第6話 バトル開始
御門雪風が、その懐かしい実家であり、神社に戻ってきたのは、家出して初めてあった。声優事務所のプロフィールにも出身地は秘密にしているが、そのインタビューで誤魔化しきれない方言から、九州の出身とだけネットの噂にはなっていた。ここ、門司港から少し奥まった藤御門神社は、月の女神を崇める和布刈神社の系列とは言われているが、その発祥は謎である。その神社につながる小さな商店街は、この門司港の衰退と同じで寂れていた。
ユッキーは、バレッタに擬態しているジンに話しかけている姿は、独り言を言いながら歩いている不思議な近寄ってはいけない人に見えるが、あまり通行人もいなくて、寂しい限りだった。ユッキーの心の中に、今から恐ろしい姉二人に会う恐怖よりも、それ以前に、この寂れた神社前通りを復興させる案で頭がいっぱいだった。長い長い階段を上がりながら、お年寄りのためにミニケーブルカーが必要だとかブツブツ言いながら、最後の鳥居の前で、ジンに言った。
「もうバレているから覚悟してよね。」
ここまで通り抜けた六つの鳥居ごと気づかれないくらいの結界が張られていて、もう、存在が感知されているらしい。ここまでれたのは、話を聞く気があることと、ジンには気づいていないことが考えられる。
すると、懐かしい声が聞こえる。ばあやと呼んでいるお手伝いさんだ。
「まぁ、お懐かしや、ユキ様、おかえりなさいませ。
ハナ様やツキ様から、不肖の妹が帰ってくるから丁重に迎えて、
清めさせ、着替えて道場にお連れするように仰せ使っております。
それからお付きの方も同様に着替えさせて連れてくるようにとの
仰せでございます。」
ジンはバレッタからヒロミの姿へ変幻し、お浄めの沐浴をして、
巫女の姿でユッキーと共に道場入りした。
純姉が静かに座っていた。
「ユキちゃん、おかえり。」
ユッキーは、姉の目がまともに見れなかった。
本来、その能力から、この神社は雪風が跡継ぎであり、純花は、
外部へ嫁ぐことが決まりだったが、それが自分のせいで姉に迷惑を
かけているからだ。
「ユキちゃん、言いたいことは山のようにあるけど、
今は置いといて、私たち姉妹を中心に、起きている
ゴタゴタを解決しましょ。」
「アレ、月姉は?」
「ツキやちゃんは、今、朱鷺御門で眠って貰っています。」
「眠る?」
「まぁ完全を考えて、保護、隔離ね。あの娘、暴れん坊だし、それに、」
「そう、安全第一だ!」
振り返りと、かなり年配の御門月也が立っていた。
月也は、
「しかし、純姉の時は特にビックリしたけど、ユキも本当にそっくり、
いや本物なんだね。自己紹介するよ、私は、御門月也、鏡の先の世界の
御門月也、声優をやっている。そして、バディのトリック。」
月也の豊満な胸の間から、ペンダントが姿を表して、美しい少年の姿に
変幻して、口を開いた。
「君がこちら側のユキさんと、その女の子が僕の同胞だな、
コードナンバーだと面倒なので、この世界の名前を教えてよ。」
巫女姿のヒロミは、
「今はヒロミだけど、ジンと呼んでくれ。トリック。」と答えた。
向こう側の月也の話によると、同じ次元に、同一存在は危険なので、一時的にこの世界の月也には、時間と次元の影響を受けない空間に避難してもらっていることと、言いにくそうに、自分の世界の純花は、得体の知れない呪いから、見た目は同じなのに、ゾンビのような存在に変化して、
今、幽閉状態であるということ。そして、この問題を解決するには、
呪いの原因となった異次元世界での元凶を取り除くこと等を簡単に
説明してくれた。
純花さんと雪風さんは、ほぼ同時に、
「どうして、月さんは、分かったのですか?異次元世界が原因だって?」
すると、
「トリックも君のジンのように古代からこの世界にいる神に近い存在だ。
そのトリックが、純姉の部屋に入った時に、鏡を見て、ここからなら、
もしかすると、この世界では存在し得ない呪いが発動できるかも
しれないと気づいて、剣也に伝えて、その後は君と同じ朱鷺に
行き着いた。」
詳細は、東洋にも昔存在した雲外鏡という魔具と、古代の魔術を融合したものでかなり異常な儀式らしいということと、もはや、雲外鏡は、こちらでも、あちらでも存在していないために、その術式に対抗できるものを探している最中だと言った。いずれにしても、それを行ったのは、神レベルの存在で、それを行うようにしたのは、ジンやトリックと同じ世界の秩序を守るべき存在、可変種の一族だ。
そんな話をしている間に、次元を超えた姉妹の視線先には、少女ジンと
少年トリックが、あーでもない、こうでもないと言い合っている。
その言い争いの結果なのだろうか、結局、どうしてこうなってのかは、
わからないが、闘うことになった。
月也とトリック VS. 雪風とジン。戦闘場所は、朱鷺が用意した、ゼロユニバースで。しかも、全力で戦うことになった。朱鷺曰く、本気で戦闘訓練しないと、勝てないレベルの相手が今回のラスボスとのことだ。
純花さんは、
「温かいお風呂と、美味しい晩御飯作って待ってるから、死なないで
帰ってきてね。」
と笑顔で祝福でもするかのように送り出してくれた。
ゼロユニバースの世界は、時間が止まっているゼロ空間と同じだが、違いは、どの次元からもアクセスできる場所。つまり、ここならば世界を崩壊させることなく、もう一人の可変種とも、その後ろのラスボス的存在を呼び寄せても戦える領域ということになる。
戦闘開始になった。どちらも声優スキルを持ち、そのスキルを具現化できる可変種が武器となりシールドになる。もちろんこれまで演じた役が違うので、戦い方も違うし、元々、月也は体力型、雪風は戦略型である。ゴールド聖闘士同士の1000日戦争の如く、この戦いは予測不可能である。
いきなり月也は、アニメで演じた黒魔女王に変幻し、全身を青い炎で包むと、世界を焼き尽くす十字架型のエネルギー砲をぶっ放した。直撃を受けた雪風は、はるか数キロ先まで体を焦がされながら、吹っ飛ばされたものの、ユッキーがアニメで演じたアテナになり、ギリシャ神話アテネ最強の盾、イージスを構え、致命傷を防いだ。
ユッキーは、マジな戦いは初めてだったが、宝具なら自分もたくさん持っているとばかりに、西洋の若き騎士に姿変えて、槍を構えると、それお空中に放り上げ、回転しながら両脚で掴むと、追いかけて来たそ月也めがけて、それを投げた。危険を察知した月也は、アーサー王物語で演じたガラハットになり、純白の盾、魔法の盾を構えた。しかし、その盾ごと、つまり、トリックと月也は、魔の槍、ゲイボルグに貫かれてしまった。かろうじて急所は外れたものの、月也は追い込まれた。
再度、高速の魔槍ゲイボルグが襲ってきた。月也は、まさかこんなマイナーな仕事が役立つとはと微笑みながら、国王クルーファになり盾を構えた。
ユッキーは、ゲイボルグを防げるなんて甘いぜ姉さんと叫びながら、粉砕される魔槍を見て唖然とした。オハンの魔法の盾だった。その一瞬の動揺をついて、ツキヤは、ゲームキャラで演じた英雄ジークフリートになり、聖剣バルムンクで、ユッキーの纏っていた魔法の鎧ごと粉砕した。
ここで今日の戦闘訓練終了。ゼロユニバース時間で三日過ぎていたが、ボロボロになって神社に戻ると、
純花さんは、
「あら早かったわね。まだ二時間くらいかしら、
お風呂入ってのんびりしててね。」と微笑んでくれた。
多分、両方の妹が死ななかったのは、純花の祝福という能力なのだろう。
そんなことが起きている時、朱鷺ことトトは、夢を見ていた。
はるか遠き昔の若き頃の夢であった。
「なぁトト、俺たちイモータルのいない次元なんて
信じられるか?つまり、神がいない世界だぜ。」
「なぁ、アヌビス、今日は洪水で死者の魂がてんこ盛りだから、
サボらずに冥界送りしないと、こいつらが悪霊や死霊に
なって人間界は大騒ぎだぞ。」
「分かっているけど、教えろよ。お前、次元と時間の専門家
なんだろ。知っていること教えろよ。」
「分かったから、手を止めずに働きながら、聞けよ。アヌビス。
まず、次元転移は禁断だ。次元の先に同じ自分がいたら、
どちらか、もしくは両方が消滅する。
次に、次元が違えば、役者は同じでも芝居が違う。
例えば、ここではイモータルな神でも、
次元の先では、俺が喫茶店のマスターで、お前が客とか。」
「マジか、面白え、俺はずっと不死の研究ばかりしてきたんだ。
理由は、この冥界の番人なんて仕事嫌だからだけど、
俺たちイモータルに死は存在しないだろ。一時的に消滅しても、
復活する。つまり不滅だ。でも、人間は違う。すぐ死ぬ。
だから、人間も不死にしたら、魂を冥界に送る俺たちも
必要なくなるし、人間も不死なほうが嬉しいだろ!
素晴らしくないか?」
トトは、日本に渡って朱鷺と呼ばれるようになって初めて昔のことを夢見た。このゼロ時間領域では見るはずない夢を。
「アヌビス、お前、誰に操られているんだ!?」
ふと、トトの頭の中に不吉な口に出すべきでない名前が浮かんでいた。
アヌビス、不死の望み、不死、富士、藤、藤御門神社、
不死の帝の社。
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