第14話:ストーカー養成学院04
さて。どうやらこの世界にはとある迷信がはびこっているらしい。あるいはそれは正しいのかもしれないのだけど(僕の少ない人生経験において)容易に承認しがたいことでもあった。
「魔術師の子どもは魔術師になりやすい」
という風潮がそれだ。さらに酷いものとなると、
「優秀な魔術師の子どもは優秀な魔術師になる」
とも聞こえてくる。
で、
「何だかなぁ」
ストーカー養成学院は一定以上の年齢になると双方の同意のもとに男女が寮部屋を共有していいことになっている。何せストーカー養成学院に入る人間の第一定義がストーカーになる可能性のある者……である以上、魔術師であることが前提条件として付与される。僕はまだ学院の持つダイレクトストーカーを見ても触れてもいないのだけど、ともあれそんな事情でストーカー候補と相成ったわけだから双方の同意のもとに女の子と相部屋になるのだった。
誰かって?
言わなくてもわかるだろうけどフォースだ。
別に僕らは恋人同士でもないし、子を生すつもりもないし、子を生さなくてもニャンニャンをする仲でもない。というかフォースを孕ませたら姉将軍の制裁を受けそうで恐れ多い。別に思春期特有の性欲の暴走が無いわけじゃなく、フォースが超のつく美少女であることも認めた上で、それでも健全な同意のもとで僕たちは部屋を共有した。
なにせフォースはぼっちだ。友達に恵まれず、友達作りの能力を持たず、自分自身を信じられず貶めるような性格だ。姉将軍パワーが憂慮するのも当然と言えた。まして学院ではどうやら劣等生の扱いを受けていてスクールカースト最底辺。この際不世出の美少女であることは嫉妬の対象というマイナス要因に働くのが(フォースではなく衆人環視が)救い難い。
それで友達第一号に僕が選ばれてフォースと相部屋になったという経緯。
「……コーヒーでも……飲んで……待ってて」
相も変わらず他人に怯える舌っ足らずな言葉で部屋のテーブルにコーヒー(こっちの世界にもあるらしい)を置いてエプロンをつけるとキッチンへと消えていった。
「ちなみに今日のメニューは?」
「……パスタで……いいかな?」
「了解」
「……期待は……しないでね?」
無茶言うな。
年頃の男が美少女にご飯を作ってもらって期待するなとは自然の摂理に反する。フォースには正しい思想教育を施す必要があるだろう。しないけどさ。
「…………」
僕はそれ以降黙ってコーヒーを飲んだ。別に味に敏感なわけでもないのでコーヒーの良し悪しなぞわかるはずもないのだけど、それでも基準世界で飲んだ缶コーヒーよりは薫り高い……美味しいコーヒーだと思えた。
それにしてもエプロン姿のフォースを思い浮かべて、かたことと聞こえてくる調理の音を認識するとドキドキしてくるね。思春期の男の子にはハードルが高いぜ。
中略。
「……どうぞ」
フォースはパスタを大きい皿に盛って現れた。どうやら今日はボンゴレらしい。大陸最西端である燈の国だから当然海には接しているだろうし、ならアサリが取れるのは自明の理……なのかにゃ?
ともあれ理論で現実を否定しても始まらない。あらゆる可能性を排除して最後に残った可能性が真実だとも言う。目の前にボンゴレがあるのだから素直に認めよう。
「いただきます」
パンと一拍。
「……いただきます」
フォースも一拍。
どうやら「いただきます」の習慣もあるらしい。さすが準拠世界。
ちなみにフォースの作ったボンゴレは美味しかった。
「……どう……かな?」
おずおず問うてきたフォースを抱きしめたくなるほどだ。なんかこんな小動物的で庇護欲を煽られるのは男にとっては大ダメージ。
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