第7話 死神は唐突に

 俺は、初のボス戦を終えて第六層に降り立った。第六層からは中位亜人種、要するにオークやもう少し下の階層ではトロールやライカンスロープ等も通常モンスターとして出てくるという訳だ。

 無論ボス補正はないからあそこまで強い訳ではないが。


 階層を降りて暫く突き進むと、早速オークとゴブリンを見つけた。

 先手必勝! 俺はパワースラッシュをゴブリンに放ち仕留めると、奇襲されて動揺しているせいか動きの鈍いオークにレイスラッシュを叩き込む。


「ブモッ」


 オークは最後に断末魔を上げて血の海に沈んだ。


「やっぱり普通は俺のレベル的にこのくらい楽勝だよな。ボス補正があったとはいえあのオークは異常だろ」


 俺の今のレベルは21。オーク戦でレベルが2も上がったが、いやそれも充分おかしいが兎も角、ボス戦オーク如きであそこまで苦戦するはずが無かったのだ。


 俺は首をかしげながらも狩りを続け、オークを少し遅くしてパワーだけを上げたようなトロールも倒しながら、第九層まで辿り着いた。


「もうそろそろか」


 そう言うと、俺はこの層にあるはずの安全地帯に向かう。


 前から言っていたが、このダンジョンには超危険なランダムエンカウントモンスターが居る。いや、元ランダムエンカウントモンスターと言うべきか、法則が見つかった今は只の避けれるユニークモンスターだ。


 そのモンスターの名前はナム・タル。

 このダンジョンの最奥に居るはずのボスモンスターだが、ダンジョンを徘徊しているらしく、第五層からはエンカウントする危険がある。

 奴は超強力な攻撃を放ってくるモンスターで、階層ごとに出現するレベルは異なる。今いる第九層では確かレベル70で出てくる。出会ってしまったら一巻の終わりだ。

 しかし、奴はゲーム内時間でおよそ12時間ほど、連続で安全地帯を経由せずにダンジョンを突き進むと、突如としてプレイヤーの前に現れる。

 まぁ要するに、定期的に安全地帯でボーっとしていればエンカウントせずに済むわけだ。タイムアタックや、最速でレベル上げをしたい奴には余計な寄り道を強いられることで嫌われている。

 ちなみに他の敵に殺されるといつも通り、直前のセーブポイントに戻されるのだがナム・タルに殺されると、ダンジョンの入り口に気絶した状態で放り出される。

 これだけだと別段悪いことには思わないかも知れないが、消費したアイテムや損傷した武器や防具の耐久値は、直前の時間に巻き戻る訳ではないのでそのままになる。   

 なんともまぁはた迷惑な存在だ。


 暫く安全地帯で栄養食品のブロックや、水分補給をしてのんびりしてから、またレベル上げ&階層攻略に戻る。


 そして途中で遂に、この層の中では強敵に分類されるライカンスロープと会敵した。

 

「グルル、ガァ!!」


「うおっ!?」


 俺はこの層で出てくるモンスターとは、レベル上げをしている内に差が開いて、気を抜いていたのだが、曲がり角を曲がった途端にライカンスロープに奇襲された。


「痛いな……左肩を少し切られたか」


 肩を見ると、鎧の左肩に爪痕がある。


「やってくれる!!」


 俺はライカンスロープの突撃を剣でいなしながら、返す刃でライカンスロープを切った。


「キャウンッ」


 しかし咄嗟のことだったので切り方が浅かったのか、ライカンスロープはピンピンしている。


 再度ライカンスロープがとびかかってきたが、今度は冷静に回避しつつライカンスロープの足にパワースラッシュを叩き込み、ライカンスロープの足を切り落とした。


 その後、足を引きずって逃走しようとするライカンスロープに、チャージスラッシュをお見舞いすると、ライカンスロープは粉々に吹き飛んだ。


 

 そうして狩り続けていると俺は、遂に第十層のボス部屋の前へと到着していた。


 第十層のボスはレッサーワイバーン、飛びながら初級魔法のファイアボールと同程度の威力を持つ炎を放ってくる厄介なモンスターだが、このモンスターにはハメ殺し技が存在する。


 俺は秘密兵器を取り出しながら、新しく取ったバフ技を盛りに盛ってボス部屋の扉を開けた。

 

 そこには、何故かレッサーワイバーンではなく通常のワイバーンが鎮座していた。

 俺は、そっと扉を閉めると考えこんだ。


 ワイバーン。本来であれば30層のボスモンスターで、下級竜種に位置する存在。コイツさえ倒せれば晴れて中級者の仲間入り、と言われるモンスターだ。


「な、なんでボスモンスターが違うんだ?」


 第五層のオークといい、少しおかしな事態が発生している。


 だがまあ良いか、と俺は気を取り直した。だってワイバーンにもこのハメ技通用するし。


 俺はもう一度扉を開けると、馬鹿みたいにこちらが部屋に入ってくるまで突っ立っているワイバーンの足と翼に向けて、あるものを二つ投げた。


「行け! ボーラ! 君に決めた!」


 すると、なんということでしょう! あれだけ強キャラ感を出してこちらを睨みつけていたワイバーンが、地を這う芋虫へと変貌したではありませんか!


 ボーラ。複数のロープに石が取り付けてあるだけの道具で、武器を持っている亜人種には効かないし、下級獣種の足めがけて使うと転倒を狙えるが次の瞬間にはかみ切られる。上位の獣種に使っても力で引きちぎられる産廃サブ武器である!

 しかし、亜種竜種及び下級竜種には効果バツグンで、翼と足目掛けて投げれば竜種の体の構造上動けなくなるのだ!


 真正面は炎を吐かれるし、後ろは尻尾に叩きつけられるのでワイバーンの背中に移動すると、剣で切りつけまくる。


 10分後、ひたすらに切り付けられたワイバーンはそのまま息絶えた。


「い、いやホント。硬すぎませんかね」


 俺は息を切らし、愚痴を吐きながら言った。

 こちらのレベルが低いと、いくらスキル攻撃叩き込み放題でも結構な時間が掛かるのだ。


 俺は、ステータスカードを見ると驚いた。


「レベルが5も上がってんじゃねえか」


 ボス戦前は26レべルだったが、今見ると31レベルになっていた。


「パッシブスキルも増えてる……ジャイアントキリングか」


 ジャイアントキリング。レベルが20以上差がある強敵相手ならば、運のステータスに300%の補正、クリティカルの防御無視効果が50%アップする。


「高難易度で滅茶苦茶使えるから嬉しいけど、正直レベル差20あるモンスター相手とか、そんな自殺行為現実ではしたくねーしな」


 俺はため息をつくと、ワイバーンのドロップ品を確認した。


「双翼の刃に細々とした消費アイテム、しけてんな。ん? 待てよ?」


 その時、俺は床にキラリと光る丸い物体が落ちているのを見つける。


「オイオイオイ!? 冗談だろ!? なんでワイバーン如きからこれが落ちてきやがるんだ!?」


 俺が床から拾い上げたのは超級スキルオーブ、虹色をした玉で通称激レア確定ガチャオーブ。レベル300を超えた高難易度の馬鹿モンスターどもから極稀に出てくるアイテムで、覚えられるスキルはどれも超弩級の強力スキルだ。


 有り得ない、そう思いながらも確かに俺の手にあるのは虹色のオーブだ。

 俺は興奮を抑えながら唾をのみ込むと、そのオーブを口に入れた。


 その瞬間、力が沸き上がるのを感じてステータスを確認する。


 戦神アレスの加護。物理攻撃力に常時130%の補正、確率で発動する効果の確率を3%アップ。溜めが必要な攻撃の溜め動作を40%短縮。


 ありがとうございます、神様。超大当たりです。


 俺はとりあえず名も知らぬ神に感謝した。ゲーム時代に徹夜しまくった上に、30時間以上掛けて求め続けてやっと手に入れたパッシブスキルで、人によっては五本の指に入るであろう神スキルである。


 俺は、小躍りしながら先ほど同じくドロップした双翼の刃を装備すると、下の階層へと降りて行った。



 第十一層に着き、意気揚々とモンスターを狩りまくろうとしたその時、聞こえてくるはずのない悲鳴が聞こえてきた。


「うわぁぁ!?」


 俺は、何故ここに人がいるのか首をかしげながら、悲鳴のした方向に走っていく。


 そこには尻餅をついた青年と、鎌を振り上げた黒い靄のようなモンスターがそこには居た。


 ――……ナム・タルじゃねぇか!?


 一瞬、俺は引き返しかけたが踏みとどまる。


 ――簡単に人見捨てるようじゃあ、メインヒロイン全員救うなんて夢のまた夢だよなぁ!?


 そうして、双翼の刃を鞘から抜いてナム・タル向けて俺は突撃した。


 すると、俺の存在に気が付いたのかナム・タルは俺の方へと振り向いた。


「ワガキミガハンリョノ、イサンヲネライシハカアラシドモ。ソノキタナラシイクビヲキリサキ、メイフへトオクッテヤロウ」


 キェェェェェェアァァァァァァシャァベッタァァァァァァァ!!!

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