第22話 悲願
俺は今、最深部へと続くエレベーターの前に立ちふさがる強化型ワイバーンと対峙していた。
「フッ」
強化型ワイバーンはその背に着いたキャノン砲を放とうとしたので、俺は咄嗟に横へ跳んだ。
「チッ!」
その時、轟音と共に先ほどまで居た場所が爆発する。
飛んできた破片で頬を切ったが、なんとか回避には成功したがその威力は絶大だ、俺は冷や汗を書きながら剣を構えた。
――最も。あの威力で焦げ跡と少しの跡しかつかない、この研究所の床が一番ヤバいがな。
あのキャノン砲には冷却が必要で連射は出来ない。
――冷却が済む前に終わらせる!!
俺が強化型ワイバーンに向けて走り出したその時、強化型ワイバーンは口を大きく開けた。
――うっそだろお前!?
俺は強化型ワイバーンの足元に向けてスライディングしてブレスを回避したが、強化型ワイバーンの放った弾は俺の頭の上を掠めて壁に当たると爆発し、俺は冷や汗をかいた。
――殺意高すぎるだろ。
俺が足元で強化型ワイバーンを切りつけていると、俺を蹴飛ばそうとしたので慌てて足元から出る。
「オラッッ!」
体勢を立て直し、俺は強化型ワイバーンに剣を振るった!
「マジで?」
しかし、強化型ワイバーンはその羽に付けられた刃で俺の攻撃を防いでいた。
「ガッ!?」
そのまま剣をはじかれ、俺は壁に激突した。
「だが!!」
俺は壁を蹴り、宙返りをしながらイグニススラッシュを発動させ、強化型ワイバーンの付け根を切りつける事で、片翼を切りつける事に成功した。
「Gruaaa!?」
強化型ワイバーンは痛みからがむしゃらに暴れまわるも、俺は少し下がりながら魔法を放つ準備をした。
強化型ワイバーンがのたうち回るのをやめ、口を開きまたもやブレスを吐こうとしたその時。
――今ッ!
俺は無属性魔法のスパークショックを放った。
すると、強化型ワイバーンの発射前のエネルギーとスパークショックがぶつかり合い爆発して、強化型ワイバーンは怯んだ。
「ハッ!」
その隙をついて致命の一撃を発動させて、ワイバーンの首を切り落とした。
――まだだッ!!
強化型ワイバーンを倒し終えた俺が後ろに跳び退いたその時、先程まで俺が立っていた場所に何かが降ってきた。
キメラtype:I スローター。身長三メートル弱の人型モンスターで、片手にエナジーブレード、もう片方にガトリングガンを装備している。設定曰く、ザコ狩り用に開発されたキメラらしい。
「そこを退けぇ!」
俺はスローターに切りかかるが、エナジーブレードに防がれる。
そして、そのまま体勢を立て直しレイスラッシュを発動させるが、今度はガトリングガンで防がれた。
「この! 硬すぎるんだよ!」
俺が悪態をつきながら剣を振り上げたその時、スローターがガトリングガンを構えた。
「ちょ、待て! ふざけてんじゃねぇ!?」
俺は壁を走り、弾丸に追われながらもなんとか回避する。
その後、何度も剣を振るがやはり両腕の武器で防がれる。
「セイッ!」
だが隙を見て地面を蹴り弾丸のように飛び上がり、スローターのガトリングガンを装備している左腕を切り落とした。
「行ける!」
俺はそのまま腕が無くなり、防御できなくなった左側に回り込みながら攻撃する。
「ヤベッ!」
しかし何かがすごい勢いで俺に迫っているのを見て、後ろに跳んで回避したが間に合わずにその何かに当たり、俺は地面を転がった。
地面に手を着きながら俺がスローターを見ると、背中からもう二本腕が生えている。
「来たか……」
スローターはHPが20%を切ると、バーサーカーモードになり手数が多くなる。文字通り。
スローターはその三本の腕をがむしゃらに繰り出しながら攻撃してきた。
繰り出される腕を飛び越えたり、のけぞったりして俺はなんとか避け続けているが、じりじりと壁に追い詰められる。
――クソ! どうする!? これじゃあ近づくどころか、壁に追い詰められてそのままミンチだ!
「あぁクソ! このままハメ殺しするつもりか!?」
もはや壁まであと一歩しか後退する場所が無くなったその時、スローターはエナジーブレードを俺めがけて突き刺してきたが、俺が回避したことでスローターのエナジーブレードが壁に突き刺さった。
――そこだ!
俺は手元が狂いエナジーブレードが壁から抜けなくなったスローターの右腕を切り落とし、スローターの胸に剣を突き刺した。
「なんでザコ狩りモンス設定なのにこんなに強いんだ……」
崩れ落ちて魔力へと還ったスローターを見つめながら、俺は一度へたり込む。
だが一分ほどして、このまま休みたいと悲鳴を上げる体にむち打ち、俺は最深部へと続くエレベーターに乗り込んだ。
俺が最深部へ着くと、そこには浅野潤が待ち構えていた。
「いやはや、驚いたよ。まさか君があの二体を倒してここまで来るとは」
「……悠……馬?」
俺は、手術台の上に寝かされて衰弱しきった声で俺を呼ぶ姉さんを見て、怒りを滲ませた声で浅野潤を問い詰めた。
「……おい、テメエ。テメエは一体姉さんに何をしやがった」
鋭く睨みつける俺を見て、苦笑しながらへらへらと浅野潤はこうのたまった。
「いやー、ね。円華に少し病気が見つかったんだよ。だからその検査と手術をしていたんだ。だから心配は要らない、今すぐ帰ってくれ」
「じゃあその机の上にあるそのエンブレムはなんだ」
俺が指を差した机の上には、邪神教団の一員である事を表すエンブレムが乗っていた。
「これは……」
「隠さなくても良い。テメエ、自分の娘に邪神の欠片を埋め込みやがったな!?」
俺がそう言うと、浅野潤は不気味な笑顔で答えた。
「正解だ、だが君は何故そんな事を知っている? 僕は話した覚えはないし、ましてや円華も今まで知らなかったハズだが? もしかして君はあの目障りな組織、メラムの一員だったりするのかな?」
「黙りやがれ、このクソ野郎が。テメエに父親なんて名乗る資格はねえ。俺はテメエを倒して姉さんを助け出す。それだけだ」
俺は、浅野潤に剣を向けながら言い放った。
「君が僕を倒す? 正気かい? 折角やっと椿を蘇らせる事ができるんだ! 邪魔をしないでほしいなぁ……! それに助けるだって? 馬鹿な事を。助けてもらう必要なんて、円華にも僕にもないんだよ」
「本当に邪神が、魔神アスタロトが人間の願いを素直に聞き届けてくれるって? それにあれが、冥界から死人の魂を蘇らせる権能なんて持っているとでも?」
すると、浅野潤は大声を上げて笑った。
「フ、ハハハッ! そうさ! あの方は自分が復活した暁には復活させた者の願いを聞き届けてくれる! ディートハルトは確かにそう言った! そして古来より死人を蘇らせるのは禁術。邪神ならば禁術を使える、すなわち椿は生き返れるんだ!」
ディートハルト。邪神教団のリーダーで、人間ではなく魔神アスタロト直属の配下の邪竜が人化した姿。すなわち化け物。
そして浅野潤に噓を付き、徐々に洗脳して利用した張本人。
俺は浅野潤のその錯乱したようにまくしたてる様子を見て、もはや言葉による説得は不可能だと思い知った。
「悠馬……やめてくれ、悠馬ではお父様に勝てない。私の事は良いんだ……元々、お母様は私を生んで体が弱ってしまった事で死んでしまった。これは私の罪滅ぼしでもある。だから……」
息も絶え絶えに辛くて今にも気絶してしまいそうなのに、自分のことなんて一ミリも考えずに俺に逃げろと言う、そんな姉さんに俺は安心させようと笑いかけた。
「大丈夫、姉さん。すぐ終わらせるから。そしたらまた、一緒にご飯を食べよう。いつも通りに。だから姉さん、これが終わったら姉さんのハンバーグが食べたいな」
「なにを勝てる気でいるんだい? 君如きが僕に勝てるとでも? フフッ、君のその思い上がりを正してあげよう」
――わかってるさ、今の俺じゃあお前に勝てないってことくらい。
俺は怯える自分を、姉さんの辛そうな顔を見ることで奮い立たせて、浅野潤との戦闘に入った。
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