きらりきらめき恋は刃のように~どこかポンコツだけどヤンデレ気質な女王様達からの愛が重い~
龍威ユウ
第一章:3年越しの告白
第1話:極東端の島国からの来訪者
街は相も変わらずがやがやと騒がしい。
まるでお祭りみたいだ、とそう口にした二人組の女性はこの街にくるのが初めてなんだろう。
なんとも純粋なことだ、彼女らを横目に青年は頬を緩めた。
人気の多い大通りを歩いていると、一際大きな声が耳に入る。
ふと視線を向けてみると、一人の露店商人が声を張り上げていた。
少しでも自分の品を買ってもらおうとアピールをする彼の手には、一振りの刀が握られている。
「さぁさぁ! こいつは極東端の海に浮かぶ島国――
「……へぇ」
景信……その固有名詞に青年は強い関心を示した。
どんなにすごい代物なのやら。人混みをかき分けて最前列に立つ。
露店商人は、続けて刀を抜いた。
すらりと鞘から抜き放たれた白刃の輝きに、次々とおぉと感嘆の声が上がる一方で青年は一人沈黙を貫いた。
「一度抜けばどんなものであろうとこのとおり、あらバッサリ!」
デモンストレーション用に用意されていた大根がすぱりと両断された。
確かに、切れ味は大変すばらしい。ただいささか用意されているものがしょぼくないだろうか。
大根を斬っただけではないか。大根ならそんじょそこらの包丁だって斬れる。
もっと他に相応しいものならあっただろうに……不服を抱く青年を他所に、周囲からの万来の喝采に辺りは包まれた。
なんでこの程度のことで喜んでいられるのだろうか。青年は、たたそれが不思議でならない。
「しか~し!!」
露天商人の反応に野次馬達がびくり、と大きく身体を打ち震わせた。
物々し雰囲気に誰しもが固唾を呑んで見守る中、青年だけはその瞳に呆れの
「この景信! 実は妖刀としても名高きことで有名でもある! 資格なき者が手に取ればその身は呪いに蝕まれて非業の死を遂げてしまう、なんとも恐ろしき刀か!」
「……はぁ」
「そこで! 今回は特別にこの特製の清め塩を同封してお値段たったの1000Zam(※Zam=大陸で流通する通貨。金貨=50Zam、銀貨=20Zam、銅貨=5Zam)!」
「いやいくらなんでもボッタクリでしょうに」
つい、そう悪態を吐いてしまった。
いくらなんでも1000Zamは高すぎる。
そんな彼に露店商人が食って掛かる。
「おい兄ちゃん、素人のくせに適当なこと言わないでもらえるかな!」
露店商人からすれば、せっかくの儲けをこの青年が台無しにしようとしているのだ。怒るのも無理はない。
だが、あくまで青年としては純然たる事実を申したまで。
偽物の所為で本家へのイメージダウンに繋がる事態は望むところではない。
そろそろネタ晴らしをしてもいい頃合いだろう……クックッと笑って青年はすらりと腰の打刀を抜いた。
よもやここで露店商人を斬るのか、とそう野次馬らがどよめくのも無理はない。
「ご安心ください、別にこれはあなたを斬るために抜いたのではありません。見てほしいのはこの刀……刀身の方です」
そう言って、青年は刀身を露店商人に見せつけた。
青年の持つ打刀の刀身は、極めて稀有な輝きを発していた。
本来白銀であるはずの刀身は黒紫色がかかり、刀匠の性格を表すとも謂われる刃紋はさながらごうごうと燃え盛る焔のようにとても荒々しい。
「そ、その刀がなんだよ!」
「これが本物の景信だと言うんですよ。あなたの持っているそれは真っ赤な偽物、よくもまぁそんなものを景信の刀だと言えたものですね」
「なっ! で、でたらめだ! 兄ちゃんいい加減にしないと――」
「後、申し遅れました。私があなたという
「へ?」
えぇぇぇぇぇぇぇぇっ!? と野次馬達の驚愕の声が快晴にあがった。
よもやここで本人が登場するとはさぞ思わなかったことだろう。
予想以上の驚きっぷりにはさしもの青年――景信もおかしくて仕方がなかった。
さて、と景信は改めて露店商人を見やる。
彼としてはただ単に視線を向けただけなのだが、当人はそうではなかったらしく。
ヒィッ!? っと短く情けない悲鳴をあげて身を縮こまらせた。
「ど、どうか許してくれ! お、俺はただ――」
「あぁご安心ください。別にあなたを斬ろうとするつもりはありませんので――ただ、その刀……確かに俺の刀じゃありませんけど、本物の名刀ですよ」
「へ?」
「この刃紋……まるで虎の縞模様のようでしょう? これは私の故郷の名匠の一人、
「え?」
「あの方の打つ刀は私なんかよりもずっと有名ですからね。値段にしたら、まぁ1200zam以上するといっても過言ではないでしょう」
本日二度目の驚愕の声が辺り一帯を包んだ。
「――、さぁさぁ! ここにある刀はあの超! 超! 超ぉぉぉぉ有名な刀匠!
「お、俺1200Zam払うぞ!」
「俺様が買う! 俺様は1250Zamだ!」
「いいや1300Zamでオレが買うんだ!!」
「――、やれやれ……」
とりあえず場を丸く収めて、さてと景信は周囲を
彼がいるここ――【オルトリンデ王国】は大陸一と謳われる大国だ。
常に多くの人が行き交いして、夜を除いて静寂が訪れることはないことから不夜城という異名を持つ。正に的確な異名であると思うし、人がこれほど賑わうことはそれだけこの国が豊かで平和であるという証でもある。
それ故に――
「全然危機に瀕しているように見えないんだが……」
懐から取り出した手紙に目線を落として、景信はふむと意識を過去へと
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