第13話:ストーカー養成学院03


「じゃ、行こっか」


 僕がフォースの燈色のおどおど瞳を覗き込みながらそう言うと、


「そこの庶民?」


 フォースではない声が僕にかかった……と思う。覗き込んでいるフォースの瞳が動揺から恐怖へと変わる。どうやらあまり愉快ではないことが始まるらしいとカルテジアン劇場のホムンクルスに嘆息させて、


「やれやれ」


 僕は声のした方へと向いた。そこにいたのは派手な美少女とその取り巻きたちだった。リーダー格の美少女はともかく、取り巻きたちはどう考えてもモブキャラ扱いされても不思議ではない登場だ。


 それにしてもリーダー格の美少女の服装は派手で目に痛い。


 僕のイメージカラーが黒ならば、リーダー格の美少女のソレは赤だった。


「何でしょう?」


「私はミシェルといいますわ。よろしくお願いしますこと」


 赤の美少女ミシェルは慇懃に一礼した。


 ……人を庶民呼ばわりしといて慇懃も何もあったものではないけどその辺の摺合せはまた後日としよう。


 ミシェルは先述したようにとにかく派手だった。炎の様に赤い髪はシニヨンに纏められ、同色の瞳はルビーも色褪せる。そして着ているのは血で染めたように赤いドレスだった。外見の年齢相応で予測するならどう考えても学院の生徒であるはずで、ストーカー養成学院は服装自由とはいえミシェルのそれはあまりに華々しすぎた。だがあまりに対称的かつ整った美貌は華々しいドレスをもってしても幼い背伸びを感じさせず、むしろ赤の髪と瞳に調和してここに完成を見る。


 もっとも可愛さで言えばフォースも負けていないし、そういう意味で気圧されたり畏れたりはしないのだけど。ともあれ僕はしょうがなく応答をする。


「で、何でしょうミシェル?」


 再度問う。


「無礼な!」


 とこれはミシェルの取り巻きの一人。ちなみに男子生徒。


「ミシェル様を呼び捨てるとは何事か!」


 と……言われてもね……。


「まぁ待ちなさい。庶民は自己紹介で言っていたではないですの。自分は田舎者だと。礼儀作法を求める方が間違っていますわ」


「あら、ご挨拶」


 何だかなぁ。


「庶民?」


「何でしょう?」


「あなたもあなたですわよ? いくら田舎者とはいえ私のオーラを感じ取るくらいは出来るでしょう? であれば畏敬するのが常識というものですわ」


「あー……」


 いるいる。こういう奴。


「あなたも燈の国の生まれならブロッサムの名くらい聞いたことがあるでしょう? 私はブロッサム九世。まだ家督を相続していないので暫定的にミシェルと呼ばれていますが、いずれブロッサム九世と呼ばれる誉れも高い出自ですわ」


 すごいですね~。


「ブロッサムって何?」


 ボソボソと僕はフォースに問う。


「……燈の国の……貴族の名だよ」


 ボソボソとフォースが答えてくれる。


 ちなみにこっちの世界には姓というものが存在しないらしい。人は姓名の内、名だけを持って生活しているとのこと。そして貴族は当主が代々の家名を受け継ぐらしく……つまり今はミシェルの親がブロッサム八世を名乗っているのだろうことは理解できた。


 さて、


「庶民?」


「何でっしゃろ?」


「こちらに来て初めてのことに戸惑うでしょう?」


「それはもう」


「特別に私が直々にいろはを教えて差し上げますわ。まずは昼食をご一緒にいかが?」


「無理」


 僕の言葉は簡潔を極めた。ピクリと少しだけミシェルの眉が跳ね上がる。不愉快を覚えた時のソレだ。


「何故?」


「フォースと食事をとるから」


 他に言い様も無い。


「そこの劣等生と? 正気ですの?」


「初手から相手を見下す人間よりは付き合いやすいと思うけど」


「……上泉……駄目だよ。……貴族に逆らっちゃ」


 フォースはおろおろしていた。


 可愛いなぁもう。


「そんなわけで申し出は却下。ほら、行こうフォース。学食まで案内して?」


「……いいの?」


「駄目な理由が見つからないよ。僕たちは友達でしょ?」


「……うん」


 そしてようようフォースは立って僕を先導してくれるのだった。通りすがりにミシェルを横目に見ると睨み付けるように眼光を鋭くしていた。


 おそれ入谷の鬼子母神。

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