キャラシティオーバー ~ 女子高生が始める少年剣士生活 ~
舞知崚博
プロローグ 異性への憧れ
タイトルに異性への憧れとはあるものの、彼女の場合それは別に愛情が芽生えているとか気になる男子がいるとか、そういうのではない。
簡単だ。
それを思い始めて五年目。高校二年生になった今でも思いはより強まっているだけであり。
「いいな男子は。馬鹿みたいにはしゃげて」
コンビニの角でカードパックを開封して、まるで誕生日パーティのような賑わいを見せる男子高校生達を眺めながら、廻はため息まじりにそう呟いた。
「赤ちゃん。赤ちゃんにには赤ちゃんなりにいい所がありますよ。女性としてね」
一緒に下校している女子生徒がそうなだめた。
「ほんと生きにくい世の中だよ。二次元しか勝たん。そう、あたしはねオタクなんだよ。本当は好きな物の為にああやって感情を出して喜びたい。けれど、黒髪ポニーテールでチビで特別可愛くもないあたしなんかが、オタク精神丸出しで喜んでいたら絶対に白い目で見られる。女だと『うるさい、可愛くない』となる言動が、男だと不思議な事に『また馬鹿やってるな』で済まされるんだ。――って、ごめんね。何回言うんだよって感じだよね」
「わたくしもオタクですから。赤ちゃんの気持ちお察しします」
「いやいや、
「あら。赤ちゃんだって可愛いですからね」
「それは世玲菜ちゃんの目が腐っちゃったんだよ。長い付き合いだからね。いい? 改めて言うけど世玲菜ちゃんの笑顔が500円でオーダーされるのが基準だとしたらあたしの笑顔は0.02円だから! そういうことなの! 釣り合ってないんだよ!」
「わたくしは好きですよ。こうやって二人でいるの」
「……うん。……あたしもそれは好きだ。あんたは何でも許される。だからこそこうやって一緒にいてくれてありがと」
二人は笑い合った。
いつもと変わらない日常。帰りの風景。時間。道。信号機。
「さあ、今日は『ナイトブレード』の放送日! また通話しながら考察会議だからね!」
恒例の宴を約束し、交差点にさしかかった時だ。
カードパックを開けていた男子らが喜びながら真横を駆け抜け、道を横断して行った。
「あぶな! くそ。ここで何か言ってもチビな女なんて相手にされないんだろうな」
「赤ちゃんなら豆柴が吠えるくらいの威力はありますよ」
「いやそれ何にも助言になってないし! ――っていうか世玲菜ちゃん!!!!!
――赤信号!!!!!」
廻の必死な叫び声と同時に響き渡る、タイヤの擦れる高い音。
周囲を一気に震撼させ、凍り付かせた。
大好きな親友を助けようと伸びた手と、目前に迫ったトラックの正面を最後に、
廻の視界は暗闇に包まれた。
……
……
……『んはぁ!?』
ザバァン!
全身が熱い。視界が煙に包まれたように白い。
「……お風呂?」
廻の意識は、大浴場のような場所で湯に浸かった状態で戻っていた。
「どこだ……なんで銭湯なんかに……」
体の感覚も戻ってくると、いろんな情報が流れ込んでくる。
耳には男の声。
目には男の体。
蒸気が薄れ、一人の青年の裸体を目の当たりにした時、廻は思わず声を上げてしまった。
「ええええええ! お、男湯! ごめんなさいいい! わざとじゃないんです!」
今、彼女の頭に周囲の迷惑を考えられる余裕などない。
プールのように湯を泳ぎ出ようとするも、自身も裸であることからタオルを探し始める。
――が、タオルなどない。
これじゃあ隠すものが隠せない。
覚悟した廻はまたもや叫ぶのだった。
「絶対に見ないでください! 見たらSNSで晒すぞ!!!」
そして廻は一歩、湯から足を出した。
すると、謎の違和感で体を止めたのだ。股間を出しているにも関わらずだ。
声、足の筋肉の使われ方、腕の太さ、そして股間の違和感。
すべてが自分自身のものでないと整理がつくのにそう時間はかからなかった。
近くにあった鏡まで猛ダッシュし、見た自身の顔で腰をぬかす。
「あたし……男になってる……」
性転換し、全く見知らぬ黒髪青少年になっていた廻。
異世界に来たことなど知らない彼(彼女)の背後に、一つの影が忍び寄っていた。
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