第18話 院長先生の授業・3

 20時、日が沈みます。

 わたしは女神の間、赤いタイルの前に居ました。

 授業も、今日で3000日、理論は吸収でなく、講義も含み、昨日が最後でした。

 理論的なことだけなら、もう「研究者」にになれるでしょう。

 でも、理想的な「すべてを実践できる医者」には、まだ届きません。

 今日からは、医学的な魔術書グリモワールを読んで、医療術の物理と魔法のうち魔法を使うものを先に身につけるとか。

その方が、物理の技より簡単だそうです。

 まあ、また記憶球を使うのですが。

今回は覚えた技術を使ってみるのだとか。

 

そういうわけで、「チェンジ!」いつもの書庫が現れました。

 最奥に座る院長先生もいつもと変わりません。

 そして、可愛い可愛い雷ちゃんも、デスクの前にちょこんと立っています。

「いらっしゃい」

 院長先生でなく雷ちゃんが笑顔で言います。

 雷ちゃんは少し大きくなり、4歳児という感じです。

 あんまり大きくなっていません。

「院長先生、雷ちゃんはどれぐらいの速度で大きくなるんですか?」

「普通、悪魔の成人は、通常の時間の流れで20億年ぐらい。時間の流れをいじってあると、それに応じて変わるでしょうけど。でも、この子は特別。普通の速度で千億年はかかるでしょう。」

「ゆっくりなんですね」

「天使と悪魔は、特に悪魔は成長の遅さは高能力者予備群の証。この子はとびきりの高能力者に成長するわ、必ずね………その未来が垣間見えるの」

 院長先生は、「予知」系の能力のすべてに優れていて、勘も外したことがないと言います。「昔は、全然大したことなかったけどね」とは院長先生の言。

 昔の院長先生なんて想像がつかない………!


「さあ、今日の勉強に入ろうか、2人ともいつも通りにクッションルームに行って。リリジェンの頭の容量も、繰り返してるうちに大分増えたようだし、魔導書行っちゃおう。これはね、記憶球と似てるけど、普通に読むの。そしたら、頭に知識と魔力をコピーしてくるから、受け入れてね」

 結局頭が痛いんですね、でも転がる事も出来ずに、ページをめくり続けて読まないといけないと………。

 私は恐る恐る、魔導書を受け取ります。

 雷ちゃんは気楽に受け取っています。

 以前院長先生に聞いたのですが、雷ちゃんはもう数千の書(内容は色々だそうですが)を読んでいるとか。それに加え、頭の容量もシャレにならないぐらい大きいそうで。でも、私の方が劣等生なのですが、やっぱり雷ちゃんはかわいいです。


 魔導書を開きます。ふわりと光るページが目の前に現れます。

 私はその文字を追ってゆき、この本が普通の回復魔法に属するものの類を、より強くもしくは弱くコントロールするための魔導書だということを学びます。

 コントロールでき、またそれだけの力があれば、私は首を落とされたドラゴンですら回復させる力を得るでしょう。

 また、すれ違いざまに、本人人にも気づかれないように小さな傷を癒すことも。

 また、他の症状―――毒、病気治癒、呪い解除なども、この本にコントロール方法が記されています。


 自分のペースで読み進めているので、思ったよりも頭痛はきません。そのかわり、速度が遅くなります。

 雷ちゃんは早々に読み終わったようですが、わたしはまだ半分以上残っています。

 でも、十二時間経つ頃には、なんとか読み終わりました。


「夜に来てもらった意味がないね、もう朝じゃない………もう、今度からこれを見越して朝に来なさい」

「え………下働きの仕事は」

「休みにします」

「えぅ………はい」

 寂しいけれど、仕方がない。最高権力者である院長先生のお達しだ。


 雷ちゃんは、クッションルームでスヤスヤ寝ていた。

「その子起こして、こっち来て」

「あ、はいっ」

「雷ちゃん起きなきゃダメよ。私が遅くて、ごめんね」

 雷ちゃんは「う?」と言って目を開ける

「りりねえのせいじゃないよ、おれがねむかっただけ」

 眠そうな口調で言う雷ちゃん。

 抱き上げて、院長先生の方へ行きます


 デスクの横の、本棚がスライドして開いています。

 そこに入ると、また本棚が閉じました。

 部屋の中央には、一抱えもあろうかという光球が浮いています。

 光球の横へ、ひょこり、と顔を出した院長先生は

「これに、魔法の種類ごとに弱→強で、魔法をかけていきなさい。光球のする判定に引っかかったらやりなおし。まずは普通の回復魔法から。最初に雷鳴ね、眠気は冷めた?」

 呆れ口調で院長先生

「ちゃんと床に立ってやんなさい」

「はぁ~~い」

 雷ちゃんは光球に片手を掲げると「身体回復」「精神回復」「体力回復」「病気の癒し」「狂気回復」「脳回復」「超速再生」「持続治癒」「障害治癒」

 ………と、一度も判定に引っかからないでやり終えました。

「よし」

 院長先生の言葉に、「にこぱ」となった雷ちゃん。私に「偉い?」と聞きました。

「偉い偉い。凄いねー」

 思わず、抱き上げて、高い高いをします。

 三歳児には幼稚だったかな?

 でも雷ちゃんが「あははっ」と楽しそうなので、いいか。

「リリジェン、貴方の番よ」

 私たちを見て、苦笑している院長先生からのお達しです。

 わたしは光球を両手で包み込むように持ちます。

「その前に、何でこういうコントロールが重要なのかわかる?」

 ええと、傷を消しきれないなどの現象を避けて、適度な治癒が行われるようにするため、でしょうか。

「うん、それもある、けど、もう一つの理由は「過治癒」を防ぐため」

「過治癒、ですか?本には書いてありませんでしたけど」

「私の経験上………そうね一番わかりやすいのは持続治癒ね。あれで、持続的に怪我を癒し続ける時、癒す必要が無くなれば効果が切れるけど、過剰に癒しの力を込めていた場合、健常な体を「過治癒」してしまう。傷がないのに過剰な治癒を受けた人体は、浮腫、頭痛、めまい、意識混濁、最悪は死。などの弊害が発生するのよ。治癒魔法で起きる現象だから、治癒魔法でじゃ治らない。後で、万が一の時のために、2人には「魔力吸収」を教えておくわ。では、改めてはじめ」

 雷ちゃんと違って、わたしは難航しました。しょっちゅう「ブー」というブザーが鳴り最初からになります。

 私は時を忘れて必死になり―――8時間後、すべてをクリアしたのでした。

「クリア!」と光球が宣言し、わたしは床に座り込みます。魔力はもう底を尽きかけでしたが、そもそも私の魔力がこんなにあったことの方が不思議です。

「よくできました、今日の授業は終了よ」

またね次の夜に―――。

そう言って、院長先生は雷ちゃんの頭をなでながら、移動魔法陣を出してくれた

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