第8話:信綱、異世界へ行く08


「私のことは知ってるか?」


「まったく」


 本音だ。


 初めて会ったばかりの人間に親しく出来るなら今から僕はイタリア人である。


「異世界から来た……と云ったな?」


 正確には基準世界から準拠世界に来たのだけど重箱の隅をつつくこともないだろう。


「では国際情勢に明るくは……」


「ないですね」


 そこだけはキッパリと。


「それにしては浮足立っていないな」


「状況に流されるのが僕の得意技なんで」


「胆が太いわけか」


「そんな上等なモノじゃないんですけど……」


「謙遜するな」


「これっぱかしもしていません」


「仮に貴様が異世界の戦士と云うのなら向こうでは大層な戦果を挙げたはずだろう?」


 えーと……。


「戦士じゃありません」


「あれほどの能力を持っていてか?」


「半分趣味みたいなものですし。僕の本来の肩書は学生なんですよ」


「国民学校か?」


 あ、そのネタ通じるのね。


「一般的な教養を学ぶ平和な学校ですよ」


 ハンズアップ。手錠されてるんだけど。


「そちらの世界は平和なのか?」


「いいえぇ。宗教戦争やら経済戦争やら制裁戦争やら国境紛争やら……他にも色々と理由をつけて殺し合っていますよ。僕の国は大国によって牽制の保護を受けていますから僕自身は戦争を知らない世代です」


「ならば何故あれほどの戦力を身につけた」


「偏に伝統のためです。それに多分こちらの世界とは常識が違いますよ。ぶっちゃけるとこちらの世界は剣と魔術で戦うでしょう?」


 この準拠世界がいわゆる一つの「剣と魔法の世界」であることは予想できて然るべきだ。僕の読みこんだ全てのジュブナイルがそう語っている。


「そうだな」


 こっくりと頷かれる。


「あっちは剣や魔術が通じませんから」


 にゃはは、と笑う。


「ふむ……」


 少し思案した後パワーは、


「ではダイレクトストーカーもないわけだ」


 意味不明なことを言った。


 実は理解していたりして。多分パワーが昨日乗っていた巨大人型ロボットのことを指すのだろう。それくらいは察せられる。


「では何を以てこちらの世界に来た?」


「何でしょう?」


 魔術?


 しかして世界を転移する魔術なぞ使えない。


 他者による召喚?


 それにしては召喚者は見当たらず、そのせいで死にかけた。


「あー……ちょっとわかんないですね」


「そうか」


 心中納得はしていないだろうが、


「とりあえず責めはすまい」


 と燈色の瞳が語っていた。


「仮にこれで貴様が蒼の国の刺客なら、いよいよあの国も危ないだろうしな」


 情勢を言われてもわからないんですがー?


「どゆことです?」


「まず初めに言っておくとここは燈の国だ」


 燈の国……。当然ながら知るわけもない。そもそも国名が色ってどうよ?


「その最東端にあたる」


 東側ね。


「燈の国は大陸最西端の国で東の国境を蒼の国および白の国と接している」


 ですか。


「そしてここは私ことパワーが治めるパワー砦だ」


 なんとまぁ……わかりやすいことで。


「蒼の国と……貴様の言うところの国境紛争の拠点でもある」


 つまりかなり危ない場所らしい。


 戦争を知らない子どもたちの一人だから実感の湧きようもないけどさ。

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