第14話 下働き―――千年・後

外界につながる扉の前にやってきました。

もちろん天使看護師長(ルカさん)から、許可は取ってあります。

「気を付けていくんだよ、何かあったら、即異次元扉を呼び出して帰還したまえ」

とのお言葉つき。はじめてのおつかい状態です。

確かに、外に出るのは4千年ぶり………緊張します。

私の使う異次元扉は、患者さん搬送のものではなく、職員の外出用扉です。

普段は草花の中に埋もれ、ほのかな光を放っているだけの異次元扉に向かって起動のコマンドを唱えます。

輝く扉が現れました。

「ラクシア星、国はイーザス王国、レオスの町へ、送り届けたまえ」

扉は輝き、開きます。爆撃を受けて惨憺たる有様になったレオスの町へ。


わたしは、旅してきたように見えるように、大きなトランクを引きずっています。

そして、駅の周りにいる、古参らしく見える兵士に、

「ヘッジホッグ中隊が、どこに埋葬されているか知りませんか?」

と聞いてみます。

「すまんな嬢ちゃん、ここにいたやつらは全滅してるんで、俺ら追加組は何にも知らんのだわ。父ちゃんか、旦那か?」

「お父さんです(じくりと胸の奥が痛みます)」

「そうか………あっちの廃墟のあたりで、まだ店を開けてるバアさんが居る。ずっとここらで暮らしてきたんだと。行ってみりゃどうだ?」

「ありがとうございます」


廃墟のあたりに辿り着いた。

確かに、町の人たちがたくさん集って、食事している店があった。

私は店の正面から、トランクを引きずって入りました。

厨房の奥を目指します。

「すみません、お聞きしたいことが!」

わたしは店内の喧騒に負けないように叫びました。

「何の注文だい。今日はシチューかポトフしかないよ」

「いえ、そうではなくお聞きしたいことが………」

「注文しないんなら帰んな」

「なら、シチューで……」

しばし、もぐもぐとシチューを食べる時間が続きます。何してるんだろう私。

シチューを食べ終わって、会計に余分なお金を上乗せして渡しました。

「聞きたいことがあるんですが」

「なんだい」

よかった、今度はまともに話を聞いてくれそうです。

「ヘッジホッグ中隊をご存じですか」

「あぁ………ここを守って、くたばっちまった連中だね。気の良い連中だったさ」

「埋葬場所を探してるんです。父がそこにおりまして………せめて供え物をと」

「埋葬されたことはされたけど。あの辺は埋葬の時はいなかったのに、最近は向こうの兵士がうろうろしてるから近づけないんだよ。」

………!!

「いえ、それでも教えて下さい」

そう言って、この辺の地図を取り出して渡す。

「………この辺だね。ほかのと見分けがつかないと思うけど。」

「有難う御座います」

そう言って私は店を出て、路地に入り、異空間通路を呼び出す。

「癒しの園へ送り届けたまえ」

というと、キラキラした輝きが私を包み込んで「病院」に運んでゆく。

余談ですが、あの店の客の一人が私のあとをつけ、この光景を見たらしく、私は精霊か天使だということにされてしまったとか。精霊と天使様に失礼です。

私は、ルカさんに相談に行きました。

「どうにか、ヘッジホッグの埋葬地を特定したいんですが」

「そうだね、出来ると思うよ」

「えっ、ホントに?」

「その舞台と縁のあるもの持ってるかい?」

「あ、はい、このワッペンが縁があると思います」

「なら、このワッペンを魔道具化しよう」

「………どうなるんですか?」

「これを持ってる人だけに、縁のあるものや人、土地が光って見えるようにする。使えるのは1回だけにして、変な影響が残らないようにしてね」

いいかな?と言われて

「はい、よろしくお願いします」

ルカさんは、ワッペンを両手で持って、もにょもにょと何か呟いている。

普通の魔法言語なら私も扱えるけど、マジックアイテムを作る魔法言語はまた全然違うらしい。上級魔法を修めたらわたしも勉強してみたい、と思った。

「できたよー」

見つめていると、軽い口調で、できた旨が知らされた。

「いやぁ、あんなに見つめられると照れるじゃないか」

「えっ、いえっ、変な意味で見ていたわけじゃ」

「ははは、わかっているよ、君。それより早くミッションを達成したまえ」

「あ、はいっ」

ワッペンを握りしめつつ、私は購買に行きました。

「透明化」のマジックアイテムを貰うために。

バッグも、最低限のものに切り替えます

私はもう一度異空間通路を起動させます。

「ラクシア星、国はイーザス王国、レオスの町へ、送り届けたまえ」

次に私が降り立ったのは、危険地域の近く。

この近くにヘッジホッグの埋葬地があるはずだ。

他の部隊と一緒くただけど、確かにこの中にある。

私はワッペンを握りしめたまま、マジックアイテムのコマンドワードを2つ口にする。ワッペンのものと、透明化のもの。

すると、私の姿が消え、一方でところどころが光りだした。

一番大きいのは大きな橋。イーザス王国兵が多く駐屯している

ここが、ロレアルさんたちの戦った場所なんだろう。

墓地は、きっと橋の近く………そう思いましたが、反応がありません。

端を離れて、川の近くを覗き込むと………あった。

輝く土地が。

私はまず、預かってきた煙草を地面に置きます。ついで、これはロレアルさんじゃなく私から、ウィスキーです。傷にさわるのでロレアルさんにはあげられませんけど。

もう一つ、小さな花束を置いて。


祈ります。

主よ、われらみまかりし者の霊魂のために祈り奉る。

願わくは、そのすべての罪を赦し、

終りなき命の港にいたらしめ給え。


主よ、永遠の安息をかれらに与え、

絶えざる光をかれらの上に照らし給え。


祈願 すべての人の救霊を望み、

罪人に赦しを与え給う主よ

主のあわれみを切に願い奉る。


こうして、私のミッションは何とか終了しました。

帰って、ロレアルさんに「ミッションコンプリート」と言ったら飛び上がらんばかりに喜んでくれました。

詳細を話すようにせっつかれたので、ウィスキーのことを言ったら拗ねていました。

ロレアルさんの退院は、私の感覚でいったらもうすぐ。

ときどきここに、遊びに来ようと思うのでした。

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