第26話 アスタロト
「アァァァ!!?」
俺がバフォメットの胸の核を破壊すると、ボロボロと表面が崩れていき中から浅野潤が崩れ落ちてきた。
俺は浅野潤が気絶しているのを確認すると、姉さんの元へと向かった。
「悠馬……なのか?」
「そうだよ、姉さん」
俺は姉さんの手足に付いた鎖を切り裂き、崩れ落ちた姉さんを支えると笑いかけた。
「まるで気配が別人みたいだ。それに悠馬……左目が赤くなってるし、右目も金色になってるぞ?」
「えっ? うっそ?」
――なにそれ、オッドアイじゃん! 天然じゃなかったらコスプレみたいで恥ずかしいぞ!!
「今から姉さんに埋め込まれたアスタロトの欠片を、姉さんから取り除こうと思うんだ。姉さん、少しだけ怖いかもしれないけど我慢できる?」
「本当に……そんなことができるのか?」
「自分でもよくわかんないんだけど、出来る気がする」
俺がそう言うと、姉さんは覚悟を決めたように頷いた。
「頼む悠馬……お父様には申し訳ないが、魔神アスタロトがお母様を蘇らせてくれるとは到底思えなかったんだ」
「うん、正解だよ姉さん。アレにはそんな権能はないし、ましてやまだ『魔神』ですらない。勝手に名乗ってるだけだし。精々が上手いこと利用されるだけされて捨てられるだけ。お調子者でアイツは小物臭くて、それでいてお人よしだった癖に『魔神』の称号に目がくらんで力に溺れて……3000年前もそうだった」
「悠……馬?」
――アレ? 俺、今何話してたんだっけ?
「どうしたの? 姉さん」
「い、いや今……何でもない」
「じゃあ、やるよ」
俺は目を閉じ、全身のよくわからない力を目に集中させると目を開いた。
「そこだッ!」
アスタロトの欠片は姉さんの体を高速で絶えず移動していたが、俺にはその様子がしっかりと見えた。
「透掌打!」
この体術スキルは文字通り、手が透過し相手の体の内側に直接攻撃を加えられるえげつないスキルである。
しかし何故か物理防御力ではなく魔法防御力ではじかれる上、格下相手でもない限り成功することがない。
スキル自体は強いのにそのせいで産廃と呼ばれるスキルだ。
俺はコレを使って、姉さんの体の中にあるアスタロトの欠片を掴み、放り投げた。
その後、念の為に姉さんに土蔵にあったエリクサーの内一つをポーチから取り出し飲ませると、俺は安堵のため息をついた。
「もう大丈夫。これで……わぷッ!?」
「ありがとう悠馬。 怖かった……このまま私は死ぬのかとか、何度も悠馬が私のせいで傷ついて、その度に死んでしまいそうで舌をかみ切ろうかと思ったけど、出来なくて!?」
姉さんは俺に抱き着くと、子供のように泣きじゃくった。
「うん、ごめん。助けるのが遅くなったし、俺が弱いせいで何度も姉さんに心配かけた。けど姉さん、自殺だなんて考えないでよ。姉さんを助けたいから、どんだけ死にかけてもここまで来たんだからさ」
「すまない……それに悠馬は弱くなんてない。何度負けても立ち上がって、私を助けに来てくれた悠馬は私にとってヒーローだよ」
姉さんがはにかみながら、そんな事を面と向かって言ってきたので、恥ずかしくなり、頬を掻き照れ隠しをしながら撤収しようと動き出した。
「ッ!? さてと、起きてますか! 茜さん!」
俺がそう呼びかけると、茜さんは苦笑いして腹部を手で抑えながら立ち上がった。
「俺の生存確認を照れ隠し代わりにするな、全く」
「歩けますか?」
「あぁ。にしてもお前、まるで別人みたいだな。瞳の色も違うし、強さだって……」
「ハハ……自分じゃ実感湧かないんですけどね。それよりも浅野潤はどうしますか?」
「ん? どうやら魔神アスタロトの配下に憑りつかれて、洗脳されていたらしいからな……洗脳が解けるまで時間が掛かるだろうし、それまでメラムで預かってそこから考えるかな……」
「わかりました」
俺は頷き、浅野潤を連れて行こうとして気が付いた。
「コイツ、もう起きて……オイ、なにを詠唱してやがる! まさか!?」
「フ、アハハッ! これで、これで遂にアスタロト様は復活して、椿が蘇る! まだ一緒にやりたいことも、君に言いたかったことも沢山あるんだ! だから!?」
俺が気が付いた時にはもう遅かった。浅野潤が詠唱を終えると祭壇が光り、落ちていたアスタロトの欠片が黒く輝いた後、黒い靄に包まれた。
その時、黒い靄の中から声がした。
「ほう? この我に願いとな? 良かろう。我を復活させた褒美だ、聞くだけ聞いてやろう」
「椿を! 死んだ僕の妻を蘇らせてください! お願いします! 魔神アスタロト様!」
浅野潤が黒い靄の元まで駆け寄り、ひれ伏しながら願いを言うと、靄の中のなにかは笑った。
「クッ! クフフフ、アッハハッ! どんな望みかと思ったら死人を蘇らせるだと? 滑稽すぎて腹が痛いわ! できるわけがなかろう、そんな事」
「な、なんだと!?」
「この時代の人間はそんな事も知らぬのか? イザナギと言う主神クラスですら、自分の妻を蘇らせようとして失敗しているのだぞ? よりにもよって死人を蘇らせるだと? ……ククク、さてはお前。我を笑い殺すつもりか?」
「だって……だって、アスタロト様ならば禁術が使えるから死人を蘇らせることができるって……」
「禁術? あぁいくつかは使えるな。しかし、死人を蘇らせる禁術はうまみもない上に、使ったとてイザナギと同じく失敗するだけであるからな。我は修めておらん。というより、そんな物とうの昔に失われているぞ」
「う。噓だ! ディートハルトは確かに蘇らせる事が出来るって!」
「ディートハルト? あ奴は口達者だからな、大方貴様は騙されたのであろうよ」
「あ、あぁ……」
靄の中の何かがそう言うと、浅野潤はへたり込んだ。
「だが安心するがいい! 褒美をやろう! この場に居るすべての者に我の贄となる栄誉を! その目に刻むがいい! この我の偉大なる姿を!」
「茜さん! 逃げてください! 姉さんを頼みます!」
「わかった! 俺がこの子を逃がす! すまない!」
「待ってくれ悠馬! 悠馬!」
俺は戦える状態じゃない茜さんに姉さんを頼み、身構えた。
「ハハハハ! ハハハハッ! さあ! 世界を恐怖に陥れようぞ!」
その瞬間、靄の中から何者かが現れた。
「は?」
「え?」
「「「はぁー!?」」」
中から現れたのは、二頭身の悪魔をデフォルメしたマスコットキャラのようなナニカだった。
「え? ちょ、我どうなってんの?」
――アレ、DLC4&5弾発表会の新システム紹介でシルエットだけ公表された新キャラじゃね……?
誰もが困惑し場の空気が凍る中。気が付いた時、俺はアスタロト? の頭を右腕で鷲掴みにしていた。
「離せ人間!」
「ゆ、悠馬!?」
「し、知らない! 体が勝手に動いて!」
俺が困惑していると、右手が勝手に何かをアスタロトに流し始めた。
「イデデデ! ヤメロ! この気!? まさか貴様、あのひょうきん男!」
「大正解ー! ついでに脳筋も居るよ」
ーーちょっと!? 俺の口が勝手に動くんですけど!? てか体が動かない!
「な、なんのつもりだ! まさか我を滅するつもりか……?」
「あ、脳筋って言ったら引っこんじゃった。まあ良いや。滅するだって? 今の君をかい? まあそれも一つの手なんだけどね。本来、君の根は善なるものだ。力を求めるあまり禁術に手を染め追放されてからは腐っていたけどね」
「ならば我をどうするつもりだ!」
アスタロトは頭を鷲掴みにされたまま、手足をジタバタさせる。
「ん? 罰として君の見下した人間と共に過ごしてもらおうかと」
「ハア!?」
何者かが俺の口でそう言うと、より一層右手に力を流した。
「オ、オイ!? ヤメ……!?」
一瞬アスタロトが途轍もない光を放ち、次の瞬間俺の右手には、アスタロトの代わりにおかしなペンダントが握られていた。
「それじゃあ、コイツの事よろしく~」
そして、俺の体は自由になった。
「何だったんだ? 一体」
「悠馬! 目の色が元に戻ってるぞ!?」
「え? ホント?」
姉さん曰く、俺の目は両方とも元の黒に戻ったらしい。
「それは兎も角……やあッ!」
薄気味悪いので俺はペンダントを投げ捨てた。
「これでよし! さあ帰りましょう姉さん! 茜さん! ヘブッ!?」
その時、投げ捨てたはずのペンダントがUターンして俺の頭を直撃した。
「なんなんだ一体!」
「それは我のセリフだぁぁ!」
ペンダントから半透明なアスタロトがニュッと出てきた。
そして勝手に俺の首にペンダントが掛かると、その黒い石の部分で俺の頬をビンタした。
「いってえな! この野郎!」
俺はそう言いながらペンダントをまた投げ捨て、魔法を放ったがペンダントに傷一つつかなかった。
暫く試したが、何をやってもペンダントは壊れず、投げ捨てても俺の元に帰ってきてしまうので、仕方なくポケットの中にしまい込んだ。
そして俺達は姉さんと茫然自失とした浅野潤を連れ、アスタロトの祭壇を後にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます