2章05 『嘘と誤認のスパゲッティ』 ④

 数秒の静寂――



 しかしそれ以上の沈黙を弥堂は許さない。




「――答えろ。お前がY'sだな?」


『…………』




 重ねられた問いに観念したようにエアリスが口を開く。



『……ちなみに、聞いてもいいかしら?』


「なんだ」


『どうしてそう思ったの?』


「どうして?」



 弥堂は眉を寄せる。


 それは質問に質問を返されたことからの不快感ではない。



「どうしても何も。言動がまるっきり同じなんだが?」



 わざわざ答える価値のない問いだとばかりに弥堂は呆れを表す。



「で? どうなんだ?」



 茶番には付き合う気はないと、さらに問い詰めた。



『……そうね。多分たまたま口調や言葉のチョイスが似ていただけだと思うわ。ユウくんの言うことを否定するのは心苦しいのだけど――』


「――お姉ちゃん」


『――えっ?』



 弥堂は手の中のブラジャーをジッと見つめる。



「どうしても知りたいんだ。教えてくれよ、姉ちゃん」


『――はいはいはいはいっ! ワタシィーッ! ワタシでぇーっす! ワタシがやりましたー!』


「チッ、しらばっくれようとしてんじゃねえよ、クソ女が」


『あああ愛が重いぃぃぃぃっ⁉ ありがとうございますぅ!』



 虚偽を報告しようとしたおブラを床に叩きつけて足で踏み躙ると、彼女は何故か歓喜の声でお礼を述べた。



「で、お前がY'sでいいんだな?」



 一頻り仕置きを与えてから改めて確認する。



『そうね。「お前はY'sか?」と聞かれれば、その答えは「YES」になるわ』


「随分と持って回った言い回しだな。どういう意味だ?」


『フフ……』



 弥堂が眼を細めるとエアリスは意味深に笑った。



「…………」


『…………』



 再び沈黙が流れる。



「…………」

『…………』


「……おい」

『なぁに? ユウくんっ』


「答えろよ」

『えっ?』


「お前……、とりあえず意味ありげに余裕ぶりたかっただけか?」

『え、えぇっと、それは……』


「裁断するぞてめえ」

『ゴ、ゴメンなさいぃぃぃっ! ミステリアスなお姉ちゃんだと思ってもらいたかったのぉぉぉっ!』


「きっちり答えろ」

『あぁぁ……っ、お姉ちゃんの、裂けちゃうぅぅ……っ⁉』



 左右のカップを引き千切ろうとするとエアリスはやっと白状する気になったようだ。



『……わかりました。はっきりと告白します』



 居住まいを正し澄んだ声で彼女は言葉を選んだ。



『ユウくん――I'm yours.ワタシはアナタのモノよ


「Y'sというのはその略語か?」


『えぇ』


「そうか。ネットの操作などはどうやってやっていた?」


『ふむ……、そうね。ユウくん、悪いんだけれどスマホを出してもらってもいいかしら?』


「スマホ?」



 弥堂は要求されたとおりに自身のスマホをポケットから取り出した。



『魔眼を――』


「なに?」



 反射的に魔力を操作して【根源を覗く魔眼ルートヴィジョン】を起動する。



「これは……」



 キラキラと煌めく霊子の糸が何本か、しましまブラジャーの青い宝石から伸びて弥堂の持つスマホに触れる。


 すると、弥堂のスマホが起動し画面の中で勝手にメールアプリが立ち上がった。



『えぇっと……、「加山 修二」、ホシはこいつね……』



 エアリスが呟くと今度はwebブラウザが勝手に動いてどこかのサイトを表示する。


 映ったのは空白のページ。


 しかし何秒かすると画面が更新され、そこには何枚かの写真画像が表れた。



「この写真は……」



 弥堂の呟きに応えるように写真が拡大表示される。


 それに映っているのは一組の男女が腕を組んで見覚えのある繁華街のラブホテルから出てくる場面だった。



「……これはどういう絡繰りなんだ?」


『んー……、そう、ね――』



 弥堂の問いに、エアリスは言葉を選んでから回答した。



『普通は検索エンジンにこんな一般人の名前を入れて検索しても、個人情報なんて出てこないのよ』


「そうなのか?」


『えぇ。例えば過去にネット上で何か騒ぎを起こして反感を買ったせいで身元を特定され晒されたとか――あとは刑事事件を起こしてニュースとしてネット上に名前が出たことがあるとか――そういうことがない限りは普通は情報は出てこないの。自分でアップロードしちゃうようなおバカさんもたまにいるみたいだけど、そんなのは稀だし。ましてや、こんな風にピンポイントな最近の浮気現場の証拠写真なんて……』


「だが、廻夜部長は『プープル先生はなんでも知っている』と言っていたぞ。だからプープルで検索すればなんでも情報が出てくるのだと思っていたんだが……」


『い、いや、それはネットミームというか……。プープルは確かに世界規模の巨大企業だけど、そうやって何でも個人情報流出させちゃったら、そんなものの存在は許されないし……』


「……まぁ、そうだな」


『あのねユウくん? あまりあの男の言うことを真に受けない方が……』


「貴様、不敬だぞ。貴様も彼の部下なのなら発言に気をつけろ」


『え?』


「あ?」


『まぁ、うん……。とにかく、そういうものなのよユウくん』


「そうか」



 ファンタジーな異世界生まれの聖女さまは、日本産原始人のプライドを傷つけないように慎重に検索の仕組みとネットリテラシーについて教えてあげた。


 日本人の民度の低下が嘆かれる。



「普通は出来ないのならこれはどうやっているんだ?」


『まず、役所のデータにハッキングをしかけて、依頼対象の名前と住所とかで個人を特定するの。それから手に入れたマイナンバーとかも使って今度は税務署から職場を特定。確定申告されていればそこに書いてあるから』


「なるほど……」


『家と職場がわかれば通勤手段が絞れて行動範囲も絞れる。電車を使っていればわかりやすいわね。鉄道会社から定期券の購入やICの利用履歴を盗んで利用駅を特定。電車じゃなければ陸運局などから自動車の所持がないかを調べるわ』


「今の一瞬でそれをやったのか?」


『えぇ。ほぼ並列して作業を処理しているから。そうして行動範囲がわかったら次は警察よ。その範囲で男女が遊ぶような場所の防犯カメラの録画映像を漁って見たり、あとああいう連れ込み宿って盗撮カメラが仕込まれていることもあるから。ネットと繋がってるヤツなら乗っ取れるし、そうでないのならそういう系の裏サイトにアップロードされた動画を探したりもできる。そういう手段を駆使して写真を手に入れていたの』


「……なるほど」



 あまり何を言っているか理解出来なかったが、弥堂はとりあえず頷いておいた。


 そして残った疑問を聞いてみる。



「それがなんで検索すると出てくるようになったんだ?」


『予め他からはアクセスできないサイトを作っておいて、そこに画像を貼ったの。それでユウくんが検索をするタイミングに合わせて一時的にPCを乗っ取ってそのサイトを表示させて誘導。用が済んだらそのページは消す……って感じね』


「そうか。よくわかった」


「えっ……? ジブン今大変な犯罪の供述を聞いてしまったのでは……?」



 弥堂がわかったフリをする横で、か弱いネコさんはプルプルと怯えた。



『本当はPCを乗っ取った時にメモ帳とかに文章を表示させたりとか、勝手に作った捨てアドからメールを送信したりとかで、ワタシの存在をユウくんに報せることも出来たといえば出来たのだけど……』


「あぁ……、そうだな。それをやったら間違いなく俺は疑ってPCを破壊していただろう」


『意図したわけじゃないけれど、結果的に騙すようなカタチになってゴメンなさい』


「…………」



 真摯に謝罪を告げるエアリスを咎める言葉は弥堂にはなかった。



 今聞いた話があまり理解出来なかったこともある。


 しかし、それよりも――



 これまで自分の仕事の成果だと思っていたことも、自分はIT技術を使いこなしていると思っていたことも。


 その全てがお姉ちゃんを自称するストーカー女のお世話あってのものだったことを知り、何とも遣る瀬ない気分になっていたからだ。



「な、なぁ、少年。これヤベエんじゃねえんッスか?」



 弥堂がふと宇宙について思いを巡らしかけた時、メロに袖を引かれて現実に戻される。


 ジャージに毛がつくからやめて欲しかったが、言い分に関しては「確かに」と頷く。



「おい、このハッキングとやらは足がつかないのか?」


『それは大丈夫よ』



 エアリスに尋ねると彼女は即答した。



『便宜上ハッキングと呼んだけど、一般的なそれとは多分違うのよ』


「多分? どういうことだ?」


『そもそも、どうやってワタシがスマホを操作しているかなんだけど――』



 言いながらエアリスはまたスマホを動かしてみせる。


 ホーム画面上で端末の音量を表すバーが上下に動き、Wi-FiやBluetoothのON/OFFが連続で切り替わる。



『――これ霊子の糸で干渉して直接動かしているのよ』


「霊子で? そんなことが可能なのか?」


『霊子ってどうも電気だか電子だかと相性がいいみたいなの。というより、そもそも全ての物質に含まれている根幹でもあるから、理屈上は当たり前といえば当たり前なのだけど……』


「だからといって出来るとは思えんのだが。糸を耳に突っ込んで脳に命令を送って他人を操るようなものだろ? 他の“魂の設計図アニマグラム”への干渉や支配になるんじゃないのか?」


『それは言い得て妙ね。それに近いことだと思うわ。試しに通りすがりの人間にやってみたこともあったけど、それは出来なかった』


「生物かどうかの差か?」


『それもあると思うのだけど、動作の仕組みも重要ね』


「仕組み?」



 眉を寄せる弥堂にエアリスは説明する。



『例えば自転車があるじゃない? あれはペダルを漕ぐと前に進む。そういう仕組み。だけど、そのペダルは自分で漕がなければならないわね?』


「そうだな」


『ペダルを漕ぐという動作をするにはまずユウくんがそうすることを意思決定して、脳からそういう命令を電気信号として身体に送り、そして動作する。そして実際に自転車を漕ぐにはユウくんと自転車が接続されている必要もある。簡単に起こっている自転車を漕ぐという行為には、実際にはこれだけの過程がある』


「それはそうだろうが、だからそれがなんだ?」


『つまり、自転車を動かすという動作のスタート。起動するための最初のプロセスは電気信号の送信、ということになるわね? ワタシが霊子で干渉して行えるのはこの電気信号の操作なのよ。まぁ、人間が脳から電気信号を送って自分を動かしていると知ったのはこの世界の知識に触れてからなのだけど』


「だが、他の人間は動かせないのだろう?」


『えぇ。おそらくそれが出来ない何かしらのルールがある。でもユウくん。電気信号で動くのは人間だけじゃないわよね?』


「そうなのか?」


『えっ? あ、あの、その……、実はね。ハーバード大学の秘密の論文を盗み見したら、なんとそこにはPCなどの電子機器が電気信号によって動いているという驚きの事実が隠されていたの……!』


「へぇ」



 聖女さまは推しのプライドを傷つけないために気を遣って嘘を吐いたが、本人は至極どうでもよさそうに返事をした。



『んんっ、つまり疑似的に電気信号を起こして命令コマンドを送り、ワタシは電子機器を操ることが出来るの!』


「要はそれだけで完結出来ない物は操れないということだな。他の労力が必要なものは……」


『えぇ。出来ないし、電源が無ければ当然動かせない。あとネットで繋がっていない物にも基本的には侵入できないようね』


「で? それで何故足がつかないことになるんだ?」



 弥堂はいまいち理解出来なかったので元の質問に戻した。



『普通にハッキングをする場合、相手の端末やデータ内の管理権だかを騙したり乗っ取ったりして、プログラム?を打ち込んで命令コマンドするみたいなんだけど……、ここで魔法の理論を思い出してみて』


「魔法の?」


『周辺の魔素の支配権を奪って自分のモノとし、それらに自分の描く魔法のとおりの動作をさせる。これって少し似ていると思わない?』


「そう言われるとそのように思えるが……」


『ワタシはそういう感覚で操作しているわ。そしてインターネットで繋がってさえいれば、そこから他の機器にも影響をしていける。通常のハッキングのように相手の防壁を壊したり抜けたりする必要が無いから足跡が残らないの。当然勝手にデータを消したりしたら、それが消えたという結果は残るけど、それをワタシがやったという痕跡は一切残らない』


「俺の端末からアクセスしたという証拠も?」


『えぇ。インターネット回線を通ってはいるんだけど通常通り通信でアクセスしてるわけじゃないの。感覚的な話になるけど、回線を通じてそこまで糸を伸ばしているような感じね』


「俺にはあまりピンとこないんだが、それはこの世界では相当逸脱したチカラなんじゃないのか?」


『そうね。やろうと思えばかなりのことが出来るわね』


「俺の口座に100億円入れるのは?」


『それは難しいわね』



 弥堂が思い付きで頭の悪い金額を口にするとエアリスは難色を示した。



『出来るか出来ないかでいえば出来るわ。でもその100億円はどこかから持ってくるか、何もないところから勝手に作り出す必要がある。そうするとそれを行った形跡とお金の流れが記録として残っちゃうわ。だからその後が安全だとは言えない』


「なるほど。やるとしたら口座に金を入れた瞬間に全部引き出してそのまま高飛びするしかないのか」


『あまり好ましくないわよね。ATMじゃ金額の上限があるし、窓口でいきなり大金を引き出そうとすれば怪しまれる。それをやったことで余計に後の行動に制限が増えるケースが多いし』


「そんなウマい話はないということか。まぁ、そんなもんだろ」



 働かずに100億円を手に入れることが出来ないと知り、弥堂の興味は失われた。



『それに制限もあるの』


「制限?」


『まずね、ワタシが最初に直接操作できるのはユウくんの持ち物である必要があるの』


「どういう意味だ?」


『その辺を歩いている人間のスマホや、その辺に置いてあるPCに糸を伸ばして直接干渉は出来ないみたいなの。まずユウくんのスマホかPCを介する必要があるの』


「それは何故だ?」


『それは――わからないわ』


「なんだと?」


『わからないけれど、おそらく契約が関係していると思うの』



 エアリスの言葉に弥堂は少し考えてから口を開く。



「お前が聖剣を勝手に刃にしたり触手にしたりしていたのと同じことか?」


『多分そう思ってもらって構わないわ。ただ、結局この結論になるのだけど、今のワタシたちの状況って歴史上例のないことだから……』


「答えがどこにも無いということか」



 ならば考えても意味が無いと弥堂は切り替える。



「俺の所持品かどうかというのはどう判別される?」


『それがいまいちわからないのよね。例えばこないだ県道で捨てた方のスマホあるじゃない?』


「あぁ」


『あれってキャバ嬢のお金で買ってもらって、キャバ嬢の名義で契約してもらって、月々の使用料もキャバ嬢に払ってもらっていたじゃない?』


「そうだな」


「ク、クソヒモやろう……」


「黙ってろ」



 思わずメロが慄くと弥堂はパワハラで黙らせた。



『それでもあれはユウくんの持ち物として判定されているようなの。でも、学園のPCをユウくんが触っている時に直接干渉しようとしたらそれは出来なかったわ』


「魔術的な契約が電子機器との間にあるわけでもないし、確かに判然としないな」


『二代目のノートを漁ってみたら、彼の発明した魔導具に似たような例があったから、それと照らし合わせて契約者であるユウくんの所持品であることが条件と解釈をしたんだけど……。そもそも向こうの世界にはなかったルールのような気がするのよね……』


「なるほどな」


『とにかく。そういう手段でずっとユウくんをサポートしてました』


「そうか」



 そこで一旦話が途切れ、弥堂は新たに得た情報を精査する。



 先程も考えたことだが、これまで自分でやっていたと思っていたことが、エアリスありきで成立していたということを知った。


 魔術や他の技の制御だけでなく、日常の電子機器の操作までも自分一人では満足に行えていなかったという事実が明るみにでる。


 先日の悪魔との決戦の最終局面まで、彼女が存在していていつも傍で支援をしてくれていたことも知らなかったが、何から何まで役に立っていたようだ。



 とはいえ、自分の知らない間に勝手にスマホやPCを操作されていたというのは何とも気味が悪い。


 マルウェアだのトロイだのがヤバイとたまに聞くが、もしかしてこいつはそれよりもタチが悪いのではないかと疑う。



 だが――



「――要するに、今後は同じようには出来ないということだな?」


『ユウくんがワタシを持っている時以外はそうね。ところで、Y'sに何をさせたかったの?』


「ドローンだ。病院周りに配置して水無瀬の警備を強化しようと考えた」


『ふむ……、場合によっては出来なくもないかもしれないわね。それでも、以前みたいにリアルタイムでフルタイム稼動させられるかと言われると難しいけれど……。少し解決案を考えてみるわ』


「そうか」


『そこで、ユウくんにお願いがあるのだけど』



 無理なら諦めるかと切り替えようとしたところでエアリスから提案を持ち掛けられる。



「なんだ」

『スマホを買って欲しいの』


「誰に?」

『ワタシに』


「…………」



 何を言っているんだこいつはと、弥堂は顔を顰める。



「駄目だ」


『どうして⁉』



 そして即座に却下すると、エアリスさんはガーンっとショックを受けた。



「貴様、ブラジャーの分際でスマホ持ちになりたいとか世の中をナメているのか?」

『そんな、ヒドイわ!』


「道具が道具を持ちたがるな。弁えろ」

『だって! 他のブラジャーだってみんなスマホ持ちじゃない!』


「ブラジャーがスマホを持っているんじゃなくて、ブラジャーを着用している女どもがスマホを持っているんだろうが」

『それじゃあまるでワタシが他の女よりも劣っているみたいじゃない! 初代聖女なのに! ワタシはその辺の女どもより位の高い女なの! 遥かに上のステージにいるの! だって聖女だから! なのに庶民の女ども以下の生活環境なんて耐えられないわ……っ!』


「あ、おい――」



 突然自分はグレードの高い女なのであるとヒステリックに喚き散らした聖女さまは、怒りのままに触手を創り出しそれを廊下の方へと伸ばす。


 弥堂はそれを制止しようとしたが間に合わず、触手はウニョウニョと廊下を進んでいった。



 すると――



「キャアァァアーーッ⁉ イヤァーーッ!」



 廊下の方から甲高い女の悲鳴が響く。



 弥堂とメロは急いでランドリーの出口へ走り、廊下の中を覗いた。



 そこで眼に映ったのは数本の触手に絡めとられる若い女性だ。


 不運にも通りがかってしまったらしい。



 右腕と左足をそれぞれ触手に巻き付かれ宙に吊られ、無防備になった胴体に一回り太い触手が這う。


 パニックを起こして悲鳴を上げようと口を開けると、別の触手が捻じ込まれ口を塞がれた。



 そうして罪もない女性の自由を奪うと、さらに新たな触手がシュルシュルと近づき女性のハンドバッグへと伸びる。


 どうやら聖女さまは通りすがりの一般人に強盗を働き、スマホを奪うつもりのようだ。



「おい、行け――」


「こ、こりゃニャベーッス……!」



 弥堂が命じるとメロは慌てて走りだした。


 そして――



「――ねねねねねね、ネコさんフラーーッシュッ!」



 本日何度目かのネコさん魔法により、病院の廊下が眩い光で包まれる。


 この日のここまでの出来事だけで考えると、意外とメロが一番役に立っているのかもしれなかった。


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