リリジェンの半生

フランチェスカ

悲劇の章

第1話 私の生い立ち―—―父親

 わたしは科学王国(銀河)ルベリアの所属の、ワオジミール星はニーフィー合衆国に生まれました。

 ワオジミール星は地球テラと同じような制限空間の惑星で、よく似ていました。

 私はニーフィー合衆国の普通の家に生まれました。大きな敷地があり、木がたくさん茂っていました。倉庫なども大きいです。

 でも、普通じゃないのは。

 お父さんがお母さんを殴る事です。1回や2回でなく容赦なく何回も。笑いながら。

 わたしは放置でした。お父さんがお母さんを殴り始めたのは、私が5歳になった頃だったからです。

 顔面にひどい傷を作りながらも、お母さんは働きに出ました。

 お父さんも働いていました、エリートの商社マンだったようです。

 お母さんが働きに出るのは、お父さんから少しでも遠ざかっていたかったからかもしれません。

 お母さんは無口で、私に何も話してくれませんでした。話しかけても無視します。

 そして夜になったら、お父さんはお母さんを殴るのです。

 大人になった今なら分かります。この時お父さんは手加減していたのだと。

 私は10歳の時に1度だけ、お父さんに反抗したことがあります。

 包丁を持ち出してお父さんに向けました、お母さんを殴らないで、と。

 何の役にもたちませんでした。

 お父さんは私の襟を持って、大きなオーブンの中に投げ込んだのです。

 ばたんと扉を閉めて、

「もう一回やってみろ、その時はこのままスイッチを入れてやる」

 と言われて、恐ろしさに震え上がりました。

 やせっぽちの小娘が敵うはずがなかったのです。

 私のお父さんへの反抗心は、ぱりんと割れてしまいました。

 情けないと今でも思います。でも恐怖に打ち勝てなかったのです。


 それからしばらく、お母さんが殴られる日常を過ごした後、―――その時のわたしは12歳です―—―お父さんが珍しくお母さんをクルージングに誘いました。

 お父さんがクルーザーを持っていることは知りませんでした。

 お母さんは嬉しそうです。

 でも、この時点でお母さんは疑うべきでした。

 クルーザーは水難事故にあい、沈没しました。

 船底に穴が空いていたそうです。

 お父さんは無事戻り、お母さんは水底に沈んだまま行方不明となりました。

 ………お父さんが殺したのだと、未来の私は知っていますが、当時の私には知りようがありませんでした。

 そして私は恐怖しました、わたしはお母さんの代わりになるのではないかと。

 結論、お父さんは私を殴りはしませんでした。

 ただ、自由はありません。


 商社マンを引退した父は、いつも家にいて、私を小間使いのように使ったのです。

 私は14歳でしたが、わたしは部活をすることもできませんでした。

 いつも家にできるだけ早く帰らなければいけませんでした。

 そして、父は殴ることをやめませんでした。

 顔の良かった父は、とっかえひっかえ女性を連れ込んで、そして殴っていました。

 彼女らには高額の金を渡し、示談にしていました。

 たくさんのお金をもらった女たちは、罪悪感から訴えることもなく。

 父は酒を飲んで、私に料理や雑用をさせて日々を過ごしていました。

 彼女が現れるまでは。

 ………彼女の名前は「アリア」

 いつもの手口で連れ込まれてきましたが、父はアリアを気に入ってしまいました。

 部屋の一室で、彼女を椅子に縛り付けて殴りました。

 彼女に食事を与えるのは私の仕事でした。

 が3日目からほとんど食べれなくなりました。

 それでも父はアリアを殴り続けます。

 そのうち、ピクリとも反応しなくなったアリアの髪を掴み、強引に顔を晒させながら父は言いました。

「こいつは、もう駄目だな」

 そう言って父は、彼女の体を毛布で包みその上から縛り上げました。

 彼女を縛ったというよりは、毛布がほどけないようにです。

 そしてトラックに積み込みます。

 私は、見張ってろといわれ、アリアと一緒に荷台に乗り込みました。

 何故か、ガソリンのタンクが2つ積んでありました。


 私はここで、父のしようとしたことに、気付くべきでした。

 何もできなかったにしても、気付くべきだったのです。

 そうすれば、あんな真似をせずに済んだのかもしれないのですから。


 トラックは山奥を目指して進んでいっていました。

 ある程度まで来ると、父はトラックを止め、アリアを側溝に蹴り落としました。

 わたしは、まだ父が何をしようとしているのかわかりません。

 父は私に

「コイツにガソリンをかけろ。たっぷりな」

 と指示し、わたしがそれを実行するか見ています。

 ひどく嫌な予感がしましたが、私は指示されたことをするしかないんです。

 2缶あったガソリンを、ドバドバとかけていきます。

 ………ガソリンは見た目よりもはるかに重かったです。

 それが終わると父が私にマッチを放り投げてよこしました。

「火をつけろ。それが終わったら車内に入れ」

 ここでわたしは、死体を燃やすのか、仕方ないと考えました。


 違う、違うのです!彼女アリアはまだ生きている!

 あぁ、この場面を思い出すだけで、震えが止まらなくなってきます。


 私は、毛布にマッチを放り投げました。

 ドン。

 多量のガソリンを注いだせいで爆発めいたことになりました。

 でも、私の耳は、聞いてしまったのです。

 一瞬で炎にまかれたであろう―—―ガソリンは毛布の奥深くまでしみ込んでいました―—―アリアが。

『助けて。お願い。助けて』と絞り出すような声で言ったのを。

 私は事態が呑み込み切れず、よろよろとトラックに乗り込みました。

 そうして、自分が見聞きしたことを心の奥に封印して、日常に戻ったのです。

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