第25話 神威
現れた悪魔は体の具合を確かめるように掌を閉じたり開いたり、首を鳴らしていた。
「フハハハハッ! 表に出たのは何百年ぶりか! 感謝するぞ、そこな矮小な人間よ!」
悪魔は腕組みをしながら声高に笑う。
「……浅野潤は?」
「ハハハ! 人間如きの問など答える必要はないが、良かろう! あの男なら俺の内で眠っておるわ! 全く、人間如きが苦労させおって。心の隙に付け込むのに、随分と時間がかかったわ!」
……なるほど、ゲームでは僕の魂を捧げる! なんて言ってたけど、洗脳されて悪魔に乗っ取られてただけか。道理で悪魔形態と人格が違いすぎると思ってたんだ。
「つまり生きていると?」
「今はな。だがじきに消え去るだろう。魔神アスタロト様直属の配下であるこのバフォメット様の糧になるのだ、奴も光栄であろう!」
――ラスティアでは奴の胸にある、あの赤い核のような物を龍斗が戦闘終了後のムービーで潰すと、浅野潤は人間に戻った。ならば!
「おい悠馬、俺も参戦するぞ。あれはヤバい」
そう言いながら、茜が俺の隣に着地して来た。
「そうですね。一人で行けると思ってたんですが、いざ見てみたら結構ヤバそうだ」
俺達は頷きあうと、バフォメットを挟み込むように位置取り、攻撃し始めた。
「フッ!」
「ハアッ!」
俺と茜は互いに拳と剣を繰り出すが、バフォメットは一歩も動かずに俺たちの攻撃を防ぎ続ける。
「このッ! 悠馬、一度離れろ!」
俺が後退するのを見届けて、茜は魔法を発動させた。
「ボルケーノ・ブレイク!」
そして茜の超威力の魔法が着弾する。
「な!?」
しかし茜の魔法をマトモに受けたにも関わらず、バフォメットは無傷だった。
「ハハハ! 我に魔法は効かん!」
そう言うとバフォメットは一瞬で茜に詰め寄り、押し付けるようにして何かの魔法を手のひらで押し付けるようにして爆発させた。
「ガハッ!?」
茜は咄嗟に防御したが、それでも威力を殺しきれずに吹き飛ばされて、壁に叩きつけられた。
「茜さん!?」
「小僧! 人の心配とは随分と余裕だな!?」
「しまッ!?」
咄嗟に剣を急接近するバフォメットに振るが、間に合わない。俺は腹部に拳を貰い吹き飛んだ。
「弱い! 弱いぞ! まだまだこんなものではなかろう!? 俺を楽しませてみろ! 人間!」
「ゴフッ」
俺は二度目のムラサメのペナルティを受けながら、心の中で悪態をついた。
――この化け物め、ラスティア時代には魔法無効だなんて無かったぞ!?
「まだ行けるか? 悠馬」
茜は俺の隣にやってきて、そう聞いてきた。
「行けます」
「ならお前に頼みたいことがあるんだ」
「なんですか?」
「一瞬で良い、アイツの意識を俺から逸らしてくれないか? その隙に、俺が持ってる中で最強の技を叩き込む!」
「わかりました」
俺は頷き、クールタイムを無視して疾風迅雷を発動させた。
一瞬、血反吐を吐きそうになるが抑え込む。
「大丈夫か? 悠馬」
「大丈夫です。じゃあ頼みましたよ」
そう言い残し、俺はバフォメットへ突撃した。
「ハハハ! 小僧! 中々のスピードではないか!」
「そりゃどうもッ!」
俺はがむしゃらに剣を叩き込み続けた。
「このッ!」
「なんだ? その程度の攻撃では俺に掠り傷一つ与えられんぞ? どれ、俺から行ってやろう」
そう言ってバフォメットが俺に魔法を放とうとした瞬間。
「待たせたな悠馬! 消し飛べ! ドラゴンズインパクトォ!」
そしてスキルをまとった茜の拳は、バフォメットの上半身を吹き飛ばした。
「やった! 勝ちましたよ! 勝ったんですよ茜さん!」
「あぁ、早くあの子を助けよう」
俺達が残ったバフォメットの下半身から目を離して後ろを向き、鎖で祭壇に繋がれた姉さんを助けようとしたその時。
「あぶ……ない」
姉さんが俺たちの後ろを見て警告した。
「クソ! 悠馬!」
俺は茜に突き飛ばされて事なきを得たが、茜はバフォメットの魔法を受けて吹き飛び、壁にめり込んだきり動かなくなった。
「茜さん!? テメエなんでまだ生きてやがる! 確かに茜さんが吹き飛ばしたはずだ!!」
「あぁ、確かに人間にしては中々の一撃だったな。だが俺は何度でも再生する、人間では俺には勝てんよ。残念だったな。フフ、ハハハハハ!」
――そんなんありかよ……クソ、クソ!
「クソったれぇぇ!!」
「フハハ! いいぞ! その顔だ! 人間の絶望した顔というのはたまらん!」
――クソ、クソ! チクショウ!
俺はまた疾風迅雷を発動させ、血反吐を吐きながらバフォメットに剣を振るった。
「弱い弱い弱い! 少しは気骨を見せろ! 人間!」
だが、バフォメットは俺の斬撃を全て涼しい顔でいなす。
「ハァァ!」
そして、俺は紫電一閃を発動させて超速でバフォメットに切りかかった。
「つまらん」
しかし俺の刃がバフォメットに届いたかと思った瞬間、俺はムラサメを折られ、宙を舞っていた。
「ガッ!?」
俺は地面を転がり、壁に激突する。
「少しは楽しめると思ったのだが……貴様如き、相手にするまでもないわ。弱者は弱者らしく黙って、大切な者がアスタロト様の贄となる様子をそこで見ているがいい」
バフォメットはそう言いながら姉さんに手を伸ばし、何かをブツブツと唱え始め、姉さんは悶えるように苦しみ始めた。
――やめろ
しかし、体は動かない。
――やめてくれ
「ヤメロォォォ!!」
その時。俺の体の中で、何かが脈打つのを感じた。
「む? まだ立つか。そこで黙って見ていればいいものを……なにッ!?」
何故か、体中に力が満ち溢れている。
俺はゆらりと立ち上がり、無造作にバフォメットへ近づくと、手刀でバフォメットの片腕を切り飛ばした。
「なッ!? 貴様! その気はッ!?」
腕を再生させようとするが、上手くいかずに驚愕するバフォメットの顔を蹴り飛ばす。
「グォォォ! 貴様! 弱者の分際でよくもォ!!」
バフォメットは先ほど茜を吹き飛ばした魔法を発動させ俺に放つが、俺は棒立ちのまま拳で弾き返す。
「アァァァァ!」
突っ込んできたバフォメットを再び蹴り飛ばし、九の字で吹き飛んでいくバフォメットを肘で地面に叩きつける。
「再生が上手くいかぬ!? やはりこれは神の……何故貴様が!! しかし、アレならば如何に貴様といえど! フハハハハ! 跡形も残さず吹き飛ばしてやるぞ!?」
膝をつきながらバフォメットが手を構えたその直後、奴の後ろに特大の魔法陣が現れた。
「これで貴様も終わりだァァ!!!」
魔法陣から巨大な悪魔の顔が現れ、その口から黒い稲妻が俺に放たれたその瞬間。
俺はムラマサを拾い上げるとそのまま横に振り、魔法陣ごと全て切り裂いた。
「なん……だと……?」
そして俺が呆然とするバフォメットを、ムラマサで切り捨てようとしたその瞬間、声が聞こえた。
「殺さ……ないで……くれ……そんな姿でも……お父様なんだ……」
俺はムラマサを捨て拳を握り、深紅と金色のオーラを拳に纏わせ、バフォメットの胸にある赤い核を殴り飛ばした。
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