきた。


「図に乗るな、ねぇ……」


 しかし、その程度では俺の余裕は崩れない。


 ――なんたってレベル差がレベル差だからな、悪いがそのくだらねぇプライドをへし折らせて貰う!


 俺は暫く木刀も使わずに回避していたが、いよいよ反撃に移る事にした。


「舐めるなよォ!」


「そうかい!」


 俺が反撃してこないせいか、溜め動作のあるパワースラッシュを発動させた兵藤の腹に、俺は木刀を叩き込んだ。


「ゲホッ!?」


 兵藤は床を転がると腹を抑えてうずくまった。


 ――あれ? これ俺が悪者に見えねえか? いやいや、大丈夫だろ……。


「あのさ、降参するならさっさと降参してくんねえかな? なんかいたぶってるみたいで……」


「ハハ、Eクラス野郎がこの僕を? ……このクズ虫風情がァ! 僕を見下すなァ!」


 俺がそう言った瞬間。兵藤は立ち上がり、そのまま突進してきた。


「……ハァ」


 俺はそれを見ると、溜息をつきながらイグニススラッシュを発動させた。


「な!? ガッ」


「もういいだろ?」


 兵藤の木刀が砕け散り、呆然とした兵藤に蹴りを入れ壁に叩きつけると俺は降参するように言った。


「ば、馬鹿な!? Eクラスの不良品がなぜ!」


「す、凄い。ステータスで兵藤君に負けてるはずなのに……」


「いや、それは違うよ。花音。悠馬は勿論素でも強いけど、特にステータス面では僕より多分強い。断言出来る、少なくとも一年生で悠馬よりも強い奴は居ないよ」


 俺は壁に叩きつけられたまま動かない兵藤を見て、真司と鹿見先生に言った。


「もういいですか? 兵藤も動かないし、俺の勝ちッ!?」


 その瞬間、俺は殺気を感じて咄嗟に体をひねると、俺の頬に何か熱いものが掠めた。


「いい気になるなよEクラス野郎! これからお前を消し炭にしてやるからなァ!!」


 兵藤はそう喚き散らすと、魔法を放ってきた。


「そ、その調子ですよ兵藤君! Eクラスに身の程を教えてやりなさい!」


「うおッ!? 危ねぇな!」


「悠馬君!? お兄ちゃん! 今すぐ止めないと悠馬君が!」


「大丈夫だよ、花音。悠馬を信じて」


 俺は木刀を構えると、少しだけ本気を出すことにした。


「ハハハッ! 消えろォ!」


「フッ!」


 兵藤が馬鹿みたいに魔法を連射してくるので、俺は壁を走る事で魔法を回避する。


「な、なんだそれは!?」


「ん? これか? ステータスが上がったら出来るようになってた。真司も出来るよな?」


「いや、出来るけどさ……」


「ふざけやがって!」


 そうしながら魔法を回避していると、しびれを切らした兵藤が力を溜始めた。


「ちょこまかとォ! フヒヒッ! だけど残念だったな! 今度こそ僕の魔法で消し飛ばしてやるッ!」


「あの人、悠馬君を本当に殺す気なの!? お兄ちゃん!」


「大丈夫」


 ――ったく、真司の奴。俺の事を信じて疑ってねぇ……そんじゃあ、親友の期待には応えねぇとなァ!


 次の瞬間。俺はあるスキルを発動させながら壁を蹴り、兵藤へ飛び掛かった。


「馬鹿が! 自殺しに来たか!!」


 そして俺に向かって魔法が放たれた。


「エクスプロード・ウェーブ!」


 ――チッ! ソフィアには劣るが、あれも当たるとちょっとヤベェな。だが!


 スキルを纏った木刀を振り魔法を断ち切ると、俺は兵藤の前に降り立った。


「な、何をした!」


「さぁなッ!」


 発動させたのはディメンジョンスラッシュ。レベル120で覚えるスキルで、空間毎相手を切り裂くスキル。防御力無視で馬鹿みたいにクールタイムが長い。


 そのまま俺は木刀で兵藤の意識を刈り取ると、真司の方を向いてサムズアップした。


 真司はそれを見て笑うと、高らかに宣言した。


「勝者! Eクラス、鈴木悠馬!」




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 えー今更ですがロトとは痛覚は共有しているものの、味覚は共有していません。ついでに言うと悠馬が受けた痛みはロトも受けますが、ロトが受けた痛みを悠馬が受けることはありません。前に悠馬が辛い物を口に入れてロトにも伝わったのは、味覚ではなくもはや痛覚の領域だったからです。


 ちなみに悠馬はダンジョンに潜るとき以外、ナム・タル戦でドロップしたレベルを制限する腕輪を着けています。じゃないと模擬戦も授業をもまともに出来ず、技術面が身に着かないのでパワーでごり押ししか出来なくなるとの危惧の元、悠馬は日常的にコレを着けています。スキルについてはレベル制限で威力は下がるものの、全て使えます。

 

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